長野県創業支援センターの研究開発室の利用者を募集します
県内全エリア
長野3室、岡谷2室、松本1室の利用者を募集します。
対象者は、次のいずれかに該当し、かつ、自主的に研究開発を行う意欲のある個人・会社です。
〇 製造業、ソフトウェア業、その他創業支援センター所長が認める業種に属する事業を開始しようとする者又は開始した日以後5年を経過していない者
〇 新たに上記事業に係る研究開発に挑戦し、かつ、当該事業に関し新たに事業部署を設置しようとする会社(中小企業者)又は設置後2年を経過していない会社(中小企業者)
詳細は、当センターのサイトを御覧ください。
すべての「わたし」を創造的に生きよう。「WE-Nagano」が描く長野の未来【インタビュー後編】

自分の暮らしをより良くしていくにはどうしたらいいんだろう?
自分に出来ることはあるのかな?
2023年に発足した「WE-Nagano」は、ジェンダー・国籍・世代・セクターを超えて、より良い社会のあり方を地域に根ざしながらグローバルな視座で考えることを目指した長野県立大学発のプロジェクトです。
2025年7月18-19日に開催される第2回Global Conferenceでは、長野で活躍する起業家やプレーヤー、海外からのゲストを含む他分野の実践者と、「わたし」が創造する良い暮らしと地域の未来について考えます。
立ち上げの中心メンバーとして活動する渡邉さやかさんは、自身も30代で起業し、当時の経験からアジアの女性起業家の支援を行ってきました。
インタビュー後編では、地域とグローバルという2つの視点を持つことがどうして大切なのか、第2回Global Conferenceの見どころや、「WE-Nagano」が描く未来についてお話を伺いました。
<お話を聞いた人>
渡邉さやかさん
長野県出身。長野県立大学大学院ソーシャル・イノベーション研究科 准教授。ビジネスを通じて社会課題を解決できる仕組みを考えたいという想いから、2007年新卒として外資系コンサルティング会社に入社。2011年6月退職。独立後は、被災地での産業活性プロジェクトや、企業途上国・新興国進出支援として、東南アジアだけでなく、中東・中央アジア・アフリカで事業開発に関わる。また、2014年にAWSEN(アジア女性社会起業家ネットワーク)を立ち上げ、アジアを中心に女性社会起業家支援に尽力、現在は国内の女性の創業・起業や就労支援にも携わる。
地域で活動する人と、地域で暮らす人たちに橋をかける

――インタビュー前編では、「WE-Nagano」立ち上げの経緯をお話いただきましたが、昨年の第1回Global Conferenceの手応えはいかがでしたか?
来場者の方からのアンケートで、「長野の歴史が変わる瞬間を見た」「長野でこんな登壇者の方々の話が聞けるなんて思わなかった」「大学でのイベントに参加したことがなかった、大学が身近になった」こういう人の話を聞いたことがなかった」というコメントをいただけたのがとてもうれしかったです。
中には、「近所だけど大学との接点がなかった。面白そうだったから来てみた」「地域の若者の声が聞けてうれしい」という地元の方もたくさんいらっしゃって。せっかく地域で活動する経営者や若者がいるのに、地域の人たちとの接点を持てずにいるのはとてももったいないので、Global Conferenceが人と人との橋渡しのような役割が担えたらと思っています。
去年から今年にかけて、協賛企業やメディアパートナーも増えてきました。2年目にして広がりが出てきたと感じています。今後もさらに同じ思いの仲間を増やしていきたいです。
ビジネスのセクターにいなくても、暮らしや地域を変えていける

――2025年度のカンファレンスの概要と見所を教えて下さい。
今年度は、7月18日(金)と7月19日(土)の2日間、長野県立美術館と長野県立大学三輪キャンパスの2会場で開催します。
DAY1は、長野県立美術館の地下ホールを会場に、昨年の流れを引き継ぎ「女性が切り拓く新たなキャリアと社会」、「グローバル視点から考える女性の力と地域イノベーション」、「長野県から考える『誰もが幸せに暮らす地域』」の3つのセッションを行います。
DAY2は、長野県立大学三輪キャンパスで、「10-20代が考える『生きやすい地域』」、「『わたしを生きる』とは」、「わたしたちが創造する『良い暮らし』『良い地域』~多様性の視点から、寛容性のある社会について考える生かして~」の3つのセッションを行います。

昨年度は、ビジネスの視点で『良い企業』について考えるセッションが中心でしたが、今年はより身近な『良い暮らし』をどう創造できるのかという視点に変わりました。
また、今年はさらに若者の参加者を増やしたいと思い、長野市内の高校等にもお声がけしています。性別や年齢、属性など、あらゆる垣根を越えて一緒に考える機会になればいいなと思っています。
「自分にもできるかも」というアントレプレナーシップの醸成を

――地域とグローバル、両方の視点を大切にされているのはどうしてですか?
アジア女性起業家ネットワークを立ち上げた後に、アジアの女性起業家を日本各地に呼んでいたんですが、東京だけでなく、岩手の陸前高田や長野の諏訪、沖縄の離島など地方でのイベントも意識的に企画していました。
すると、「英語を話せない」「グローバルを意識したことがない」という人でも、言語の壁を越えて同じ女性だからこそ共感できる悩みというのがたくさんあったんです。私はそこに可能性を感じて。
私が意識したいのは、いわゆるスーパースター的な経営者としての姿だけではなく、個人のストーリーを見せることです。女性起業家が別世界の存在ではなく、「意外と一緒じゃん」というところから、関心を持ったり、自分のやりたいことを考えるきっかけになればと思っています。
――今の長野県について、どのような課題意識をお持ちですか。また、「WE-Nagano」を通して長野がどう変わっていくことを望んでいますか?

日本財団の18歳意識調査によると、長野県は「自分には人に誇れる個性がある」と考えている人の数が最下位なんです。これはとても残念なことですし、大きな課題だと考えてます。
「WE-Nagano」が掲げるテーマは、「女性」と「グローバル」という大きな軸がありますが、今年度は「若者のアントレプレナーシップ醸成」にも力を入れていきたいと思っています。それを踏まえ、今年のカンファレンスのテーマも、「わたしたちが創造する良い暮らし、良い地域」にしました。
起業をする人の背景には、身近なロールモデルの存在が非常に大切だと言われています。地域の若者が「自分にも何か出来るかも」と思うきっかけになってほしいです。
登壇者の言葉があなたの暮らしを変えるヒントになるはず

――今年は特にどんな方に参加して欲しいですか? 来場者に向けたメッセージをお願いします。
まだ「起業したい、起業を考えている」というわけじゃなくても、「これからどうやって生きていこうかな」「地域の中で活動しているんだけれどうまくいかないな」とモヤモヤしている人にも、ぜひ来ていただきたいです。
結婚・出産といったわかりやすいライフイベントだけじゃなく、キャリアの変化や移住などの環境の変化があった人、一方でグローバルな動向に興味がある人にも響く内容になっていると思います。
「ちょっと面白そうだから行ってみよう」「その日たまたま暇だから行ってみようかな」という理由でも、登壇者の誰かの言葉から、なにかしら自分の暮らしを変えていくヒントを得られるところがあるはずですよ。
▷「WE-Nagano」の詳細、カンファレンスの申し込みはこちら!
すべての「わたし」を創造的に生きよう。「WE-Nagano」が描く長野の未来【インタビュー前編】

自分の暮らしをより良くしていくにはどうしたらいいんだろう?
自分に出来ることはあるのかな?
2023年に発足した「WE-Nagano(Women Entrepreneurs Nagano)」は、ジェンダー・国籍・世代・セクターを超えて、より良い社会のあり方を地域に根ざしながら世界史座で考えることを目指した長野県立大学発のプロジェクトです。
2025年7月18-19日に開催される第2回Global Conferenceでは、長野で活躍する起業家やプレーヤー、海外からのゲストを含む他分野の実践者と、「わたし」が創造する良い暮らしと地域の未来について考えます。
立ち上げの中心メンバーとして活動する渡邉さやかさんは、自身も30代で起業し、当時の経験からアジアの女性起業家の支援を行ってきました。インタビュー前半では、渡邉さんご自身のキャリアや、「WE-Nagano」立ち上げの経緯について伺いました。
<お話を聞いた人>
渡邉さやかさん
長野県出身。長野県立大学大学院ソーシャル・イノベーション研究科 准教授。ビジネスを通じて社会課題を解決できる仕組みを考えたいという想いから、2007年新卒として外資系コンサルティング会社に入社。2011年6月退職。独立後は、被災地での産業活性プロジェクトや、企業途上国・新興国進出支援として、東南アジアだけでなく、中東・中央アジア・アフリカで事業開発に関わる。また、2014年にAWSEN(アジア女性社会起業家ネットワーク)を立ち上げ、アジアを中心に女性社会起業家支援に尽力、現在は国内の女性の創業・起業や就労支援にも携わる。
地域に根ざしながら、グローバルな視点とアントレプレナーシップを醸成

――まず、WE-Naganoの概要を教えて下さい。
「WE-Nagano(Women Entrepreneurs Nagano)」は、長野県立大学が主催するプロジェクトで、すべての「わたし」が創造的に生きることを応援する取り組みです。地域に根ざしながらグローバルな視点を持ち、より良い社会や未来をつくっていくために、議論や交流を行っています。
名称の “W” (Women) は、これまでの社会システムとは異なる視点という意味での女性的リーダーシップの必要性や、現代社会で未だ可能性を拓ききれていない女性という存在への期待を表現しています。
また、”E” (Entrepreneurs) には、起業家精神、つまり、自らの可能性を信じ、新たな世界を拓いていく姿勢を、事業を起こす人に限らずすべての人が持てるようにという願いを込めています。
2023年1月頃から有志で準備を進め、2024年3月8日の「国際女性デー」にプロジェクトの発足をお知らせできることとなりました。事務局は、長野県立大学・大学院の教員や学生が務めており、年齢やジェンダーや国籍を超えて、幅広い参加者の皆さんが集い、共に考え、交流してもらえる機会になればと願い、活動しています。

昨年は、「グローバル/ローカル(地域)/イノベーション・女性(女性的リーダーシップ)」をキーワードに、長野市で第1回「WE-Nagano Global Conference」を開催しました。
国内外のスピーカーによるセッションやワークショップを通じて、アントレプレナーシップ(起業家精神)を持つ一人ひとりが、国籍・性別・世代・分野を超えて未来を創造していく場として今後も継続していきます。
――「すべての『わたし』を創造的に生きよう」というメッセージがとても印象的ですね。
私たちは、多様な生き方を創造していくことを、広義に「起業」と呼んでいます。すべての人が、創造的に生きていくこと。生き方としての起業について考えること。そうした動きが、地域をより進化させ、持続的な社会を生み出していくと信じています。
30代で起業し、地域に入り込んだ経験から生まれた思い

――渡邉さんご自身も起業を経験しており、長年東南アジアの女性起業家支援の活動を行っていると伺っています。「WE-Nagano」立ち上げには、ご自身の経験からくる思いも込められているのでしょうか。
まず私の経歴からお話すると、私は長野県の出身ですが、進学と同時に上京して長野を離れ、大学と大学院では国際協力や国際政治、途上国支援について学んでいました。卒業後は、ビジネスを通じて社会課題を解決できる仕組みを考えたいという想いから、2007年新卒としてIBMビジネスコンサルティングサービス(現 日本IBM)に入社しました。
東日本大震災をきっかけに、2011年から陸前高田市に通うようになり、地元の気仙椿の実を活用した化粧品開発・販売の事業を立ち上げました。
しかし、2013年から大手美容メーカーが同じく気仙椿を使用した事業を開始したんです。それにより、地元の方々の間で「採った椿の実を、さやかちゃんの会社に渡せばいいのか、○○社に渡せばいいのか」と、混乱を生んでしまって。
地域のために何かをしたいと始めた事業でしたが、「よそ者」である私がどうやって地域に関わっていくのかを考え始めるきっかけとなりました。
ちょうどその頃、ミャンマーは民主化が進み、東南アジア各国への外資企業の参入が加速的に増えていました。規模は違えど、私が経験したようなことが向こうでも起きているのではないかと。どんどん外からの参入があり、変化が起きる中で、起業家達はどうやってその地域の良さや文化を守りながら経済開発を進めているのか興味を持ち、個人的にアジア諸国に通い始めたんです。
――ご自身の経験が、東南アジアの女性起業家支援につながったのですね。
最初の頃は、とにかく自費で現地の起業家を周りました。その結果、地域の良さを守りながら事業を進めている起業家たちは社会起業家と呼ばれていることが多く、更には特に女性たちが地域に根ざしてビジネスをしていることがわかりました。また、国や地域が違えど女性の社会起業家はみんな似た課題を抱えていることや、孤立しがちなことがわかってきて。
課題解決のためにはまずネットワークが必要だと、当時日本財団からご支援をいただき、2014年に「アジア女性社会起業家ネットワーク(AWSEN)」を立ち上げました。
出産と子育てをきっかけに働き方を考え直し、長野にUターン移住
――グローバルに活動を展開していたところから、長野にフィールドを移したのはどうしてですか?

「アジア女性社会起業家ネットワーク(AWSEN)」を立ち上げてから、他の仕事も含めて、毎月1~2回は海外に行くような生活を送っていたんです。この生活を続けていたら、もし結婚をしたとしても子どもを産んで育てるのは難しいだろうな、もし子どもを欲しいと思うのであれば、いずれは働き方を変えないといけないなと考えていました。
30代後半で結婚して子どもを授かり、「もう頻繁に海外に行くことも難しくなるだろうし、自分が育ったような自然が近くにある土地で子育てをしながら働きたい」と考えていた頃に、長野県立大学の大学院立ち上げにあたり教員をしないかとお話をいただいたんです。
長野には実家もありますし、子育て環境も良さそうだったので家族で長野にUターンしてきました。
――そこから「WE-Nagano」立ち上げにもつながっていくのですね。
長野県立大学は、ミッションとしてグローバル発信、リーダーシップ育成、地域イノベーションを掲げています
前長野県立大学の理事長を務めていた安藤国威さん(現在は長野県立大学顧問)の「地域イノベーションの要は、女性である」という想いと、私の「アジアの女性起業家コミュニティと長野をつなげたい」という想いから、今後の地域イノベーションのあり方について、「女性的な」リーダーシップやグローバル視点を加え、長野県から発信・交流していく機会を作ろうと「WE-Nagano」が動き出しました。
インタビュー後編では、第1回Global Conferenceを終えての手ごたえや、今年の見どころを伺います。
▷「WE-Nagano」の詳細、カンファレンスの申し込みはこちら!
自分の ”興味・体験” からビジネスを作り出すスタートアップ入門講座
長野市


NAGANO STARTUP STUDIO 〜自分の ”興味・体験” からビジネスを作り出すスタートアップ入門講座〜は、「自分の興味・体験から来る価値観と新規事業創出のノウハウを融合させた起業」を目指す方々のための学びの場です。昨年度の内容をさらにブラッシュアップして皆様にお届けいたします。
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総合商社から信大発ベンチャーへ|AKEBONOが描く信州発グルテンフリー事業の未来【後編】先輩起業家インタビュー

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。
「みんながみんな全く同じことやっていたら競合してしまうと思うんですが、それぞれの強みを生かして連携できれば、お互いに成長していくことができる。そういう広がりを今後も増やしていければ」
そう語るのは、信州大学発ベンチャー「AKEBONO株式会社」を立ち上げた井上格(いのうえ いたる)さん。創業から5年、AKEBONO株式会社は50団体以上の生産者と連携し、年間10〜15トンのソルガム生産体制を構築しています。グルテンフリー専門店「縁-enishi-」のオープンなど、事業はさらに広がっています。
インタビュー後編では、創業から5年が経つ現在や、今後の展望を聞きました。
<お話を聞いた人>
AKEBONO株式会社 代表取締役 井上 格
栃木県出身。早稲田大学大学院卒業後、東京の商社に就職。2018年に長野市地域おこし協力隊として着任し、翌年から「ながのブランド郷土食」社会人スキルアップコース※1を履修し、そこでの学びを基にAKEBONO株式会社を設立。同社は信州大学発ベンチャーとして認定されており、ソルガム研究の第一人者である信州大学の天野良彦元学部長との連携のもと事業を展開している。
※1 信州大学大学院総合理工学研究科の個性・特色を生かしつつ、長野市と連携し、企業からは実務家講師を迎え、食品製造分野での技術革新を担う人材を創出し、地域経済の活性化と発展に貢献することを目的とする社会人向けプログラム
グルテンフリーを軸に、他社との関わりを増やして市場全体の底上げを目指す
――インタビュー前編では、創業までの経緯をお聞きしました。転機になったという6次産業化と店舗経営について詳しく教えて下さい。

はじめはソルガムの生産・販売を事業の軸に据えていましたが、「ただソルガムを素材として売り込むだけでは事業が広がらない」と感じ、2020年から自社での商品開発と店舗経営に向けて動き始めました。
コロナの関係でオープンまでは時間がかかりましたが、2023年にグルテンフリー食材を扱うアンテナショップ「縁-enishi-」を長野市内にオープンしました。実際に売り場を持ったことで、どんな人が買いに来るのかとか、どういう商品が売れるのかなど、リアルなニーズが見えてくるようになりました。
また、「縁-enishi-」では、自社製品だけでなくあらゆるグルテンフリー食材や商品を仕入れて販売しています。そうすることで、グルテンフリー食材を扱う同業他社との横のつながりや、協力体制ができてきたんです。
――協力体制というのは?
たとえば、「縁-enishi-」はソルガムを使ったパンの開発に力を入れているのですが、同じくグルテンフリー食材を使った焼き菓子などのお菓子を展開している企業から、OEMでの商品開発をお願いされることが増えました。逆に、うちでは出来ない商品開発をしている企業から商品を仕入れて販売をすることもあります。
現在は、今年オープンするイオンモール須坂での出店準備を進めています。そこでは、ソルガムを使用した自社商品に限らず全国各地のグルテンフリーの商品を仕入れて販売しようと思っていて。セレクトショップのような形ですね。グルテンフリー食品の開発に取り組む企業を競合他社として見るのではなく、一緒に協業できるようなお店になればいいなと思っているんです。
みんながみんな全く同じことやっていたら競合してしまうと思うんですが、グルテンフリーという文脈では一緒でも、例えばパンとお菓子では市場がちょっと違いますよね。それぞれの強みを生かして連携できれば、お互いに成長していくことができる。そういう広がりを今後も増やしていければいいなと思います。
事業成長の鍵は、ブレない軸と柔軟な方向転換

――創業から5年が経ちますが、事業を継続させていくために意識してきたことはありますか?
固定観念にとらわれず、ちょっとずつ修正していったり方向転換をしたりと、常にピボットし続けることを意識してきました。
「絶対にこれをやるんだ」という信念も大切ですが、いざやってみて「手応えがないな」と思ったら、ずっとそれをやり続けるよりも、ちょっと変えてみるとか、周りから言われたことを「そういう手もあるか、やってみよう」と柔軟にチャレンジしてみる。
僕の場合は、ソルガムが一つの軸としてあったので、「うまくいかないから、もうソルガムはやめる!」とはなりませんでした。でも、どう展開するかは生産と販売だけにこだわらなくなった。自分のなかの譲れないものは何なのかを見極めるバランスが大事だと思います。
――6字産業化と「縁-enishi-」のオープンもまさに柔軟な転換でしたね。

実は、当時は本当に行き詰まっていて。あの時「縁-enishi-」の営業を始めなかったら、今頃AKEBONOの事業自体がもう終わってしまっていたかもしれません。
あのまま「ソルガムを素材として売る」というところから脱却できずにいたら、きっと。セールストークを磨く、資料を充実させる、広告を打つなど「どうやったらみんな買ってくれるだろう?」という方向に突き詰めてしまっていたと思うんです。でも、それは事業展開ではなく単なる営業の仕方の話になってしまいますよね。
それでも突き詰めればブレイクスルーできたのかもしれません。でも、その方向性ではイオンにグルテンフリー食材のセレクトショップを持つなんて未来はきっとありませんでしたし、いまある関係性も築けなかった。
――AKEBONOの今後の展望を教えて下さい。
AKEBONOは創業5年以上が経ち、転換期を迎えています。「自分たちの事業を立ち上げよう」というフェーズから、「市場全体をもっと大きくしていこう」という目標が見えてきました。
グルテンフリーという大きな文脈さえ交わっていれば、いろんな企業さんやお店、プレーヤーの方々といろんな関わり方ができる。これからAKEBONOは、グルテンフリー業界全体を引っ張って底上げしていける存在になれたらいいなと強く思っています。「自分たちだけがうまくいけばいい」と考えるのではなく、グルテンフリー市場全体を大きくして、みんなでメリットを享受できることを目指していきたいなと。
今はさらなる事業成長のために、信州スタートアップステーションで資金調達の相談をしているところです。創業を考えている人や、創業直後の企業だけでなく、自分たちのように創業から数年が経って成長段階の企業へのサポート体制があるというのも長野のいいところだなと改めて感じています。
長野での起業を目指す後輩へメッセージ
――最後に、長野での創業を考えている人に向けたメッセージをお願いします。

これは私自身が会社員時代に言われたことなんですが……、一度「起業したい」と思ってしまうと、多分その気持ちはやってみるまで一生消えないと思うんです。思いは一生消えない。それなら、あなたはいつやるの?と。成功するにしても失敗するにしても、早い方がいい。そう言われて、自分は一歩踏み出すことができました。
そもそも経営者としての働き方が自分に合うか合わないかは実際にやってみないとわからないですし、どうしても時間が経てば経つほどリスクが増えてしまうと思うんですよ。結婚しました、子供できました、家を買います……、いろんな「失敗できない理由」がどんどん積み重なっていく。
であれば、やり直しが利く身軽なうちにやってみるというのは、合理的な考え方です。成功すれば早く成果を得られるし、そこからさらなる成長のために使う時間がいっぱいあると。失敗するにしても、早いうちに失敗しておくと、やり直しがききます。
僕は、20代のうちに一歩踏み出して、「長野で起業する」という夢を叶えられてよかったと思っています。今起業を悩んでいる人にも、「まず一歩踏み出してみて」とメッセージを贈りたいです。
株式会社AKEBONOのホームページ
グルテンフリー専門のアンテナショップ「縁-enishi-」のホームページ
総合商社から信大発ベンチャーへ|AKEBONOが描く信州発グルテンフリー事業の未来【前編】先輩起業家インタビュー

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。
「学生の頃から『いつか起業したい』という思いがあり、ずっときっかけをずっと探していました。子どもの小麦アレルギーがわかったときに、自分の課題と社会課題をリンクさせることができるなと感じて。ちょうどその頃に長野市と信州大学がソルガムという穀物の生産に力を入れていることを知ったんです」
そう語るのは、信州大学発ベンチャー「AKEBONO株式会社」を立ち上げた井上格(いのうえ いたる)さん。井上さんは、小麦アレルギーを持つ息子のために安全な食材を探す中で信州産の「ソルガム」という雑穀と出会い、事業化の可能性を感じて長野市に移住し、創業に向けて動き始めました。
インタビュー前編では、ソルガムとの出会いや、長野への移住から創業に至るまでの道のりを聞きました。
<お話を聞いた人>
AKEBONO株式会社 代表取締役 井上 格
栃木県出身。早稲田大学大学院卒業後、東京の商社に就職。2018年に長野市地域おこし協力隊として着任し、翌年から「ながのブランド郷土食」社会人スキルアップコース※1を履修し、そこでの学びを基にAKEBONO株式会社を設立。同社は信州大学発ベンチャーとして認定されており、ソルガム研究の第一人者である信州大学の天野良彦元学部長との連携のもと事業を展開している。
※1 信州大学大学院総合理工学研究科の個性・特色を生かしつつ、長野市と連携し、企業からは実務家講師を迎え、食品製造分野での技術革新を担う人材を創出し、地域経済の活性化と発展に貢献することを目的とする社会人向けプログラム
信州産ソルガムでグルテンフリー市場拡大を目指す

――まずは株式会社AKEBONOの事業内容を教えて下さい。
信州産ソルガムを中心とした食品の生産・加工・販売を行っています。具体的には3つの事業があって、1つ目がソルガムを中心とした信州産食材の生産・流通を行う地産商社としての事業。2つ目がグルテンフリー食品のOEM製造受託事業、そして3つ目がグルテンフリー専門のアンテナショップ「縁-enishi-」での食品販売です。
――ソルガムとはどんな素材ですか?
ソルガムは世界5大穀物の一つとされ、日本では「タカキビ」「モロコシ」とも呼ばれているイネ科の雑穀です。アフリカ原産で、紀元前約3000年前から栽培され始め、インドやアジアなど広範囲に広がっていきました。
日本には遅くとも平安時代に伝来したといわれており、信州でも古くから栽培され、米の代用でお餅として食べられていました。最大の特徴は、グルテンフリーでアレルゲンフリーということ。さらにGABAやポリフェノール、食物繊維なども豊富に含まれているスーパーフードなんです。
栽培も比較的簡単で、山間地域でも育ち、耕作放棄地の活用にも適しています。現在は、50団体以上の生産者さんと連携して、年間10〜15トンのソルガム生産体制を構築しています。
長野県でのソルガム研究についての歴史は長く、現在も信州大学、長野市と産学官連携で地域循環型社会実現の鍵として信州産ソルガムの普及に努めています。
――お子さんの小麦アレルギーが発覚したことがAKEBONOの創業につながったと伺っています。もともと「起業したい」という思いはあったのでしょうか。
大学生ぐらいの頃から漠然と「いつか起業したい」という思いがありました。しかし、具体的なアイデアはなく、ずっときっかけを探していました。大学院卒業後は東京の総合商社に就職し、国内外いろんなところを周りながら「自分の好きな場所はどこか」「やりたいことは何か」を探し続けていました。
そんな中で、妻の実家がある長野市を何度も訪れるうちに、「ここが一番自分に合っているな」という感覚があって。次第に「いつか長野で暮らしたい、起業するなら長野がいい」という思いが大きくなっていったんです。
子供の小麦アレルギーがきっかけで総合商社を退職、長野移住と創業を決意

――日本各地や世界を見た上で、「長野で起業したい」という思いが生まれたのですね。
「長野で起業したい」と思い始めてからは、約5年ほど会社員を続けながらタイミングを見計らっていました。
具体的な事業のアイデアが固まる前から、「信州ベンチャーサミット」に参加するなどアクションを取っていたことで、長野や起業に関わる人とつながりができたことは大きかったと思います。今でもお世話になっている信州スタートアップステーションのコーディネーターである森山さんとは、移住前から顔見知りだったんです。そうして長野とのつながりを少しずつ増やしながら、いざチャンスが来たときに一歩踏み出せるようにちょっとずつアクションを重ねていました。
――そこから現在の事業を思いつくまではどんな経緯が?

ソルガムという素材自体を見つけられたのは本当にたまたまでした。
長男の小麦アレルギーがわかったとき、「これなら自分自身の課題と社会課題をリンクさせることができる」と感じ、グルテンフリー食材を扱う事業のアイデアが生まれたんです。
そこから、「長野で何ができるだろう」といろいろと調べていく中で、ちょうど信州大学と長野市がソルガムを普及するプロジェクトを行っていると知って。長野市でソルガムの普及活動をする協力隊の募集があったので、そこに飛び込んだんです。
そうして2018年に長野市地域おこし協力隊として着任・家族で長野市に移住し、翌年から「ながのブランド郷土食」社会人スキルアップコースを履修し、そこでの学びを基にAKEBONO株式会社を設立しました。
――長野で起業したからできたことや、得られた支援はありましたか?
もともと「長野で暮らしたい」という思いがあったので、「来てよかったな」というのが素直な感想です。田舎過ぎず都会過ぎず、でも自然があって。生活面でも子育てする上でも、私にとってはとてもバランスがいいです。「やっぱり東京に戻りたい」と思ったことは一度もありません。
また、私が移住してきた当時はまだ移住者も起業家も珍しかったので、創業前から新聞やテレビなどさまざまメディアに取り上げていただいたことは、その後の営業活動において非常に助かりました。都会での起業ではこうはいかなかっただろうなと。
産学連携が生んだ信州大学発ベンチャーならではの強み

――移住後は、実際にどのようなステップで事業化を進めていったのですか?
まずはソルガムを育てるところからですね。ソルガムは農作物なので、年に1回しか採れないんです。なので、「ソルガムで事業をやろう!」と意気込んで長野にやってきたものの、初年度はまだ売るものがない状態でした。
まずは信州大学や生産者の方と連携してソルガムを育てつつ、「ソルガムという素材があるのですが、来年収穫できたら使ってもらえますか?」と地道にヒアリングや営業を重ねていきました。また、同時に行政や金融機関・支援機関と相談をしながら法人化に向けた準備を行いました。
――まずはソルガムを育てるところからのスタートだったのですね。現在AKEBONOでは、50団体以上の生産者と連携し、耕作放棄地の活用にも乗り出していますが、生産者側との連携はどのようにアプローチしていったのでしょうか。
生産者さんとの連携については、やはり行政や信州大学と一緒にやらせていただけたことが大きかったと思います。まずは地域の農家の方さん向けにセミナーや講習会・報告会を開いていただき、そこに来てくださった方々に種を配布することから始めていきました。
県外から来た20代の起業家が、いきなり農家さんに直接電話して「おたくの畑でソルガムを作ってくれませんか」とアプローチしていくのはさすがにハードルが高すぎたと思います。生産の面では、長野で信頼の厚い信州大学が間に入ってくれたおかげで、一気に事業が進みました。
――創業当初の2019年は、まだグルテンフリー市場自体が小さく、ソルガムという素材も認知されていなかったと思います。どのように市場を広げていきましたか?
大学・行政は特定の企業への営業はできないので、販売を進めるための営業活動は自分が担っていました。今でこそグルテンフリーという言葉は共通言語みたいになりつつありますが、当時は小麦アレルギーやグルテンフリーという概念自体がまだ全然浸透しておらず、最初の頃はなかなか大変でしたね。
特に1年目は先ほどお話ししたようにソルガム自体が収穫前で素材もなかったので、正直しんどい部分もありました。「今後グルテンフリーの流れが来ますよ」「そもそもソルガムというのは……」とゼロから説明していくことが必要でした。
最初は、ただソルガムを生産して「この素材を使って何か作ってください」と売り込みさえすれば事業が成り立つと思っていたんですが、それだけではなかなか広がらなかったんです。ソルガムは、小麦粉の代わりにそのまま使えるとはいえ少し使い方にノウハウやコツがいります。そのため、ただ説明するだけでは実際に使っていただけるまでのハードルが高く、どれだけ営業を続けてもそんなに手応えがなくて。
そこで、「まずは自分たちがやってみよう」と、創業当初は想定していなかった6次産業化や店舗経営にも踏み出すことにしたんです。これがAKEBONOにとって大きな転機になりました。
インタビュー後編では、創業から5年を経た現在の事業と、今後の展望について聞きました。株式会社AKEBONOのホームページ
グルテンフリー専門のアンテナショップ「縁-enishi-」のホームページ
「ITじゃなくて仕組みだった!?今こそ見直したい経営の整え方」
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- DX・AI等のスタートアップノウハウで自社の収益力を強化したい
参加企業のメリット
- 下記プログラムへの参加が可能です。参加希望者締切:8月31日(日)
- 継続的にスタートアップとの交流の機会をご提供
令和7年度オープンイノベーションプログラム
- 10~12月上旬 交流前に課題整理をコーディネーター(中小企業診断士等)が実施
- 12月中旬 スタートアップへの提案機会をご提供(リバースピッチ)
■応募方法
下記URLから応募書類を取得・記入し、下記宛先へ電子データで提出してください。 応募先:運営事務局(有限責任監査法人トーマツ) (shinshuss@tohmatsu.co.jp) 詳細は下記URLをご覧ください。
https://www.pref.nagano.lg.jp//keieishien/sangyo/shokogyo/sogyo/openinnovation.html
地方起業と事業計画の重要性【SSSセミナーレポート】

信州スタートアップステーション(SSS)では、長野での創業を考えている方や、支援機関の方向けのオンラインセミナーを定期的に開催しています。
2025年夏期は、ビジネスのアイデア出しから事業計画の作成までみっちりサポートする全4回の創業セミナーをオフライン・オンライン配信併用で開催します。
6月17日に行われた第1回目のセミナーでは、「地方企業と事業計画の重要性」をテーマに、株式会社つばさ公益社 代表取締役の篠原憲文氏を迎え、地方ビジネスにおける事業計画の作り方や金融機関との付き合い方、地方ならではの課題と機会についてお話をいただきました。セミナーの様子をレポートします。
【登壇者】
株式会社つばさ公益社 代表取締役 篠原憲文氏
「家族葬のつばさ」創業7年、東信エリア10会館運営。明治大卒。メリルリンチ日本証券、eBay Japan、Macromedeia(現Adobe)勤務。日本DX大賞、信州ベンチャーサミット最優秀賞など。
進行役:信州スタートアップステーション コーディネーター
篠原氏は、創業7年で10店舗を展開する葬儀会社を経営しています。
「丸いノコギリ」の教訓:準備の重要性

セミナーの冒頭で篠原氏から紹介されたのは「丸いノコギリ」の話でした。木こりが切れないノコギリで木を切り続けているのを見て、なぜ刃を研がないのかと聞くと「忙しいから」と答えたという話です。
「順番が違うわけです。最初にしなければいけないのは刃を研ぐこと。しっかり準備をした上で木を切るべきなのに、切れないノコギリでずっと時間を使っていると」
自身も、信州スタートアップステーション(SSS)を活用して事業計画書の作成支援や銀行融資の相談をし、金融機関との「共通言語」を学んだ経験を振り返りました。まずは知識をつけて自分自身のノコギリを研ぎ、相手と文脈を合わせたり、考えを理解したりすることで、話が伝わり事業の実現に力を貸してもらえるようになるのです。
さらに、篠原氏は「事業計画は信頼を作るためのツール」と語ります。
「事業計画書は、銀行や投資家に事業の実現可能性を示すだけでなく、チームとの共通の言葉や向かっていく方向性を示すものとなります」
そのため、客観性の担保の重要性と、主要な財務諸表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)を読めるようにしておく必要性が強調されました。
地方企業のメリットと課題
続いて、地方起業には都市部にはない独自の強みがあると篠原氏は説明します。特に地域資源の活用については、特産品や文化資源を活かした差別化がしやすく、独自性を生み出しやすい環境があるといいます。
「特に、ふるさと納税みたいなチャンスを活用して極端に大きくなった会社って実はたくさんあって。例えば徳島県には創業初年度に売り上げ10億、2年目30億みたいな会社もあります。実はチャンスの種というのは今地方にすごくたくさんあるんじゃないかと」
また、コスト面では都市部と比較して人件費や家賃を抑えられ、初期投資を小さくできるメリットがあります。地域課題への取り組みについても、地域の問題解決に取り組むことで応援されやすい環境があると語りました。
「どこを掘っても地域は問題だらけだから、その地域の問題解決を頑張ろうとすると、みんなから応援されやすいみたいな環境がある。さらに、キーマンとすぐに繋がれることも強みです。ネットワーク構築のしやすさも地方の良さだなと感じます」
一方で、地方企業特有の課題についても率直に語られました。最も重要な課題として挙げられたのは顧客の獲得。次に地方特有の市場の小ささが問題となります。
「顧客獲得に関しては課題があるなというのは、自分で事業をやっていても感じます。シンプルに人が少ないとか、販路がないとか、どの属性にターゲットを定めるんだとか、さらにどう広げるんだとか。従来に地方になかったような文脈で集客するなど、工夫をする必要があると思います」
ただし、これには両面性があり、競争が少ないという利点もあると説明されました。
また、特に強調されたのがキャズム理論の重要性でした。新商品・サービスがイノベーター(2.5%)、アーリーアダプター(13.5%)から一般顧客(アーリーマジョリティー)に移行する際に現れる「深くて大きな溝」について詳しく説明されました。
特に地方では、都市部なら成立するニッチなビジネスも、興味関心を引く人の絶対数が少ないがゆえに成立しないケースが多いため、時間と資金を考慮に入れた事業計画が不可欠だと強調されました。
「nice to have(あったらいい)」と「must have(ないと困る)」の違い
さらに篠原氏は、「実は支出管理が事業計画の7割だと個人的には思っています」と続けます。予測が難しい売り上げに対し、支出はコントロールできるという観点から、家賃、人件費、在庫など管理可能な項目をしっかり計画することの重要性が説明されました。
特に注目すべきは固定費で、「固定費がゼロだったらいつまでも継続できる」という視点から、「死なない事業計画」を作ることが強調されました。
その上で篠原氏は、長年の経営経験から、事業計画でよく見られる典型的な失敗パターンについて説明しました。最初に挙げられるのが過大な売上予測です。根拠のない楽観的な見込みで初期段階での過大評価をしてしまうケースについて語りました。
「ピカピカキラキラのオフィスや、人件費を過剰に取り過ぎるなど、固定費を最初からかけすぎてしまうのは逆効果。多くの場合で、初期顧客からメインストリームに移るまでに資金ショートを多くの場合で起こしてしまいます。創業初期の経営者が陥りやすい落とし穴として、キャッシュフロー管理の失敗も挙げられます」
続いて篠原氏は、よく見落とされがちな市場調査の重要性について、自身の経験を踏まえて警鐘を鳴らしました。
「仮説を作ってコンセプトを作った段階で『絶対に行ける!』と熱が上がってしまい、気づくと、ちゃんとした市場調査もしないうちにプロダクトを作って売り始めてしまうみたいなことが起きやすい。やっぱり熱を持って作るサービスやプロダクトというのは目線が偏っていて、とてもじゃないけど客観的ではなく、自分にしかわからない理論で組み立てられてることがあります」
そこで、ニーズを見極める重要なポイントとして「nice to have(あったらいい)」と「must have(ないと困る)」の違いを理解することの重要性が実例を交えて語られました。
「『あったらいいよね』から、お友達相手にプロダクトを作りました、『いいね』と言ってくれたから始めました、それで全然売れないということがすごくよくあると。結局、そこに痛みが生じていて、『ないと困る』から、お金払ってもでも解決したいことなら、確かに入っていけるんだけども、『あったらいいよね』は基本売れないし、友達の評価は全く当てにならない」
「勝てる場所で戦う」地方企業のポジショニング戦略
地方でのビジネス展開について、篠原氏は「勝てる場所で戦う」ことの重要性を強調しました。
まず、先行者がいることのメリットについて説明しました。一見すると競合がいることは不利に思えますが、むしろ市場の存在証明になると語ります。
次に、メインストリームの横にあるニッチ市場への着目と、セグメントやコンテンツを絞った戦略の有効性について詳しく説明されました。
「僕自身が地方で起業して思うのは、地方での創業は、先行している成功者がいる上で、ニッチかつ独自性のある領域がいいなと思ってます。メインストリームの横に、セグメントやコンテンツが絞られてる世界があると。例えば、メインストリームであるゴルフの、左利き用だとか女性専用、大きいサイズのゴルフウェア。メインストリームの横に流れているニッチで独自性を発揮して圧倒的に勝つ」
セミナーの最後は、「言われた通りやるのは難しいが、言われた通りやったら成功することがたくさんある。スマホの時代は情報がコモディティになったため、行動で差をつけましょう」というメッセージで締めくくられました。
今後の創業セミナーでは、アイデア出しと市場分析、事業計画書作成、事業計画のブラッシュアップを行っていきます。
長野での創業を考えている方や、創業して間もない方、中小企業等で新規事業をご担当されている方はぜひご参加下さい。
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WE-Nagano Global Conference 2025が開催されます
飯山エリア
長野エリア
松本エリア
諏訪エリア
上田エリア
佐久エリア

ジェンダー・世代・セクターを越え、より良い社会のあり方を地域に根ざしつつ世界視座で考えることを目指す、長野県立大学WE-Nagano。Global Conference 2025では、海外からのゲストを含む多分野の実践者と、「わたし」が創造する良い暮らしと地域の未来を共に考えます。
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WE-Nagano Global Conference 2025
「わたしたちが創造する「良い暮らし」「良い地域」」
■日時・場所
2025年7月18日(金)10:30~16:30 at. 長野県立美術館 地下 ホール(長野市箱清水1-4-4)
2025年7月19日(土)10:30~15:30 at. 長野県立大学 三輪キャンパス(長野市三輪8-49-7)
■対象
どなたでも(参加無料)
■申込
下記のフォームからお申し込みをお願いします。
https://forms.office.com/r/fXQhnn1i4x
※お申込みがなくともご来場いただけますが、定員を満たしている場合、お申込みがある方を優先させていただきます。
■内容
・国内外のゲストによるトークセッション
・学生・卒業生・地域の女性たちによるマルシェ「WE-Market」
・親子向け体験プログラム「WE-Place」など
*長野県はこの活動を共催しています。
詳細リンク
【SSWコラム】souが事業として目指すこと
県内全エリア

「なぜsouは、女性の創業や起業を支援するのか?」
今回はその背景にある“社会の今”についてお話ししたいと思います。
⚫︎長野県に見るジェンダー格差の現実
長野県は、2025年に発表された都道府県別のジェンダーギャップ指数で全国20位。
一見そこまで悪くない順位にも見えますが、実は「経済」の分野だけを見ると37位と大きく順位を下げています。特に「男女賃金格差」「管理職の女性割合」「社長の男女比」などで、全国ワーストに近い水準にあるのが現実です。

共同通信:都道府県別ジェンダーギャップ指数2025 https://digital.kyodonews.jp/gender2025/data/20?year=2025
信濃毎日新聞でも、2025年元日から「ともにあたらしく〜ジェンダー地方から〜」という連載が始まりました。ここではデータと当事者の声の両面から、地方における性差の実態が丁寧に描かれています。
ある調査によれば、「性別が理由で長野県を出たいと思ったことがある」と答えた人は、女性が圧倒的に多く、家庭内の役割分担においても「理想」と「現実」が大きく乖離している様子が浮かび上がっています。


信濃毎日新聞(2025年1月1日)https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024123100283
⚫︎「起業」を選びにくい空気
加えて、長野県の若者の意識にも気になる傾向があります。
日本財団の「18歳意識調査」によると、長野県の18歳は「自分の力で社会を変えられる」と思っている人の割合が全国でも低く、「自分には人に誇れる個性がある」と答えた割合は最下位でした。
こうした若者の意識は、私たち大人の社会がつくってきた空気の中で育まれてきたものかもしれません。
世界に目を向けてみると、起業活動は社会課題の解決や自己実現の手段としてますます注目を集めています。しかし、日本はその波にうまく乗れていない国の一つです。失敗を許さない風土や、ロールモデルの不足、起業を選択肢に入れづらい教育や文化。
その中でも長野県は、さらに起業への心理的・社会的ハードルが高い地域であることが、様々な調査から見えてきます。
⚫︎souが大切にしていること
こうした背景の中で、souが目指しているのは、単なる「起業支援」ではありません。
「自分には、人に誇れる何かがある」
「自分の力で、社会は変えられる」
「人の力を借りながら、自分の力を発揮していい」
そんなふうに思える人を一人でも増やしていくこと。それこそが、souの原点であり、これからも変わらない私たちの目指す未来です。
⚫︎2025年度の3つの取り組み
2025年度、souでは以下の3つの柱で活動を展開します:
sou-ME事業(全6回)
「好き」や「大切にしたいこと」を形にして、事業化を考えるプログラム
sou-Nagano事業(全6回)
自分だけでなく「地域の幸せ」も事業にしていく、共創型の起業支援
sou-Mentors事業(毎月随時)
気軽に相談できる個別メンタリング。2023年度から継続実施中
いずれのプログラムも参加無料。個別相談も回数に制限はありません。
自分の可能性を信じたいとき、ちょっと誰かに話を聞いてほしいとき。
ぜひ、souを頼ってみてください。
詳細リンク