投資による創業支援とは? 社会課題解決に取り組む起業家を応援する「信州スタートアップ・承継支援ファンド」<前編>
創業初期の起業家にとって、ハードルの一つとなるのが資金調達。自己資金でまかなう、金融機関から融資を受ける。そのほかに、「ファンドを利用する」という選択肢があることを知っていますか?
ファンドは、投資家から預かった資金をベンチャー企業へ投資する役割を持ちます。投資の対象は会社を立ち上げたばかりの企業が多いため、ファンドの運営者は起業家の思いをじっくり聴き、事業の将来性を見定めて投資を行っています。
これまで数多くの地方創生ファンドを運営してきた、株式会社フューチャーベンチャーキャピタルの石坂 颯都(いしざかりゅうと)さんに、投資による創業支援とはどういうことか、どんな事業が投資対象になるのか、長野県の創業の傾向などを聞きました。
<お話を聞いた人>
株式会社フューチャーベンチャーキャピタル
東日本投資部 次長 インベストメントオフィサー 石坂 颯都(いしざかりゅうと)さん
外資系生命保険会社を経て入社。地域活性化や社会課題の解決に取組む起業家を応援したい思いで業務に従事している。案件発掘から投資育成、ファンド組成まで幅広く経験。複数EXIT実績あり。自治体アクセラプログラム審査員等も担う。
「地方創生」をキーワードに、投資による起業家支援・創業支援を
――フューチャーベンチャーキャピタル株式会社(以下FVC)について教えてください。
FVCは、1998年に独立系ベンチャーキャピタルとして京都で創業した会社です。現在は、東京都、岩手県、愛媛県にも展開しています。
ベンチャーキャピタルとは、いわゆるベンチャー企業など未上場の新興企業に出資して株式を取得し、将来的にその企業が上場した際に株式を売却することで利益の獲得を目指す投資会社や投資ファンドのことを指します。なかでもFVCは、創業当時から「地域活性化」や「地方創生」をキーワードに、投資による地方の起業家支援・創業支援を行ってきました。
――「地方創生」に力を入れているのですね。
一般的な投資会社は、東京などの都市部に拠点を置いて、大きく羽ばたくような企業の支援を中心に行っているところが多いのですが、FVCは、地域の課題解決や、新しい事業に取り組むローカルベンチャーの支援を続けています。
具体的には、地域のベンチャー企業を支援するための「地方創生ファンド」と、事業会社のオープンイノベーションを促進するための「CVCファンド」、ものづくり企業など特性のあるテーマに特化した有望なベンチャー企業に投資を行う「テーマファンド」の運営に取り組んでいます。また、資金を投入するだけでなく、長期的な事業継続に向け、事業育成、人材育成、事業コンサルティングなどの支援も行っています。
長野県での創業に寄り添う、「信州スタートアップ・承継支援ファンド」を運営
――FVCが長野県で運営している、「信州スタートアップ・承継支援ファンド(以下、信州SSファンド)」について教えてください。
信州SSファンドは、長野県内の地域金融機関等とFVCが共同で設立したファンドです。 創業・第二創業期にある企業や事業承継における後継者の株式買い取り問題を抱える企業に対して投資による資金供給を行うことで、地域経済の発展と新たな雇用を創出することを目的としています。
従来のベンチャーファンドは株式上場を前提としているものが多いのですが、当ファンドは必ずしも上場は前提としない点が特徴です。
――上場を前提としていないのはどうしてですか?
まず上場とは、証券取引所で株式が売買されるようになることです。株式を上場させると、会社はお金をたくさん集めることができるようになり、上場することでその会社は世の中の人に認められ、ビジネスがしやすくなります。
東京では、上場を目指して起業する方が多いのですが、長野県は必ずしもそうではない。それよりも、起業を通して自己実現をしたり、社会課題の解決をしたいという方が多いんです。そのため、信州SSファンドは、長野県で創業を目指す方に寄り添い、上昇を志向する起業家の方の支援も行いつつ、必ずしも上場を前提としないファンドを運営しています。
――長野県における創業にはそんな特徴があるのですね。信州SSファンドの利用者は現在どれくらいいるのですか?
運営を始めてから約2年間で、「ファンドを使いたいです、興味があります」とお問合せをいただいた件数は100社を超えました。その中で、実際に支援に至ったのは14社です(2024年5月現在)。アイデアの段階の起業家から事業計画をしっかり練った起業家まで幅広くお問い合わせをいただいています。
入口は様々ですが、「創業にあたり資金調達に困っているが、融資ではなかなか支援しづらい」となった場合に、SSSや長野県内の金融機関から「信州SSファンド」におつなぎいただくケースが多いですね。
投資では、ビジネスの新規性が重視される
――「融資では支援しづらい」とはどういうことですか?
まず、融資とは「利息の獲得を目的としてお金を貸すこと」であり、返済の確実性が重視されます。例えば、美容師の方が「長野駅前で新しく美容院を始めたい」という場合は融資の検討対象になります。逆に、まだこの世にないサービスや、新しい価値を生み出すビジネスモデルの場合、確実に収益が得られるかの判断ができないため、金融機関による融資の支援は難しくなるんです。
――誰もが知っているビジネスモデルで、確実に利益が出そうであれば融資による支援が受けられると。
その通りです。一方で、私たちが行う「投資」とは、将来的な利益を期待して資金を融通すること。事業の成長性を重視するんです。そのため、融資とは逆に、どんな事業内容であれ何かしらの新規性が必要です。
例えば、「善光寺の近くにコワーキングスペースを作ります」という方に投資をするのは難しい。ですが、例えば「長野県内のコワーキングスペースを網羅し、ワークスペースや会議室を予約するシステムを開発します」という事業であれば、新規性があるので投資対象となるかもしれません。
――なるほど。投資を受けるには、既存のビジネスモデルにはない新規性が大事なのですね。
とはいえ、「こんなアイディアがあります!」だけでは、投資をすることは難しいです。まだ実績はなくとも、ビジネスが何かしらの形になった段階であれば支援することができます。新しく会社を設立した上で、サービス、もしくは商品がひとまずできた段階ですね。
――実際に、信州SSファンドの支援を受けるにはどんな流れになりますか?
まずは信州SSファンドのご利用申し込みをいただき、投資担当者との面談を経て、投資申請書類をご提出いただきます。その後、事業計画の検討を経て投資委員会が開かれます。ここまでに3ヶ月ほどの期間を要します。
――「今すぐ資金をください!」というわけにはいかないのですね。
はい。投資をすることが決定してから、実際に投資を行うまでにかかる期間は手続きにより異なります。その後の伴走期間は企業の成長ステージや目指す姿によって異なります。
投資による資金面の支援を行ったあとも、信州スタートアップステーションと連携し、事業を成長させていくための伴走支援を行います。
――伴走支援というのは、具体的にどんなことをするのですか?
会社の設立や事業立ち上げに必要な経営ノウハウをお伝えしたり、産学連携やビジネスマッチング、公的支援機関を紹介するなど、事業を成長させるための各種経営支援サービスを提供します。
例えば、3年間で急成長を遂げる企業もあれば、10年間かけてゆっくり成長していく企業もあります。3年間を目処に回収させていただくお約束で支援を始めたとしても、なかなか事業がうまくいかずに、3年間を過ぎても継続してその後も支援させていただくというケースもあります。
我々の業界では、投資による支援を「同じ船に乗る」と表現します。事業者さんと一緒になって、目指す先へ向かっていくイメージです。
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インタビュー後編では、実際に「信州SSファンド」の支援を受けて起業したケースや、長年投資による伴走支援を行ってきた石坂さんの創業支援にかける思いを聞いていきます。