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2024.7.12

美味しく食べられる喜びをすべての人に。ヴィーガン&グルテンフリースイーツのパイオニア、「CocoChouChou」のスイーツができるまで【後編】先輩起業家インタビューvol.2

2024.7.12

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

長野県長野市を拠点にヴィーガン&グルテンフリーのスイーツブランド「CocoChouChou」を営む飯田紗央里さんは、東京を拠点にお菓子教室や商品開発から事業をスタートさせました。長野移住により、ブランド立ち上げという選択肢が一気に現実的になったといいます。

インタビュー後編では、長野移住後の事業展開の仕方や仲間の増やし方、これからの展望を聞きました。

<お話を聞いた人>
飯田紗央里さん
株式会社CocoChouChou(ココシュシュ)代表取締役。こどもの頃の趣味はお菓子作り。 IT企業に就職も、食べることが大好きで、人生を華やかに彩る“食”に携わる仕事を生涯の仕事にしたいと退職。ヴィーガンや食物アレルギーなど、食の制限の問題に気が付き、独学でヴィーガン&グルテンフリーのスイーツを研究し、2017年に「CocoChouChou」を開業。

未開拓の市場をコツコツと切り開く

――インタビュー前編では、「まだ世の中に無いもの」かつ「無いことでみんなが困っているもの」を作るべきなんじゃないかと事業の方向性が見えてきた背景をお聞きしました。しかし、当時まだ一般的でなかったヴィーガン・グルテンフリーに特化したスイーツを開発するのは大変だったのではないでしょうか。

当時、東京でさえまだ「ヴィーガン・グルテンフリー」を謳っているお菓子屋さんはほとんどなかったですし、ネットでレシピを調べて作ってみても、「なんだこれ、おいしくない!」ということがほとんど。「ヴィーガン・グルテンフリー」の市場は、まだ「美味しさ」の競争が起きておらず、「卵・乳・小麦を使ってない」というだけで重宝がられるような状況だったんです。

とにかく、今あるものを食べ比べたり、レシピを試作してみたりしては自分なりに改良を重ねて地道にレシピの開発を重ねていきました。

――カフェのメニュー開発から事業が始まったとのことでしたが、その頃には「いつか自分のブランドを立ち上げたい」という思いはあったのですか?

当時は、フリーランスのお菓子研究家的な立ち位置で、カフェのメニュー開発やコラボの仕事をしていこうと考えていました。最初にメニュー開発に携わったカフェはなかなかお店側の体制が整わず、オープンには至らなかったのですが、東京にいれば今後もこういった仕事は増えていくだろうという手応えがあったんです。

――そこから「CocoChouChou」が生まれたのはどうしてですか?

「CocoChouChou」を立ち上げたのは、長野に移住をしたことが大きいです。事業の方向性が見えてきた頃に私は一度結婚をしたのですが、夫が「長野に実家があるから地元に帰りたい」と言い始めて。長野なら東京より土地代や家賃等の諸経費も安いだろうから、「自分のブランドを持つ」という選択肢が一気に現実的になりました。

バレンタインに向けたスピード勝負! 移住と同時に物件を契約し開業へ

――では、移住後に物件を探して本格的にお店作りを?

移住するタイミングが2016年の冬ごろだったのですが、ちょうどその時に開発していたのが、「ヴィーガン生チョコレート」だったんです。

チョコレートを作っている以上、事業を始めるタイミングとして、バレンタインを逃すわけにはいきませんでした。そこで、移住する前から長野を訪れて内見をし、移住と同時に物件を契約しました。

――とにかくスピード勝負だったのですね。土地勘もない中で物件を探すのは大変ではなかったですか?

土地勘もないですし、長野市の商圏やお菓子業界の状況もわからなかったので、まずは通販事業を主軸に展開しようと決めていました。そこで、まずはとにかく自宅から通える距離で、お菓子を作れる広さがある場所を探しました。

移住後は、菓子製造業の免許が取れる最低限の工事をし、2017年の2月に「CocoChouChou」を開業し、早速商品の開発・製造をスタートさせました。

――はじめから「長野で創業する」と準備や下調べをしていたわけではなく、ご縁とタイミングが重なってのはじまりだったのですね。

実は、長野に移住してから、すぐに離婚をしたんです。でも、既にお店は押さえてありましたし、元からそこまで東京に執着があったわけではないので、東京に帰るという選択肢はありませんでした。

「ここでやっていこう」と軽やかな気持ちで長野に残ったら、幸いにも最初のバレンタインで、通信販売がヒットし、事業も軌道に乗ってきた。そこからコツコツと商品を増やし、ブランドの認知を広げてきました。

――2021年には拠点を移し実店舗をオープンしていますが、通信販売をメインに展開していたところから、直接お客さんの反応を見られるようになった手応えはどうですか?

 まちなかに製造拠点と販売場所を当時に持てるというのは、地方ならではの贅沢な強みだと思います。お客様との接点が持てるというのもやはりうれしいですね。

誰でも、短時間でも活躍できるような製造工程を工夫

――長野での人材採用についてもお聞きしたいです。

販売スタッフ・製造スタッフに関しては、店舗の窓に貼ったチラシや、Instagramのスタッフ募集の投稿を見て連絡くださった方を採用してきました。ありがたいことに、これまで有料の求人広告等を出したことはありません。

また、「CocoChouChou」では、お菓子作りが未経験の方や、事情により短時間しかシフトに入れない方でも、長く働けるようなメニュー開発に力を入れています。

――未経験でもOKとしているのはどうしてですか?

お菓子作りを「職人の仕事」にしてしまうと、1人辞めた時にまた次に採用するのがすごく大変になります。お菓子業界はただでさえ人手不足になりがちだし、長時間労働になりがちな部分があるので、従来とは違うスタイルの働き方を確立できないかと模索しています。

「CocoChouChou」のスイーツは、レシピや製造工程に工夫をしており、お菓子作り未経験の方はもちろん、それぞれに事情がある方が短時間だけシフトに入っても、ちゃんと活躍できるようにしています。

子供が急に熱を出した、親の介護で1ヶ月お休みをしないといけない、自分自身の体調不良など、どんな事情があっても、環境さえ整っていればみんなが働きやすくなる。常に安定的に生産していける環境づくりを目指しています。

――誰もが「美味しく食べられる」スイーツは、誰もが働きやすい環境で作られているのですね。

また、「未経験OK」にすることで、今までお菓子をつくったことがない人が、仕事を通じて新しい世界に触れられるきっかけになればいいなという思いもあります。

マーケティングの領域になると、ちょっと毛色が変わってくるので、副業人材に特化した求人サイトの「YOSOMON」や、「NAGA KNOCK!」で募集を出し、県外の方と業務提携をしています。

――必要に応じて様々な採用方法を組み合わせているのですね。開業後、長野での事業展開について県や市からのサポートは受けましたか?

開業時は特にサポートは受けませんでしたが、開業3年目に当たる年に、信州スタートアップステーションの「信州アクセラレーションプログラム」に第二期生として採択されました。

「信州アクセラレーションプログラム」では、自分と合いそうな経営者の方や、自分よりもう少し高いフェーズにいる経営者の方々と定期的にマッチングしていただき、1〜2時間ほどスポット的に事業の相談をさせていただきました。

会社経営の規模は違えど、経営者同士みんな持っている悩みは似ていると思います。資金繰りのノウハウから、小さな悩み事まで、ざっくばらんに話せる相手が身近にできたのはとても心強かったです。プログラムの期間は3ヶ月間でしたが、当時の同期や、経営者の方々とは今でも仲良くしています。

※1「信州アクセラレーションプログラム」とは……信州スタートアップステーションが取り組む、創業後間もない企業に対する短期間の集中的伴走支援プログラム。

想定外な出来事を、いかに好転させ続けるか

――現在は、飯田さんご自身も「先輩起業家」として信州大学での学生向けの講演や、セミナーに登壇されていますね。未来の創業者の方々には、いつもどんなアドバイスをされていますか?

「あまり計画立てすぎず、まず動き出してほしい」と伝えています。もちろん、最低限生き残るための計画を立てることは大切ですが、事業を進める上で予想通りに物事が進むということはほとんどありません。それよりも、走りながら考えて軌道修正していける人の方が創業に向いているんじゃないかなと感じます。

――飯田さんが事業を進めてきた中で、たとえばどんな想定外の出来事が起こりましたか?

たとえば、コロナが流行することは誰も予想ができなかったですよね。お菓子業界で言えば、原材料がここまで高騰することも数年前は誰も思っていなかった。もっと個人的なことだと、大規模な売上を見込んで出店した東京の催事で、想定していた売上に全く届かず大ダメージを受けたこともありました。

日々がそういうことの繰り返しだから、「100%こうなる」なんて未来はあり得ません。想定外のことが起きた時に、どうやって挽回して好転させるかを常に考える必要があります。

――何が起きてもへこたれず、次へ進める人であること。

そうそう。気持ちを入れ替えて、「じゃあ次!」と進める人なら、きっと創業に向いています。私の場合はむしろ、常に先が見えず、激しく変化する日々の繰り返しだからこそ、飽きずに事業を続けられている気がします。

――最後に、今後の展望や目標を教えてください。

今の目標は、「CocoChouChou」を「みんなが当たり前に食べている人気ブランド」に育てることです。

ヴィーガンやグルテンフリーというのは、当事者ではない人に「私には関係ない」と思われてしまうと思うんです。だからこそ、「わぁ、なにこれ?かわいい!」「このお菓子、すごく美味しい。どうやって作られているんだろう?」と、驚きやわくわくからたくさんの人の目に触れ、みんなに手に取ってもらうことで、市場の規模をどんどん大きくしていきたい。これからも、「食に制限がある人が細々と食べるもの」ではなく、ポジティブなメッセージのあるブランドであり続けたいです。

・CoCoChouChouのホームページ

・CoCoChouChouのオンラインショップ

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2024.7.12

美味しく食べられる喜びをすべての人に。ヴィーガン&グルテンフリースイーツのパイオニア、「CocoChouChou」のスイーツができるまで【前編】先輩起業家インタビューvol.2

2024.7.12

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

「会社員時代は、生活は安定していましたし、会社も仕事も大好きでした。はたから見たら、とても順調なキャリアだったかもしれません。でも、ふと『私は一生こんなふうにして働いていくのかな?』と、立ち止まったんです。」

そう語るのは、「すべての人に『美味しく食べられる』喜びを」をテーマに、長野県長野市を拠点にヴィーガン&グルテンフリーのスイーツブランド「CocoChouChou(ココシュシュ)」を営む飯田紗央里(いいださおり)さん。

会社員を退職後、お菓子作り教室・商品開発からスイーツ事業をスタートした飯田さん。通信販売から始まった「CoCoChouChou」は、現在は長野駅前の実店舗を構えるほか、全国各地のイベントや催事にも出店し、多くのファンを持つ人気ブランドです。

インタビュー前編では、「CocoChouChou」のこだわりと、会社員生活を手放し自分の事業を始めるまでのストーリーを聞きました。

<お話を聞いた人>
飯田紗央里さん
株式会社CocoChouChou代表取締役。こどもの頃の趣味はお菓子作り。 IT企業に就職も、食べることが大好きで、人生を華やかに彩る“食”に携わる仕事を生涯の仕事にしたいと退職。ヴィーガンや食物アレルギーなど、食の制限の問題に気が付き、独学でヴィーガン&グルテンフリーのスイーツを研究し、2017年に「CocoChouChou」を開業。

誰もが笑顔で美味しく食べられるスイーツブランドを目指して

――まずは、「CocoChouChou」が大切にしているお菓子づくりのあり方やブランドにかける思いを教えてください。

「CocoChouChou」のお菓子はすべて、卵・乳製品・小麦・白砂糖不使用のヴィーガン&グルテンフリーです。

「お菓子は体や美容によくない」と我慢している方や、食物アレルギーや健康の事情などで食の制限がある方、菜食主義のヴィーガン・ベジタリアンの方など、誰もが「自分だけがみんなと同じ美味しいお菓子を食べられない」という寂しい気持ちを抱くことなく、笑顔で美味しく食べられるスイーツを作っています。

――健康に配慮したお菓子や、アレルギー対応のお菓子は味気ないイメージがあったのですが、「CocoChouChou」のスイーツはとても華やかで見ているだけでもときめきますね。

まさに、心が華やぐようなおしゃれでかわいいスイーツを作ることも「CocoChouChou」のこだわりです。「これしか食べられないから仕方なく」ではなく、あらゆる食の制限をポジティブに変換して、「美味しいから」「かわいいから」と「CocoChouChou」を選んでいただけるように商品開発を行っています。

――おいしさのこだわりについて教えてください。

白砂糖は使わず、甘みはミネラルたっぷりのメープルシロップやきび砂糖、デーツなどのドライフルーツで、”くどくない”甘みを出しています。また、コクを出すために、良質な脂肪分であるカシューナッツやココナッツオイル、カカオバターなどを使用し、米粉にナッツの粉を加えるなど工夫を凝らしています。

――「CocoChouChou」は、現在どのように展開していますか?

「CocoChouChou」は、通信販売から事業をスタートしました。公式の通信販売サイトのほか、楽天市場、Cake.jpからお取り寄せいただけます。また、 新宿伊勢丹やながの東急百貨店、渋谷ヒカリエなど全国の百貨店・セレクトショップでの催事販売や、マルシェやイベント等の出展も行っています。2017年には、長野市内で実店舗を構えました。

――スイーツの中でも、「ヴィーガン・グルテンフリー」に注目した商品開発を進めてきたのはどうしてですか?

これは創業から数年が経った今でも思うことなのですが、魅力的な商品やスイーツは既に世の中にびっくりするぐらい溢れています。有名なパティスリーで修行した人や、フランスで修行した人たちが次から次へと新商品を出している中で、自分がわざわざ既存のお菓子を作ることには意味が見出せませんでした。

それよりも、まだ世の中に無いもの、それも、「無くてみんなが困っているもの」を作るべきなんじゃないか、と考えて、「ヴィーガン・グルテンフリー」のスイーツブランドを立ち上げることを決めました。

会社員としての順調なキャリアアップがふと怖くなった

――飯田さんは、もともとは会社員として働いていたとお聞きしましたが、「いつかこんなスイーツブランドを立ち上げたい」という思いがあったのでしょうか。

子どもの頃からお菓子づくりが好きで、学生の頃はパティスリーやお菓子作り研究家のもとでアルバイトをしており、「いつかは食べ物に関わる仕事に就きたいな」とは漠然と考えていました。

ですが、会社員として働いていた時も、辞めた当時も、何をするかは一切決まっていませんでした。「会社員生活を断念して、大好きなお菓子の道に戻ってきた」みたいな感覚はまるでないんです。

――会社員の頃はどんなお仕事をされていたのですか?

都内のインターネット銀行に就職し、約7年間ネットマーケティングの業務に携わっていました。会社も仕事も好きで、今でも働いていてよかったと思っています。それでも会社を辞めたのは、「このままキャリアも収入も上がっていったら、もう抜けられなくなる」と怖くなったからでした。

――「怖くなった」というのはどういうことですか?

生活は安定しているし、仕事もやりがいがあって、収入も上がっていく。はたから見たら、会社員としてはとても順調だったかもしれません。でも、忙しい毎日の中で「私は一生こんなふうにして働いていくのかな?」と、不安になったんです。収入もある程度伸びてきていたので、これ以上の金額をもらえるようになったら、きっと手放すのが怖くなってしまうだろうと。

――会社の中で順調にキャリアを積んでいたからこそ、立ち止まりたくなったと。

「手放すなら今だ!」と強く思ったのを覚えています。そこで、先のことも考えずに見切り発車で会社を辞めました。そこから何をするかはまったく決まっていませんでしたが、「まずは辞めないと始まらない」という気持ちでしたね。

――立ち止まることで、一度自分自身をリセットしたのですね。

会社員時代は本当に毎日一生懸命仕事をしていたので、プライベートの充実を優先してこなかったんです。辞めてからの約一年は、貯金を切り崩しながらのんびりと暮らし、今後自分がどのように生きたいのか考えました。

それでも、結局明確な答えは出なかったんです。ただ、「会社員に戻ろう」とは思えなかった。そこで、自由と責任が伴う「起業」という選択肢が浮かびました。

――「自由」と「責任」が伴う働き方が、飯田さんにとって大事なポイントだったのですね。

会社員時代も、より責任の重い仕事、決定権のある仕事をさせてもらえるとやり甲斐を感じていました。全ての決定権と責任を担う起業は、自分に合っているのではないかと思い至ったんです。

「好きなことを仕事にする」というより、働き方の選択肢の1つとして「起業」という働き方を選び、その中で、漠然と好きな食の仕事についた、という流れです。

まずは小さなことから。コツコツと発信してチャンスを掴む

――もともとは会社員をしていたところから、どうやってお菓子の事業を始めていったのですか?

開業資金を貯めていたわけではなかったので、先行投資が必要な店舗経営は選択肢にはありませんでした。幸い、大学時代にお菓子業界に関わっていた経験があったので、プロには全く敵わないけれど、お菓子作りの基礎知識とスキルはあった。そこで、なるべくお金をかけずに小さく始められる展開の仕方を考えて、お菓子教室と商品開発から小さく事業を始めました。

――なるほど、商品を作って売るのではなく、スキルやアイディアを提供するところからスタートしたと。

前職でマーケティングの部署にいたこともあり、メディア系に強い人たちとのつながりも多かったので、「みんなに話したらうまくきっかけを掴めるんじゃないか」と感じたのも大きかったです。

タレントさんを起用してるような事業部の方もいたので、なにか少しでもチャンスが舞い込めば、という気持ちで、お菓子を作っては会社に差し入れに行き、「お菓子の事業を始めようとしているんです」と挨拶して回りました。

――まだかたちになる前の段階から、コツコツと発信をしていったのですね。

最初はとにかく営業活動をしていましたね。まだ会社名もなにも決まっていない段階で、とにかく「お菓子教室を始めるから、習いたい人いるかな?」「商品開発、メニュー開発の仕事を探してる人いないかな?」と呼びかけながら自分の作ったお菓子を配り歩いていました。そうしたら、前職の関係者の方がカフェの商品開発の仕事を持ってきてくれたんです。

――早速チャンスが! 飯田さんが会社員時代にお仕事を一生懸命やっていたからこそ、退職後も応援してもらえたように感じます。

本当にありがたかったですね。そこでご紹介いただいたのが、東京の麻生十番で新規オープンする予定のカフェだったんです。麻生十番には大使館がいくつもあり、海外の方も多く暮らしているエリアなので、ヴィーガンやグルテンフリーに対する考え方が日本の中でも早くから根づいている地域でした。

実際にそのカフェに採用された店員さんの中にも、ヴィーガンの方がいて。そこで初めて、「そうか、卵・乳・小麦を使ってしまうと、ヴィーガンやグルテンフリーを選ぶ人たちは食べられないんだ」と気がついたんです。その頃、ちょうど食品アレルギーの問題も注目されていた頃だったので、そこからヴィーガン・グルテンフリーのお菓子を開発し始めました。

――たまたま掴んだ仕事のチャンスが、ヴィーガン・グルテンフリーの世界に踏み込むきっかけになったのですね。

そうなんです。メニュー開発を進める中で、感度を上げて周りの声を聞いていくと、「みんなと同じお菓子が食べられない」「楽しく美味しいお菓子が食べたい」という声が聞こえてきて。

ただ「美味しいお菓子」を作るのではなく、「悩んでいる人たちの課題を美味しいお菓子で解決する」方がいいんじゃないか、と自分の進むべき方向性が見えてきました。

・・・

インタビュー後編では、長野移住と、事業をかたちにしていくまでの過程や仲間の増やし方、これからの展望について聞きました。

・CoCoChouChouのホームページ

・CoCoChouChouのオンラインショップ

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2024.7.5

まちなかパワーアップ空き店舗等活用事業補助金

主催:長野市商工労働課
募集期間:2024/07/04
2024.7.5
資金調達(投資/融資)を検討している

長野市

長野市中心市街地(長野・篠ノ井・松代)の空き店舗・空き家・空き倉庫等を賃借して出店する事業に対し、改修・改築費及び附帯設備の設置に要する経費を補助するもの。

補助率1/2 補助上限額30万円(ただし、市が指定する通り沿いへの出店に対しては50万円)

https://www.city.nagano.nagano.jp/soshiki/skr/87276.html

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2024.6.28

「はたらく」を 小さく わたしらしく つくりだす 学生起業のすゝめ

主催:SSSW
2024.6.28
イベント/セミナー/研修を探している とりあえず事業の相談がしたい

県内全エリア

こんにちは〜!
SSSWのコーディネーターをしている合同会社キキの川向思季です。

長野県の女性の創業・起業支援(Shinshu Startup Station Women:SSSW)は、
2023年度から始まり、個別相談員/メンターとしても2年目となります。

合同会社キキは、「こうありたい日常を自らの手でつくり出す」を掲げ、
#暮らし #学び #はたらくをテーマに、仕組みを整える仕事をしています。
合同会社キキ自体、学生起業とこいうこともあり、
普段から若い世代の「やってみたい」の声を聞くことも多いです。

現在もメンバーの半分以上が社会人大学生や学部生、
立ち上げメンバーが20代前半女性ということもあり、
いろんな悩みを抱えながらいろんな人に助けられている日々です。
SSSWでは、同じ悩みを抱えた人に寄り添いつつ、
一緒に考えたり乗り越えたいと思い参画しています。

*

「起業」という言葉を聞くと、ビジネス色の強いエネルギッシュなイメージ
を持つ方も多いと思いますが、起業のあり方は多様化しています。

その中でも、自分の名前でお仕事をするフリーランス(個人事業を含む)は
働き方に自分らしさを求める若い世代や、様々なライフイベントを迎える女性に人気です。

私たちの会社も、創業メンバーの2人が会社を立ち上げる前は
それぞれ個人として、「はたらく」を小さくつくる練習を積み重ねていました。
学生の頃は、お金目的で始めた訳ではありませんでしたが、
続けていきたいという思いから、なんとなく月3〜5万円と考えていたと思います。

ロールモデルとなる、いいメンターと出会えたことが何よりのきっかけとなり、
企画の方法やコミュニケーションはもちろん、請求書の出し方まで、
初めは全て真似るところから始まり、今は自分のやり方を少しずつ確立しているところです。

学生起業に取り組む人もいろいろなパターンがあります。
学生時代に頑張り、その経験を活かし就職する人もいれば、
後輩に譲渡/継承するという人も。
卒業後もその事業で暮らしていく人もいます。

学生起業の大きなメリットは圧倒的に時間があることです。
そして学生という立場上、教えてくれる人が多いということです。
わからないことをわからないと言えることが、学ぶきっかけをつくります。
そして20代の学びはかけがえの無い財産となります。

もしかしたらその先に、一緒にやりたい人や、心地よい規模、
人生をかけて挑戦したい未来への希望とめぐり逢うのかもしれません。

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2024.6.20

「地元のギフト」を1億人に届けたい。創業13年目、地元カンパニー・児玉社長の目指す未来【後編】先輩起業家インタビューvol1

2024.6.20

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

長野県上田市で、創業13年目を迎える「株式会社地元カンパニー(以下、地元カンパニー)」。代表取締役の児玉光史(こだまみつし)さんは、事業の主軸である「カタログギフト」をつくり続ける意味を見失ってしまった時もあったといいます。

インタビュー後編では、長く会社を続けるためのバランスの取り方について聞いていきます。

<お話を聞いた人>
株式会社地元カンパニー 代表取締役 児玉光史(こだまみつし)さん
長野県上田市のアスパラ農家に生まれ、大学卒業後は電通国際情報サービスにてシステムセールスに従事。退職後、東京で暮らす農家の跡継ぎコミュニティを立ち上げ、地域の産品を都内で実験的に販売。自身の結婚式で「ご当地グルメのカタログギフト」を引出物として配布し好評だったことをきっかけに、株式会社地元カンパニーを設立。

会社経営は「旅」と一緒。ゴールがなくても先を目指せる

――「創業する」というのは、始めることよりも、そこから事業を長く続けていくことが大切だと思うのですが、児玉さんが10年以上事業を続けてこられたのはどうしてだと思いますか?

そもそも、僕は「会社を10年続ける」とか「100年続く会社をつくる」という目的を掲げていたわけではなくて。こうして長く続けてこられたのは、ただ「興味が尽きなかった」からですね。

会社を経営していると、日々「なんだこれは!」と思うような事件が目の前で起こるんです。「何でこういうことが起こったんだろう?」と考えたり、それを解決したりし続けてきた延長に今があります。会社を続けることへの興味は尽きませんね。僕は、会社を続けることは旅をするのに近いと思っていて。

――旅、ですか?

はい。旅って、目的地はあれど「これを達成しよう」というゴールはないじゃないですか。でも、旅路の最中ではいろいろ起こるし、いろいろ考える。そしてそれが全て自分の経験になる。僕はほぼずっと長野県の上田市にいますが、旅をし続けている感覚なんです。

――興味と好奇心が尽きなかったから、歩き続けてくることができた。

そうですね。創業者はみんなそうだと思うけど、やっぱり自分で事業を続けていくのは面白いですよ。飽きないです。……いや、飽きたこともありましたね。

――それは何に飽きてしまったんですか?

「カタログギフト」の事業自体にです。自分自身が農家のせがれであり、地元への思いがあってはじめた事業でしたが、「僕はどうしてこの事業をやっているんだろう?」と、続ける理由が薄れてしまった時がありました。

――会社の主軸である事業に飽きてしまったと。児玉さんはそこからどうやって気持ちを持ち直したのですか?

僕は社長ですし、社員もお客さんもいる。「飽きました」なんて周りには言えませんでした。そこで、もう一度この事業に「ロマン」を見い出そうと、改めて「ギフト」や「贈与」の仕組みについて学び直してみることにしました。そうすれば、事業を続けるヒントが得られるかもしれないと思ったんです。

――「こんな引き出物があったらいいな」から始まった事業の根本を、改めて見つめ直したのですね。

哲学書や歴史書をいろいろと読んでみたら、「ギフト」にはちゃんと歴史的な成り立ちがあって、どんな意味合いをもって現代まで受け継がれてきたかを再認識できました。そうして、再び自分の事業にロマンを見出して向き合えるようになった。それ以来、「飽きたら飽きたでまたロマンを見出せばいい」と考えられるようになりましたね。

この世にはまだまだ自分の知らないロマンが溢れている

――何年間も続けてきた事業でも、根本から学び直すことでちがう見方ができると。

その時に、「飽きる」というのは、自分の浅はかな知識を棚に上げて、駄々を捏ねているだけなのかもしれないと考えたんです。自分の知ってることなんてごくわずかだから、深掘りすればまた新たな解釈をした上で事業や物事に向き合うことができる。

――児玉さんは、ロマンを感じることが原動力になるのですね。

僕の場合はそうでした。この世には、まだまだ自分の知らないロマンが溢れています。ギフトに限らず、全ての業種にはそういうロマンチックな部分があるはず。「ギフト」にロマンを見出したからこそ、今の目標である「1億コード達成」にもつながってくるんです。

お金を払って何かを買うのは「交換」だから、その人の意志がないと物が手に入らない。でも、「ギフト」はあくまで「贈与」だから、うちの「地元のギフト」を欲しいと思っていない、なにかを自分で買うことすらできないくらいつらい状況にある人にだってポンっと急に届く可能性がある。それってすごくロマンチックだなと。

――「旬の果物を食べる」という選択肢がない人にも、おいしいりんごが届く未来が訪れる。

自分の生活がいっぱいいっぱいのときに、「地方のおいしい野菜を食べよう」なんて思えないじゃないですか。スーパーで買い物をするにしても、数十円でも安いものを買ってしまうことがざらにある。でも、「ギフト」であれば、孤独な人や、生活が苦しい人にも地方の産品が届く。お金のある人しか対象にしないのが経済なのに、余裕がない人にも届く可能性がある。これはいいぞ、と。

――事業を続けることへのロマンを問い直し、また道が見えてきたと。

僕はいちいちそうやって考えては一歩ずつ進んできているので、会社として成長することはどうしても時間がかかっていますね。経営者としては下手くそというか、一足飛びに売り上げや利益を上げたくてもうまくできないんです。その分伸び代があると思って会社を続けています。

自分に合った環境で、心身を健康に保ちながら歩き続ける

――児玉さんは、東京で会社員をしていた経験も、創業当初は東京にいた経験もありますが、長野県での働きやすさはどう感じていますか?

うちの事業自体は、全国各地の地方にいる人たちとの取引が多いので、東京にいたときよりもシンパシーを感じてくれることが多く感じます。

それから、長野は情報が過密ではないので落ち着きますね。東京で起業系のイベントにいくと、「うまくいっている」ように見える経営者たちをみて、「俺ももっとがんばらなきゃ」と精神的にくらってしまうことがあるんです。

「隣の芝は青い」とよく言いますが、東京にいると、意識しなくても勝手にほかの会社や経営者の情報が入ってきてしまいます。予期せぬダメージを食らわない環境で働くというのは、僕自身に合っている気がしますね。

――周りと比べず、自分のペースでいられると。

ヘルシーでいられますね。情報の暴飲暴食をせず、ちゃんと咀嚼して、デトックスができる。気持ちが強い人は、たくさん情報を摂取して走り続ければいいと思いますが、僕にとっては、地元である長野で会社をやるのが合っているんだと思います。

会社経営はマラソンに例えられるように、長期戦だと思っています。僕は心身共に健康な社長でいたい。健康第一ですね。結果それが会社のためにもなると思うので。その点、長野は新鮮な野菜などおいしい食材が手に入りやすいですし、自然が豊かでスポーツやアウトドアクティビティにアクセスしやすいのも好きですね。

――心の健康のために意識していることはありますか?

経営者仲間の存在は大きいです。上田市はもちろん、長野市や松本市、東京を始めとした全国各地に経営者同士のつながりがあるんです。

「最近どう?」といった雑談から、「社員が辞めてしまうのはつらいよね」「社長の立場ってなんなんだろう?」など、家族や社員には話せないような話をすることもあって。みんなとああでもないこうでもないと話す時間は楽しいですし、気持ちが救われる部分がありますね。

普段から周りに相談しやすい環境を作っておくことが、自分も相手も守ることになる

――たしかに、経営者という立場は弱みを見せづらい一面がありそうですね。

ずっと強気な姿勢を見せることも大事かもしれませんが、経営者だからといってすべてを背負うのは無茶な話です。そういう自分の弱さや、悩みを打ち明けられる存在が組織の外にいることは、経営者にとってのセーフティーネットになると思います。

それに、自分が弱みを見せれば相手も弱さを見せてくれますし、日頃から弱みを見せておけば、本当に困ったときに助け合いやすい。周りに相談しやすい環境を作っておくことは、僕にとっては大切ですね。

そうやって、いつでも相談をし合える関係性を維持しておくのは、自分のためでもあるし、家族のためでもあるし、会社のためでもありますよね。

――自分が弱さを見せることが、相手にとっても頼る理由になると。児玉さんは、創業当初から悩みや弱みを相談できる相手はいましたか?

創業当時は、そんなことは考えていなかったです。でも、家族が増えて、社員も増えてきた時に、漠然と「生きていたいな」と思ったんです。悲しいことに、経営者の中には自分一人で悩みを抱え込んでしまい、心身を壊してしまう人もいます。自分は、体力的にも精神的にも潰れないようにしようと意識していますね。そのためにも、相談をしたり話をしたりできる相手がいることは大事だと思います。

それに、事業を大きく成長させていく上では多くの人の考えやアイデアが必要だと思います。社員と話し合うことももちろん大事ですが、会社組織の中だけでものごとがすべて動いていくわけではないと思っていて。

――いろいろな視点や考え方が必要だと。

事業のヒントは、経営者仲間との話の中にあるかもしれないし、小説や普段の風景の中に隠れているかもしれない。今の目標の「1億コード達成」にしても、どんどんみなさんの知恵やアイディアを拝借したいです。これからもたくさんの人と話をして、助けたり助けられたりしながら進んでいきたいですね。

<地元カンパニーへのお問い合わせ>

「地元のギフト」を贈りたい

求人にエントリーしたい

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2024.6.20

「地元のギフト」を1億人に届けたい。創業13年目、地元カンパニー・児玉社長の目指す未来【前編】先輩起業家インタビューvol.1

2024.6.20

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

「僕が「地元カンパニー」を立ち上げて一番最初に売れたギフトはたった1個でした。そこからじっくり時間をかけて、8万倍まで成長してきた。そう考えると、年間1億人まで届けることだってできます。」

そう語るのは、長野県上田市で地元のカタログギフト事業を営む「株式会社地元カンパニー(以下、地元カンパニー)」代表取締役の児玉光史(こだまみつし)さんです。インタビュー前編では、「地元カンパニー」創業の経緯と、これまでの道のりや現在の目標を聞きました。

<お話を聞いた人>
株式会社地元カンパニー 代表取締役 児玉光史さん
長野県上田市のアスパラ農家に生まれ、大学卒業後は電通国際情報サービスにてシステムセールスに従事。退職後、東京で暮らす農家の跡継ぎコミュニティを立ち上げ、地域の産品を都内で実験的に販売。自身の結婚式で「ご当地グルメのカタログギフト」を引出物として配布し好評だったことをきっかけに、株式会社地元カンパニーを設立。

実家のアスパラガスの販売から事業をスタート

――まずは、株式会社地元カンパニー(以下、地元カンパニー)の概要について教えてください。

地元カンパニーは2012年に創業しました。現在は、長野県上田市に拠点を置き、約30名の社員と共に「地元のカタログギフト事業」「ギフトシステム事業」「お土産開発事業」を行っています。

――「地元のカタログギフト」とは?

都道府県や市町村単位のグルメを集めたカード形式のカタログギフトです。現在は約1300事業者様が参加してくださっていて、果物、野菜、生鮮品などそれぞれの「地元」の多種多様な商品がラインナップされています。

例えば「長野県のギフト」には、長野市のおやき、上田市の味噌、佐久市のプルーン、山内町のシャインマスカットや、小諸市の信州そばなどが掲載されています。個人のお客様はもちろん、結婚式の引き出物や内祝い、企業の株主優待、キャンペーンの景品、福利厚生などでご利用いただいています。

――一般的なカタログギフトと比べて、「地元のカタログギフト」にはどんな特徴がありますか?

ご注文いただいてからすぐにギフトが届くのではなく、「旬の時期」をお待ちいただくのが「地元のカタログギフト」の特徴です。例えば、6月に受け取ったカタログギフトで長野市のりんごを注文した場合、りんごが届くのは10月〜12月になります。

また、「地元のカタログギフト」作成にあたり、一件一件生産者の方々に取材を行っています。商品だけではなく、商品のつくり手、そして後継者の人々にもフォーカスし、つくり手の人となりや、ものづくりへの思いを伝えます。

――児玉さんが「地元のカタログギフト」の事業を始めたのはどんな背景があるのでしょうか。

僕の地元は長野県の上田市で、実家はアスパラ農家をしています。僕は大学進学のために上京し、そのまま東京の大手システム会社の営業マンをしていたのですが、地元に対する思いが拭いきれず、「自分はこのままでいいのかな?」と四年目で会社を辞めました。

――当時から、「地元のために創業したい」という思いがあったのですか?

何となく地元に関わっていたいとは思っていましたが、当時はまだこれといったビジョンはありませんでした。会社員を辞めてからはしばらくはWEB関係の仕事をしていましたが、東京で暮らすうちに自分と同じように地方から上京してきた農家の息子や娘たちと出会ったんです。

そこで、「自分達の実家の野菜を東京で売ってみるか」と、「セガレ」を立ち上げて、マルシェや駅前で野菜の販売を始めました。まだ「創業」といえる代物ではありませんでしたが、そこが僕のスタート地点でしたね。

「会社をやってみたい」という好奇心から「地元カンパニー」を設立

――そこから「地元のギフト」を思いついたのはどうしてですか?

たまたま僕が結婚する機会に恵まれて、結婚式で引き出物を準備する必要があったのですが、既存のカタログギフトを見てもピンとくるものがなかったんです。「せっかくなら、作り手の顔が見れる『セガレ』の仲間たちの実家の野菜やお酒、お米を贈れたらどうだろう?」と考えたのがはじまりでした。

――実体験からくるアイディアだったのですね。

早速、実際に自分たちで作ったカタログギフトを引き出物として使ってみたら参列者の方々にも好評で。「これはいけるんじゃないか?」と感じたのが「地元カンパニー」創業のきっかけの1つですね。

――会社を立ち上げることはハードルには感じませんでしたか?

むしろ、当時自分は30代に差し掛かった頃だったので、「いつまで東京で野菜を売っているんだ?このままでいいのか?」という気持ちがありました。

また、「セガレ」を通して、会社ではない組織体で動くことも経験してみましたが、やはり難しさがありました。同じ思いを抱えた仲間同士でも、全員本業ではないし関わる目的も様々で、金銭の授受が発生しない。面白くはありましたが、よくわからない状態でした。社会で生きていく上でも、「会社を経営している」という肩書きがあったほうがいろいろと動きやすそうだなと。

単純に「会社をやってみたい」という好奇心も大いにありましたね。そこで、「よし、会社を作ろう」と2012年の4月に登記し、社長になったわけです。

――とはいえ、会社ができたからといって事業がうまくいくわけではありませんよね。

そうなんです。「いけそうだ!」と感じたカタログギフトでしたが、いざ始めてみたら最初は知り合いが数件購入してくれるだけでまったく売上が立たず……。そこからは、とにかく思いついたことは全部やってきました。本当にいろんなことがありましたね。

今年で起業して13年目を迎えるのですが、ようやく会社として安定してきた気がします。財務的に「安定」というよりは、進むべき方向が見えてきた感覚ですね。

――事業の方向性が絞られるまでは、どんなことを?

東京から上田にUターンした後は、入居した建物にカフェ機能があったので、カフェ営業に取り組んでみましたが、全くうまくいきませんでした(笑)。Uターンの促進の事業も立ち上げましたが、なかなか事業としては成り立たず。

そんなふうに、もう覚えていないような失敗がいくつもあります。「地元のカタログギフト」も、いまでこそ軌道に乗っていますが、今のスタイルが確立するまでに「やらなくてよかったこと」はたくさんあったと思います。

まずは「自分でやってみる」。その繰り返しで「やるべきこと」を選び取ってきた

――「創業する」ということは、「なにをしてなにをしないか」の選択の連続ですよね。児玉さんは、まずやってみてから取捨選択をしていくのですか?

そうですね。僕は数学が好きなんですが、公式を使わずに解く癖があるんです。たとえば、他の会社のやりかたや成功事例を自社に持ち込むこともできたと思うんですが、僕はそれがどうしても気持ちが悪くて。

――「気持ちが悪い」というのは?

外から何かを持ってきてうまくいったとしても、どうしてうまくいったのかがちゃんと腑に落ちないといやなんです。だから、たとえ下手でも、うまくいかなくても、一から自分でやるのが好きなんですよね。

たとえば、事務所のタイルカーペットも自分たちで敷きました。外注すればすぐに終わるしきれいにできるかもしれませんが、自分たちでやってみることでチームビルディングになるし愛着が湧く。事業の運営においても、「時間や機会をお金で買わない」ことは意識しているかもしれません。「好奇心旺盛」といえばいい表現ですが、スピードを犠牲にしていますし、「やってみたい、やってみよう」でやることを増やして、一定数増えたら「なにか減らさなきゃ」とやるべきことを絞ってきました。

――創業から10年以上の試行錯誤があって、今があるのですね。

こういうことを話すと、「創業はやっぱり大変なんだ」と思われてしまうかもしれませんが、10年以上の時間がかかったのは僕の性格による部分が大きいんじゃないかな。

世の中でうまくいっている事業を参考にしながらサービスを始めれば、最初からある程度はうまく回っていくと思うのですが、僕の場合は、「ちょっと変わったこと」や、「今までにないことをやってみる」ことが好きなんです。

ギフトを通じて誰もが「待てる」社会をつくりたい

――地元カンパニーは企業理念に「待てる社会をつくる」を掲げていますが、この部分は10年以上会社を経営する中でもぶれないままでしたか?

いえ、一番最初の企業理念は、「地元をいい感じにする」というふんわりしたものでした。「いい感じ」にする方法はたくさんあるよな、自分達になにができるんだろう、と事業を成長させながらも考え続けて、10年以上経ってようやくしっくりくる言葉に落とし込めました。

よく、創業にあたって「まずは理念やコンセプトをしっかり練らないと」という声もあるかもしれませんが、僕はそういうスタートではなかったですね。好奇心からはじまった創業で、ああでもないこうでもないと続けているうちにしっくりくる理念ができあがったのが実態です。

――児玉さんの目指す「待てる社会」とは、どんな社会ですか?

「待てる」ことは、未来に希望があるということだと思っています。自分もそうですが、毎日毎日いいことばかりが続くわけではないですよね。辛い日もある。そんな日でも、「ちょっと前に選んだりんごが、明日届くかもしれないし、今日はもう寝るか……」と、ちょっとでも思い出してくれたら、うちのギフトをつくった甲斐があるなと。

――たしかに、現代はなんでもすぐに手に入るからこそ、「なにかを楽しみに待つ」という経験が逆に貴重になってしまっているかもしれませんね。

だから、つらい事件が起こると僕はいつも責任を感じるんです。もしもうちのギフトがその人に届いていたら、自ら死を選んでしまったりとか、事件を起こしてしまったりすることを防げたんじゃないかと。

僕らの力がもっと大きければ、根本的な問題の解決に繋がっていないとしても、その人に「地元のカタログギフト」が届き、旬のアスパラやリンゴを「待って」いる間に、決断や行動を保留させることができたかもしれない。

――「待てる社会」の実現に向けて、児玉さんの今の目標はなんですか?

「1億コード達成」です。

――「コード」とは?

僕たちは、カタログギフト1件の申し込みあたり「1コード」と呼んでいます。日本の人口は約1億人なので、日本人全員に最低でも年に1回は僕たちのギフトが届くようになったらいいなと思っています。

――ゆくゆくは日本人全員に! 現在は、年間何コード分のギフトが人々に届いているのでしょうか。

今は年間約8万コードです。1億コードを達成するには、ここから1000倍以上の成長が必要です。遠い目標に思えますが、僕が「地元カンパニー」を立ち上げて一番最初に売れたギフトはたった1個でした。そこからじっくり時間をかけて、8万倍まで成長してきた。そう考えると、1000倍も達成できます。

「1億」というのはあくまで日本人全員の象徴なので、つらい日々を送っている人を、一人でも前向きな気持ちにすることができるよう、これからも事業を続けていきたいです。

・・・

インタビュー後編では、長く会社を続けるためのバランスの取り方について聞いていきます。

<地元カンパニーへのお問い合わせ>

「地元のギフト」を贈りたい

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2024.6.6

SSSWコラム

主催:SSSW
2024.6.6
とりあえず事業の相談がしたい

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伊那エリア

諏訪エリア

上田エリア

佐久エリア

こんにちは。
SSSWの全体統括を務めている渡邉さやかです。

長野県の女性の創業・起業支援(Shinshu Startup Station Women:SSSW)は、2023年度から始まり、今年は2年目になります。
SSSWは、長野市を中心として活動するBiotopeや合同会社キキ、塩尻市を中心として活動するスナバ、飯田市を中心として活動する株式会社norms、そして今年度は上田市を拠点とするARECとの連携により様々な活動を実施しています。

2024年度の今年は、昨年度から実施している女性のメンターによる個別相談の実施や、長野県の各地(北信・中信・東信・南信)それぞれの地域で3回ずつ以上のコミュニティ形成に資するような対面イベントの実施、オンラインセミナーなどを実施していく予定です。
また、今年度はより地域を超えてのネットワークも少しずつ作れたらいいなぁと考えているところです。
これから順次情報公開していきますので、楽しみにしていただけたらと思います!
 
*

これは必ずしも女性だけでの課題ではないですが、創業・起業をしようとするときに、最初の一歩を踏み出してくれる仲間の存在は重要です。また仲間だけでなく、事業の相談ができるメンターの存在も重要であるというのは学術研究的にも多く語られています。
またメンターには、自分が起業や事業をしようとする分野に豊富な知見がある存在・起業プロセスを経験したことのある先輩的な存在・自分と属性が似ていている同志的な存在・財務/法務/広報などの専門的な知識を必要とする専門家の存在という4つの種類がいると良いと言われたりします。

SSSWで提供できることは限られますが、このプログラムをきっかけとして、起業だけでなく新たな一歩を踏み出そうとする方の応援ができるようにしていけたらと願って、チーム全員活動をしています。
ぜひ気軽に声がけをしていただけたらと思いますし、メッセージなどもしていただけたらと思っています。

ARTICLE
2024.6.4

SSSコラム④:地域課題解決ビジネス(ソーシャルビジネス創業支援金)について

2024.6.4

担当:SSSコーディネーター 佐藤(中小企業診断士)

こんにちは、SSSコーディネーターの佐藤です。
(※本コラムの内容は執筆者個人の見解であり、長野県やSSSの公式見解ではありません。)

長野県で創業をお考えの方、ビジネスを展開されようとしている方にお聞きすることがあります。

「なぜ、長野県なのですか?なぜ、その地域で創業や事業展開をするのですか?」

お答えになる理由は人によって様々ですが、その中の1つとして「自身がその地域に住んでみて、その地域が抱える課題を解決したい」という想いを持つ方が多いと感じます。

地域課題解決のためのビジネスを始めることは、社会への貢献と共に、自身の夢を実現する一歩となります。しかし、アイディアを事業化する過程で、さまざまな壁にぶち当たることもあるでしょう。本コラムでは、地域課題解決のアイディアを事業化するためのポイントや乗り越えるべき壁などについて、長野県の「ソーシャルビジネス創業支援金(以下、ソーシャル補助金)」も交えながらお話したいと思います。

1.地域の課題、ニーズを捉える

地域課題解決ビジネスを始める際にまず重要なのは、地域のニーズを正確に把握することです。地域の人々や団体などと積極的にコミュニケーションを取り、彼らの課題や要望を理解することが大切です。アンケート調査やワークショップなどを通じて、地域の声を集めることで、より具体的なビジネスアイデアを形成することができます。

「ソーシャル補助金」の事業計画書の様式にも、「社会性」という項目で、解決しようとする地域課題の内容を記載する箇所があります。記載する際に意識したいこととして、「地域課題の内容が的確に捉えられているか、納得感の高いものか」という点です。このチェックポイントを踏まえると、例えば行政や地域が公開している資料などにあるエビデンスとなるデータや記事を提示すること、アンケートやヒアリングなどでを行い地域の「生」の声やニーズを収集した調査結果を示すことなどにより、「確かにこれって地域の課題だよね」と見る側・聞く側に思ってもらえるか、ということです。

2.現在の取組状況や競合(かもしれない、なり得る)などをおさえる

次に重要なのが、地域課題解決のために現在はどのような取り組み・活動がおこなわれているか、類似のサービスやソリューションはないか、あるとしたらどのような内容かを把握することです。持続可能な「ビジネス」として成立させるためには、選んでもらえるサービスやソリューションを提供することが重要です。そのために、他との差別化要因を確立することや今はまだないビジネスやサービスを見つけていくことなどがポイントになります。
「ソーシャル補助金」の様式にも、「必要性」という項目があり、ご自身が考えている事業が地域にとって、地域課題解決のためにどういう理由で必要と考えるかを記載します。

3.地域との協力・連携を図ること

地域課題解決ビジネスを成功させるためには、地域の関係者との協力が不可欠です。地域の団体や住民、行政機関などとの連携を図り、共同プロジェクトを進めることで、より効果的な解決策を提供することができます。また、地域の人々の声を取り入れたり、地域資源を活用したりすることで、地域との絆を深めることも大切です。

「ソーシャル補助金」の応募にあたっても、いかに「地域の方々を巻き込むことに繋がるか(活動や事業の輪が広がる可能性があるか)、波及効果がある事業であるか」という点で、ご自身の事業を見つめ直してみることもいいかもしれません。

4.持続可能な「収益モデル」を構築すること

地域課題解決ビジネスを始める際によくぶち当たる壁の一つには、持続可能な収益モデルの構築があります。社会的な課題解決を目指すビジネスでは、収益を上げながら地域の課題に取り組むことが求められます。ここで重要なのは、ビジネスモデルの柔軟性と創造性です。他の収益源やビジネスパートナーを見つけることで、収益の多角化を図り、持続可能なビジネスを築くことができます。

また、地域課題解決ビジネスでは、長期的な視点と忍耐力も必要です。課題解決には時間と努力がかかることがありますので、短期的な成功に固執せず、地道に取り組み続けることが重要です。また、途中で困難にぶつかったとしても、諦めずにチャレンジし続ける心構えが必要です。成功は簡単には訪れませんが、地域の課題を解決するビジネスが実現すれば、地域の人々の生活を豊かにすることができます。

最後に、地域課題解決ビジネスを始める際に大切なのは、情熱と信念です。地域の課題に真剣に向き合い、解決策を提供することに情熱を持ち、自身のビジョンを信じることが必要です。困難にぶつかったり、周囲の反対に遭ったりすることもあるかもしれませんが、自分の信じる道を進む勇気を持ってください。地域の課題解決は、あなたのビジネスが実現することで現実のものとなります。

地域課題解決ビジネスは、あなたの夢を叶えるだけでなく、地域社会に貢献する素晴らしいチャンスです。ソーシャルビジネス創業支援金などの補助金を活用しながら(このコラムが掲載される頃は、令和6年度創業支援金の2次募集中かもしれません)、地域の課題に取り組むビジネスを考えてはいかがでしょうか。進むべき道は険しいかもしれませんが、SSSはそんな皆さんを応援し、サポートいたします。

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2024.6.4

投資による伴走支援とは? 社会課題の解決に取り組む起業家を応援する「信州スタートアップ・承継支援ファンド」<後編>

2024.6.4
とりあえず事業の相談がしたい 資金調達(投資/融資)を検討している

県内全エリア

長野県内での次世代新規産業の創業、及び事業継承支援のために令和3年に設立された「信州スタートアップ・承継支援ファンド」(以下、信州SSファンド)。創業初期段階の資金配給と、目標達成に向けた伴走支援を行っています。

ファンドを運営しているのは、これまで数多くの地方創生ファンドを運営してきた株式会社フューチャーベンチャーキャピタルです。

インタビュー後編では、東日本投資部 次長として、信州SSファンドで伴走支援を行っている石坂 颯都(いしざかりゅうと)さんに、投資による支援とはどういうことか、どんな事業が投資対象になるのか、長野県の創業の傾向などを聞きました。

<お話を聞いた人>
株式会社フューチャーベンチャーキャピタル
東日本投資部 次長 インベストメントオフィサー 石坂 颯都(いしざかりゅうと)さん 
外資系生命保険会社を経て入社。地域活性化や社会課題の解決に取組む起業家を応援したい思いで業務に従事している。案件発掘から投資育成、ファンド組成まで幅広く経験。複数EXIT実績あり。自治体アクセラプログラム審査員等も担う。

地域の課題をビジネスの力で解決する

――インタビュー前編では、投資を受けるには「新規性」が大事だとお話をいただきましたが、これまで「信州SSファンド」で投資を行ってきた事業にはどんなケースがありますか?

たとえば、長野県小諸市に本社を置くMYCL Japan株式会社(以下、MYCL Japan)は、キノコの菌糸体を培養して生産される植物由来成分100%の新素材「マッシュルームレザーMYCL」の開発・製造に挑む信州発のスタートアップ企業です。

――キノコを活用して革風の素材に! 面白い取り組みですね。

長野県はキノコの生産量日本一ですが、年々生産者が減少しているという課題があります。MYCL Japanは、食用以外で新素材としてのキノコの新たな製品価値を生み出し、新たな信州の特産品を作りたいという思いで事業に取り組んでいます。さらに、代表的な製品であるマッシュルームレザーMYCL は、動物性原料を使用せず、プラスチック樹脂や化学物質の使用も大幅に抑えています。

「信州の名産であるキノコを活用する」というご当地性があり、なおかつ動物愛護の観点でも環境面でも社会課題の解決につながる新しいビジネスモデルだったので、伴走支援をする私たちも事業計画を聞いていてわくわくしましたね。MYCL Japanは、「信州アクセラレーションプログラム」※1にも採択されています。

――地域の課題解決が、さらに世界規模のビジネスモデルになっていく。ほかにも、石坂さんの印象に残っている事例があれば教えてください。

ほかにも、松本市に本社を置く株式会社XAXA(以下、XAXA)は、ペットの暮らしの質を高めるために商品開発と販売を行うベンチャー企業です。MYCL Japan同様に、「信州アクセラレーションプログラム」※1に採択されています。

――ペットフードというと既に世の中にあるビジネスモデルに思えますが、どんなところに新規性があったのですか?

XAXAの魅力は、サービスのスマートニッチさにあります。XAXAのペットフードは、新鮮な食材を新鮮なまま食べられる新感覚で栄養満点なローフードとフレッシュフードです。一食1000円〜という高価格帯の高級ペットフードなんです。

第一弾プロダクトとして、日本の生食文化で培った技術と新鮮な食材を活かし、世界に誇れる高品質な犬や猫向けの食事「XAXA PREMIUM PET FOOD」を開発しており、ペットの健康だけでなく、フードの美味しさも追求し、ペットのQOL向上を目指しています。

――なるほど、これまでにない新たなビジネスモデルですね。

ここ数年、コロナ禍でおうち時間が増えたことにより、ペットを家族の一員としてより大切に扱う傾向が高まりましたよね。そこで、XAXAは「大切なペットのためなら一食1000円でも安いくらい」というお客様を狙った大胆なデザインやPRのプランニングを行うことで、世界展開を狙っています。

※1「信州アクセラレーションプログラム」とは……信州スタートアップステーションが取り組む、創業後間もない企業に対する短期間の集中的伴走支援プログラム。

地域活性化や社会課題の解決に取り組む起業家を応援したい

――先ほどのマッシュルームレザーのケースといい、新しいビジネスが世の中に出ていくのを支援するのはワクワクしそうですね。なにより、お話されている石坂さんが楽しそうです。

ありがとうございます。起業家の皆さんがどう思っているかはわかりませんが、個人的にはこの仕事はとても自分に合ってるなと感じています。

――伴走支援をする側の石坂さんご自身についてもお聞きしたいです。石坂さんは、どういった経緯でFVCで働き始めたのですか?

私は神奈川県の横須賀で育ったのですが、横須賀はいわゆる田舎町なんです。同級生を見ていても、みんな東京に出てしまう。自分の地元が寂れてしまうことに対して、モヤモヤを抱えている部分がありました。

自分も進学のために一度地元を離れたのですが、大学生の頃に東日本大震災が起きました。東北に何度もボランティアに通ううちに、地方活性化に興味を持つようになったんです。

――地元への思いや、学生時代の経験が今につながっているのですね。

大学卒業後、大学院で地方活性化について学び、その後保険会社に入社して経営者向けの保険の販売を行っていました。ですが、保険というのはあくまで「何かがあったときのお守り」なので、もっと前向きに、新しいことに取り組む人たちを応援したいという思いが大きくなってきて。

転職を考えていた中でたまたまFVCに出会い、投資を通じて地方のベンチャーを支援するという経営理念に共感し、縁あって働き始めました。仕事内容ももちろんですが、学生時代から、僕は自分が前に出るというよりは人の成功を支援する方が好きだなと感じていたので、この仕事はまさに天職だなと思っています。

――サポート役の方が向いていると。

大学1年生の頃からずっと塾の先生のアルバイトをしていたんですが、当時から、人が成功したり、目標を達成することを応援したりサポートすることが好きで。塾の先生と投資会社ではやることは異なりますが、チャレンジや夢を応援するという点では共通するものがあるのかなと。

入社して以降、投資担当という形でさまざまな地域の企業さんとお会いして投資による支援を行ったり、信州SSファンドの設立に携わったりと、長年自分がやってみたいと感じていたことを実現できています。

創業の鍵は「思いの強さ」と「解決したい課題の根深さ」

――これまで数多くの起業家の支援に関わってきた中で、石坂さんは創業を目指す方のどこを見ていますか?

事業の内容やアイディアはもちろんですが、やはり一番大切なのはその人自身ですね。そもそも、投資の対象となる方はまだ過去の実績や決算書がなにもない状態です。ですから、「思い」の部分をよく見るようにしています。

――「思い」ですか。

はい。「なぜそのビジネスをやりたいのか」の根っこの部分ですね。起業をするということは、リスクを負って、数々のハードルを超えていく必要があります。起業をしてから、なかなか事業が軌道にのらないことや、事業の方向性や戦略を変える必要性が生まれることはざらにあります。そんな時に、へこたれずにしっかりと次に進める人であるかが重要ですね。

それから、その人が事業を通じて解決しようとしている課題の広さ、根深さも見るようにしています。

――「課題の広さと根深さ」というのは?

何かに困ってる人が多ければ多いほど、潜在顧客がいることになるので、事業は大きく成長します。また、市場としては大きくなくても、根深い課題があれば、その課題を解決することによって助かる人が出てくる。

長野県をはじめ、地方では後者のようなローカルベンチャーやスマートニッチ型のビジネスの方が多い傾向にあるため、信州SSファンドでは課題の広さだけで投資の可否を判断するのではなく、深さを見るようにしています。

――創業する人が増えれば増えるほど、困っている人が助かるという側面がある。信州SSファンドは、その手助けをしているのですね。最後に、今まさに創業を考えている方に向けたメッセージをお願いします。

とにかく、まずは相談していただきたい。その一言に尽きます。創業支援をしていると、かなり形になってからアイディアを出したがる方が多いんです。実際に投資による支援が行えるのは、ある程度ビジネスが形になってからなのですが、もっと前の段階からまずは気軽にお話を聞かせていただきたいです。

起業や創業に答えが結びつかなくても、誰しも「自己実現でこういうことをしたい」、「生活をしていく中で不便さを感じている」、「世の中がもっとこうなったらいいな」という思いを持っているのではないでしょうか。その段階からお話を聞かせていただいて、じっくり関係性を築いていくことで、最終的に投資につながることもあります。

会社としても、私個人としても、長野県ならではのアイディアがどんどん形になって世に出ていくことを応援し続けたいと思っています。

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2024.6.4

投資による創業支援とは? 社会課題解決に取り組む起業家を応援する「信州スタートアップ・承継支援ファンド」<前編>

2024.6.4
とりあえず事業の相談がしたい 資金調達(投資/融資)を検討している

県内全エリア

創業初期の起業家にとって、ハードルの一つとなるのが資金調達。自己資金でまかなう、金融機関から融資を受ける。そのほかに、「ファンドを利用する」という選択肢があることを知っていますか?

ファンドは、投資家から預かった資金をベンチャー企業へ投資する役割を持ちます。投資の対象は会社を立ち上げたばかりの企業が多いため、ファンドの運営者は起業家の思いをじっくり聴き、事業の将来性を見定めて投資を行っています。

これまで数多くの地方創生ファンドを運営してきた、株式会社フューチャーベンチャーキャピタルの石坂 颯都(いしざかりゅうと)さんに、投資による創業支援とはどういうことか、どんな事業が投資対象になるのか、長野県の創業の傾向などを聞きました。

<お話を聞いた人>
株式会社フューチャーベンチャーキャピタル
東日本投資部 次長 インベストメントオフィサー 石坂 颯都(いしざかりゅうと)さん 
外資系生命保険会社を経て入社。地域活性化や社会課題の解決に取組む起業家を応援したい思いで業務に従事している。案件発掘から投資育成、ファンド組成まで幅広く経験。複数EXIT実績あり。自治体アクセラプログラム審査員等も担う。

「地方創生」をキーワードに、投資による起業家支援・創業支援を

――フューチャーベンチャーキャピタル株式会社(以下FVC)について教えてください。

FVCは、1998年に独立系ベンチャーキャピタルとして京都で創業した会社です。現在は、東京都、岩手県、愛媛県にも展開しています。
ベンチャーキャピタルとは、いわゆるベンチャー企業など未上場の新興企業に出資して株式を取得し、将来的にその企業が上場した際に株式を売却することで利益の獲得を目指す投資会社や投資ファンドのことを指します。なかでもFVCは、創業当時から「地域活性化」や「地方創生」をキーワードに、投資による地方の起業家支援・創業支援を行ってきました。

――「地方創生」に力を入れているのですね。

一般的な投資会社は、東京などの都市部に拠点を置いて、大きく羽ばたくような企業の支援を中心に行っているところが多いのですが、FVCは、地域の課題解決や、新しい事業に取り組むローカルベンチャーの支援を続けています。
具体的には、地域のベンチャー企業を支援するための「地方創生ファンド」と、事業会社のオープンイノベーションを促進するための「CVCファンド」、ものづくり企業など特性のあるテーマに特化した有望なベンチャー企業に投資を行う「テーマファンド」の運営に取り組んでいます。また、資金を投入するだけでなく、長期的な事業継続に向け、事業育成、人材育成、事業コンサルティングなどの支援も行っています。

長野県での創業に寄り添う、「信州スタートアップ・承継支援ファンド」を運営

――FVCが長野県で運営している、「信州スタートアップ・承継支援ファンド(以下、信州SSファンド)」について教えてください。

信州SSファンドは、長野県内の地域金融機関等とFVCが共同で設立したファンドです。 創業・第二創業期にある企業や事業承継における後継者の株式買い取り問題を抱える企業に対して投資による資金供給を行うことで、地域経済の発展と新たな雇用を創出することを目的としています。
従来のベンチャーファンドは株式上場を前提としているものが多いのですが、当ファンドは必ずしも上場は前提としない点が特徴です。

――上場を前提としていないのはどうしてですか?

まず上場とは、証券取引所で株式が売買されるようになることです。株式を上場させると、会社はお金をたくさん集めることができるようになり、上場することでその会社は世の中の人に認められ、ビジネスがしやすくなります。
東京では、上場を目指して起業する方が多いのですが、長野県は必ずしもそうではない。それよりも、起業を通して自己実現をしたり、社会課題の解決をしたいという方が多いんです。そのため、信州SSファンドは、長野県で創業を目指す方に寄り添い、上昇を志向する起業家の方の支援も行いつつ、必ずしも上場を前提としないファンドを運営しています。

――長野県における創業にはそんな特徴があるのですね。信州SSファンドの利用者は現在どれくらいいるのですか?

運営を始めてから約2年間で、「ファンドを使いたいです、興味があります」とお問合せをいただいた件数は100社を超えました。その中で、実際に支援に至ったのは14社です(2024年5月現在)。アイデアの段階の起業家から事業計画をしっかり練った起業家まで幅広くお問い合わせをいただいています。
入口は様々ですが、「創業にあたり資金調達に困っているが、融資ではなかなか支援しづらい」となった場合に、SSSや長野県内の金融機関から「信州SSファンド」におつなぎいただくケースが多いですね。

投資では、ビジネスの新規性が重視される

――「融資では支援しづらい」とはどういうことですか?

まず、融資とは「利息の獲得を目的としてお金を貸すこと」であり、返済の確実性が重視されます。例えば、美容師の方が「長野駅前で新しく美容院を始めたい」という場合は融資の検討対象になります。逆に、まだこの世にないサービスや、新しい価値を生み出すビジネスモデルの場合、確実に収益が得られるかの判断ができないため、金融機関による融資の支援は難しくなるんです。

――誰もが知っているビジネスモデルで、確実に利益が出そうであれば融資による支援が受けられると。

その通りです。一方で、私たちが行う「投資」とは、将来的な利益を期待して資金を融通すること。事業の成長性を重視するんです。そのため、融資とは逆に、どんな事業内容であれ何かしらの新規性が必要です。
例えば、「善光寺の近くにコワーキングスペースを作ります」という方に投資をするのは難しい。ですが、例えば「長野県内のコワーキングスペースを網羅し、ワークスペースや会議室を予約するシステムを開発します」という事業であれば、新規性があるので投資対象となるかもしれません。

――なるほど。投資を受けるには、既存のビジネスモデルにはない新規性が大事なのですね。

とはいえ、「こんなアイディアがあります!」だけでは、投資をすることは難しいです。まだ実績はなくとも、ビジネスが何かしらの形になった段階であれば支援することができます。新しく会社を設立した上で、サービス、もしくは商品がひとまずできた段階ですね。

――実際に、信州SSファンドの支援を受けるにはどんな流れになりますか?

まずは信州SSファンドのご利用申し込みをいただき、投資担当者との面談を経て、投資申請書類をご提出いただきます。その後、事業計画の検討を経て投資委員会が開かれます。ここまでに3ヶ月ほどの期間を要します。

――「今すぐ資金をください!」というわけにはいかないのですね。

はい。投資をすることが決定してから、実際に投資を行うまでにかかる期間は手続きにより異なります。その後の伴走期間は企業の成長ステージや目指す姿によって異なります。
投資による資金面の支援を行ったあとも、信州スタートアップステーションと連携し、事業を成長させていくための伴走支援を行います。

――伴走支援というのは、具体的にどんなことをするのですか?

会社の設立や事業立ち上げに必要な経営ノウハウをお伝えしたり、産学連携やビジネスマッチング、公的支援機関を紹介するなど、事業を成長させるための各種経営支援サービスを提供します。
例えば、3年間で急成長を遂げる企業もあれば、10年間かけてゆっくり成長していく企業もあります。3年間を目処に回収させていただくお約束で支援を始めたとしても、なかなか事業がうまくいかずに、3年間を過ぎても継続してその後も支援させていただくというケースもあります。
我々の業界では、投資による支援を「同じ船に乗る」と表現します。事業者さんと一緒になって、目指す先へ向かっていくイメージです。

・・・

インタビュー後編では、実際に「信州SSファンド」の支援を受けて起業したケースや、長年投資による伴走支援を行ってきた石坂さんの創業支援にかける思いを聞いていきます。

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2024.5.30

「BizCRE(ビジネスCREATIVE)」(ビジネスコミュニティ)

主催:株式会社CREEKS
2024.5.30
とりあえず事業の相談がしたい 場所や施設を探している 他の企業との協業を検討している

飯山エリア

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大町エリア

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CREEKS Coworking 会員間のビジネスコミュニティとして運営してきた「BizCRE」( 通称ビックリ)をオープン化します。参加者のプロジェクト、あるいは参加者同士のコラボプロジェクトをコミュニティの力を借りて推進します。
月2回の「BizCREミーティング」ではプロジェクトのプレゼン、サポーターの募集、既往プロジェクトの経過報告、などを行い、各プロジェクトについてディスカッションします。プロジェクト毎の分科会(プロジェクトオーナー+サポーター)は不定期に開催。
個人事業、スモールビジネスの限られたリソースではどうしても視野が広がりにくく、袋小路に陥りがちです。コミュニティで課題を共有し、参加者の知見を借りてビジネスを推進しましょう。

ARTICLE
2024.5.23

創業をもっと身近に。コーディネーターに聞く、「信州スタートアップステーションnagano」でできること<後編>

2024.5.23
とりあえず事業の相談がしたい

県内全エリア

長野県を「日本一創業しやすい県」にすることを目指して設立された創業支援拠点「信州スタートアップステーション」(SSS)。インタビュー前編では、SSS主任コーディネーターの森山祐樹(もりやまゆうき)さんに、SSSの創業支援の活動や、具体的な活用の仕方を聞きました。

後編では、「まだ形になっていないアイディアの段階でも、気軽に相談に来てください」と呼びかける森山さんに、実際の相談事例を聞いていきます。

<お話を聞いた人>
信州スタートアップステーション主任コーデイネーター 森山祐樹(もりやまゆうき)さん
令和2〜6年度のSSS主任コーディネーターとして県内に豊富なネットワークを持つ。これまで担当した創業相談は延べ1,000件以上と、幅広い業種に精通。

創業の芽を潰さない。否定ではなく前向きな提案を

ーー「創業」とは、具体的なアイディアがある人たちが事業を立ち上げることだと思っていました。SSSでは、「創業」の選択肢がない状態も、創業初期段階と考えているのですね。

そうなんです。これまでの県内の主な「創業支援」では、創業の決意を固めている段階の層しか支援が出来ていませんでした。しかし、それだけでは「創業する人」の数は増えていかないですよね。

そこでSSSでは、「創業したい」という思いのある方や、創業に向けて準備している方だけでなく、そもそも「創業する」という選択肢を知らない層や、アイディアはあるけれど具体的なビジネスのイメージが固まっていないという層までサポートしています。

ーー実際に、どんな方が創業の相談に来るのでしょうか。

学生さんから、会社員として働きながら創業を考えている方、子育てが落ち着いた主婦の方、また、定年退職後に新しく事業を始めようとする方など、年代や職歴を問わずいろいろな方が相談にいらっしゃいます。

「何かやりたい」という思いがある人から、既に創業済みである程度成長しており、これから更に成長していきたいという人まで、創業のステージも様々です。

ほかの支援機関に事業計画を持ち込み、「こんな計画ではうまくいかない」と否定されたという方がSSSに相談にくることもよくあります。

ーー人から否定されたアイディアや事業計画でも、SSSに持ち込んでいいのですか?

もちろんです。創業するということは、まだこの世にないビジネスを生み出すということを多分に含むケースがあります。そういう場合、既存のビジネスの枠にあてはめられ、「そんなの無理だよ」と言われて創業を諦めてしまった方がいるかもしれません。

ですが、私たちは、人に迷惑をかけなければ創業する内容というのは基本的に自由だと考えています。もちろん、本人の向かいたい方向と事業の内容がずれている場合には、「方向転換をしてみましょうか」と助言をすることはありますよ。でも、やりたいことをわざわざ否定する理由はどこにもない。SSSでは、常に「一緒に何ができるかを前向きに検討していく」姿勢でいます。

社会課題に対する気付きや思いも、創業の一歩になる


株式会社コンタクトの運営する、眼科に特化した求人プラットフォーム「コンタクトキャリア」 

ーー個別相談から実際に創業に至った事例を教えてください。

たとえば、2022年に創業した株式会社コンタクトの代表・依田龍之介(よだりゅうのすけ)さんは、大学院生の頃にSSSに相談にやってきた方です。

依田さんは、大学で医療技術について学んでおり、目の検査の専門家に必要な視能訓練士の国家資格を取得していました。

学びを深める中で、視能訓練士は眼科の仕事に欠かせない存在でありながらも慢性的に人が足りていないことや、医療機関から出ている求人情報の情報が不足しているという課題を感じた依田さんは、視能訓練士の認知度を上げ、待遇を改善するためのビジネスをしたいとのことでご相談にいらっしゃいました。

ーー「社会の課題を解決するために何ができるか」という思いが、創業の一歩になったのですね。

依田さんは、「視能訓練士は価値のある仕事だと発信したい。そしてその待遇を改善したい」という思いから、事業の方向性を固めていました。

まずは個別面談を通し、具体的にどんな事業をしていけばその思いが実現できるのかを一緒に考えていくとともに、どのようなモデルでユーザーを獲得し収益を上げていくのかを検討していきました。それに加え、その事業の実現のために必要な資金量と調達手段についてもご相談しました。

その後、2022年の6月には視能訓練士の働き方などの記事を配信するサイト「Contactメディア」を立ち上げ、その後、眼科に特化した求人プラットフォーム、「Contactキャリア」をスタートさせました。

ーー創業に至るまでは、どんな課題がありましたか?

「目の専門家に特化した就活支援」は、あまり一般的でないサービスだったこともあり、当初見積もった事業資金規模(必要資金規模)に対し、既存の金融機関から十分な融資を受けるのが難しい状況でもありました。

そのため、依田さんの場合は、融資だけでなく、信州スタートアップ・承継支援ファンド(信州SSファンド)の投資と組み合わせて資金調達を行いました。

スモールビジネス?スタートアップ?両方の選択肢を示せることがSSSの強み


依田さんは、信州スタートアップ承継支援ファンド第一号に

ーー事業内容の深堀りだけではなく、資金調達の仕方についてもサポートしてもらえるのですね。

SSSでは、県内の金融機関や商工団体と連携している他に、スタートアップ向けのファンドとも連携しているため、スモールビジネスとスタートアップビジネス、両方の選択肢を示した上で、起業家の可能性を広げることが可能です。

ーースモールビジネスとスタートアップビジネスの違いはなんですか?

スモールビジネスとは、小規模の事業からはじまり、得た利益を次の投資に回すことで時間をかけて成長していくビジネスのことです。一方、 スタートアップ企業は第三者の資金も活用しながら短期的に急成長するビジネスであることが多い、スモールビジネスとは成長速度やリスクの度合いが異なります。

例えば、同じコーヒースタンドでも、創業者が「長野駅前で一店舗だけ経営したい」と考えているのであればそのリスクは小さく、スモールビジネスと言えるかもしれませんが、「●●な価値を提供するため、世界中に同時に多店舗展開したい」と考えていたら後者はリスクの度合いが前者よりも格段に大きく、スタートアップビジネスと言えるかもしれません。

「自分はスモールビジネスでいい」と思っていた人が、創業後に方向転換しスタートアップビジネスに向かっていくこともありますし、逆に、世界を目指すつもりが、いざ創業してみたら「やっぱり身の丈にあった経営をしていきたい」と意識が変わる人もいます。

ーーSSSでは、どちらを目指す場合でも柔軟に対応できると。

スモールビジネス、スタートアップビジネス、どちらが良い悪いということはありません。どちらの特徴も把握した上で、様々な選択肢を起業家自身が持てることが重要であると考えています。そのため、SSSではアイディアにおいても資金においても、起業家の選択肢の幅を広がるお手伝いをさせて頂いてます。

なお、資金さえ調達できれば新規創業がうまくいくわけではありません。当初の資金調達が順調であった企業でも、その後はなかなかビジネスが軌道に乗らなかったため、SSSでは継続的な支援を行うケースもあります。

創業に向いているのは「へこたれない人」。失敗を乗り越える前向きさが事業を成功へ導く


「SSS Nagano」で個別相談に応じる森山さん

ーー継続的な支援というのは?

定期的に相談の時間を設けて、例えば「狙っているターゲットは合っているのか?」、「どんなアプローチをしたらうまくいくのか?」等を一緒に考えたりもします。新しいアプローチがうまくいかなかった場合は、「何がだめだったんだろう?」、「じゃあ次はどうする?」とまた次の手を練っていきます。

ーー「創業したら終わり」ではなく、創業後も継続的に事業のブラッシュアップを続けていく。

ブラッシュアップを経て、事業が軌道に乗ってから急成長を遂げた方もいらっしゃいます。

現在も、さらに事業を成長させていくために、定期的に個別相談を続ける企業さんもいらっしゃいます。前述の依田さんも、SSSのセミナーに登壇いただくなど、今度は先輩起業家としてSSSに関わってくれています。

ーー長年創業支援をしている森山さんから見て、創業する上でどういう人がうまくいくと思いますか?

やっぱり、へこたれない人ですね。創業するということは、成功する可能性と同じくらい、失敗する可能性もあります。ただ、私たちは、創業する上で失敗は当然だと思っています。そこからまた挑戦すれば、あとは伸びていくだけですから。

ですが、ただやみくもにやり直すだけでは成功にはつながりません。どこがだめだったのか、どうしてだめだったのかを分析し、修正した上で、何度もトライできる前向きさが必要です。

そして、「次はどうしたらうまくいくのか」を一緒に考えるのも私たちコーディネーターの仕事です。へこたれずに何度でも相談に来て、SSSのことをたくさん使い倒して下さいね。