「地元のギフト」を1億人に届けたい。創業13年目、地元カンパニー・児玉社長の目指す未来【後編】先輩起業家インタビューvol1
起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。
長野県上田市で、創業13年目を迎える「株式会社地元カンパニー(以下、地元カンパニー)」。代表取締役の児玉光史(こだまみつし)さんは、事業の主軸である「カタログギフト」をつくり続ける意味を見失ってしまった時もあったといいます。
インタビュー後編では、長く会社を続けるためのバランスの取り方について聞いていきます。
<お話を聞いた人>
株式会社地元カンパニー 代表取締役 児玉光史(こだまみつし)さん
長野県上田市のアスパラ農家に生まれ、大学卒業後は電通国際情報サービスにてシステムセールスに従事。退職後、東京で暮らす農家の跡継ぎコミュニティを立ち上げ、地域の産品を都内で実験的に販売。自身の結婚式で「ご当地グルメのカタログギフト」を引出物として配布し好評だったことをきっかけに、株式会社地元カンパニーを設立。
会社経営は「旅」と一緒。ゴールがなくても先を目指せる
――「創業する」というのは、始めることよりも、そこから事業を長く続けていくことが大切だと思うのですが、児玉さんが10年以上事業を続けてこられたのはどうしてだと思いますか?
そもそも、僕は「会社を10年続ける」とか「100年続く会社をつくる」という目的を掲げていたわけではなくて。こうして長く続けてこられたのは、ただ「興味が尽きなかった」からですね。
会社を経営していると、日々「なんだこれは!」と思うような事件が目の前で起こるんです。「何でこういうことが起こったんだろう?」と考えたり、それを解決したりし続けてきた延長に今があります。会社を続けることへの興味は尽きませんね。僕は、会社を続けることは旅をするのに近いと思っていて。
――旅、ですか?
はい。旅って、目的地はあれど「これを達成しよう」というゴールはないじゃないですか。でも、旅路の最中ではいろいろ起こるし、いろいろ考える。そしてそれが全て自分の経験になる。僕はほぼずっと長野県の上田市にいますが、旅をし続けている感覚なんです。
――興味と好奇心が尽きなかったから、歩き続けてくることができた。
そうですね。創業者はみんなそうだと思うけど、やっぱり自分で事業を続けていくのは面白いですよ。飽きないです。……いや、飽きたこともありましたね。
――それは何に飽きてしまったんですか?
「カタログギフト」の事業自体にです。自分自身が農家のせがれであり、地元への思いがあってはじめた事業でしたが、「僕はどうしてこの事業をやっているんだろう?」と、続ける理由が薄れてしまった時がありました。
――会社の主軸である事業に飽きてしまったと。児玉さんはそこからどうやって気持ちを持ち直したのですか?
僕は社長ですし、社員もお客さんもいる。「飽きました」なんて周りには言えませんでした。そこで、もう一度この事業に「ロマン」を見い出そうと、改めて「ギフト」や「贈与」の仕組みについて学び直してみることにしました。そうすれば、事業を続けるヒントが得られるかもしれないと思ったんです。
――「こんな引き出物があったらいいな」から始まった事業の根本を、改めて見つめ直したのですね。
哲学書や歴史書をいろいろと読んでみたら、「ギフト」にはちゃんと歴史的な成り立ちがあって、どんな意味合いをもって現代まで受け継がれてきたかを再認識できました。そうして、再び自分の事業にロマンを見出して向き合えるようになった。それ以来、「飽きたら飽きたでまたロマンを見出せばいい」と考えられるようになりましたね。
この世にはまだまだ自分の知らないロマンが溢れている
――何年間も続けてきた事業でも、根本から学び直すことでちがう見方ができると。
その時に、「飽きる」というのは、自分の浅はかな知識を棚に上げて、駄々を捏ねているだけなのかもしれないと考えたんです。自分の知ってることなんてごくわずかだから、深掘りすればまた新たな解釈をした上で事業や物事に向き合うことができる。
――児玉さんは、ロマンを感じることが原動力になるのですね。
僕の場合はそうでした。この世には、まだまだ自分の知らないロマンが溢れています。ギフトに限らず、全ての業種にはそういうロマンチックな部分があるはず。「ギフト」にロマンを見出したからこそ、今の目標である「1億コード達成」にもつながってくるんです。
お金を払って何かを買うのは「交換」だから、その人の意志がないと物が手に入らない。でも、「ギフト」はあくまで「贈与」だから、うちの「地元のギフト」を欲しいと思っていない、なにかを自分で買うことすらできないくらいつらい状況にある人にだってポンっと急に届く可能性がある。それってすごくロマンチックだなと。
――「旬の果物を食べる」という選択肢がない人にも、おいしいりんごが届く未来が訪れる。
自分の生活がいっぱいいっぱいのときに、「地方のおいしい野菜を食べよう」なんて思えないじゃないですか。スーパーで買い物をするにしても、数十円でも安いものを買ってしまうことがざらにある。でも、「ギフト」であれば、孤独な人や、生活が苦しい人にも地方の産品が届く。お金のある人しか対象にしないのが経済なのに、余裕がない人にも届く可能性がある。これはいいぞ、と。
――事業を続けることへのロマンを問い直し、また道が見えてきたと。
僕はいちいちそうやって考えては一歩ずつ進んできているので、会社として成長することはどうしても時間がかかっていますね。経営者としては下手くそというか、一足飛びに売り上げや利益を上げたくてもうまくできないんです。その分伸び代があると思って会社を続けています。
自分に合った環境で、心身を健康に保ちながら歩き続ける
――児玉さんは、東京で会社員をしていた経験も、創業当初は東京にいた経験もありますが、長野県での働きやすさはどう感じていますか?
うちの事業自体は、全国各地の地方にいる人たちとの取引が多いので、東京にいたときよりもシンパシーを感じてくれることが多く感じます。
それから、長野は情報が過密ではないので落ち着きますね。東京で起業系のイベントにいくと、「うまくいっている」ように見える経営者たちをみて、「俺ももっとがんばらなきゃ」と精神的にくらってしまうことがあるんです。
「隣の芝は青い」とよく言いますが、東京にいると、意識しなくても勝手にほかの会社や経営者の情報が入ってきてしまいます。予期せぬダメージを食らわない環境で働くというのは、僕自身に合っている気がしますね。
――周りと比べず、自分のペースでいられると。
ヘルシーでいられますね。情報の暴飲暴食をせず、ちゃんと咀嚼して、デトックスができる。気持ちが強い人は、たくさん情報を摂取して走り続ければいいと思いますが、僕にとっては、地元である長野で会社をやるのが合っているんだと思います。
会社経営はマラソンに例えられるように、長期戦だと思っています。僕は心身共に健康な社長でいたい。健康第一ですね。結果それが会社のためにもなると思うので。その点、長野は新鮮な野菜などおいしい食材が手に入りやすいですし、自然が豊かでスポーツやアウトドアクティビティにアクセスしやすいのも好きですね。
――心の健康のために意識していることはありますか?
経営者仲間の存在は大きいです。上田市はもちろん、長野市や松本市、東京を始めとした全国各地に経営者同士のつながりがあるんです。
「最近どう?」といった雑談から、「社員が辞めてしまうのはつらいよね」「社長の立場ってなんなんだろう?」など、家族や社員には話せないような話をすることもあって。みんなとああでもないこうでもないと話す時間は楽しいですし、気持ちが救われる部分がありますね。
普段から周りに相談しやすい環境を作っておくことが、自分も相手も守ることになる
――たしかに、経営者という立場は弱みを見せづらい一面がありそうですね。
ずっと強気な姿勢を見せることも大事かもしれませんが、経営者だからといってすべてを背負うのは無茶な話です。そういう自分の弱さや、悩みを打ち明けられる存在が組織の外にいることは、経営者にとってのセーフティーネットになると思います。
それに、自分が弱みを見せれば相手も弱さを見せてくれますし、日頃から弱みを見せておけば、本当に困ったときに助け合いやすい。周りに相談しやすい環境を作っておくことは、僕にとっては大切ですね。
そうやって、いつでも相談をし合える関係性を維持しておくのは、自分のためでもあるし、家族のためでもあるし、会社のためでもありますよね。
――自分が弱さを見せることが、相手にとっても頼る理由になると。児玉さんは、創業当初から悩みや弱みを相談できる相手はいましたか?
創業当時は、そんなことは考えていなかったです。でも、家族が増えて、社員も増えてきた時に、漠然と「生きていたいな」と思ったんです。悲しいことに、経営者の中には自分一人で悩みを抱え込んでしまい、心身を壊してしまう人もいます。自分は、体力的にも精神的にも潰れないようにしようと意識していますね。そのためにも、相談をしたり話をしたりできる相手がいることは大事だと思います。
それに、事業を大きく成長させていく上では多くの人の考えやアイデアが必要だと思います。社員と話し合うことももちろん大事ですが、会社組織の中だけでものごとがすべて動いていくわけではないと思っていて。
――いろいろな視点や考え方が必要だと。
事業のヒントは、経営者仲間との話の中にあるかもしれないし、小説や普段の風景の中に隠れているかもしれない。今の目標の「1億コード達成」にしても、どんどんみなさんの知恵やアイディアを拝借したいです。これからもたくさんの人と話をして、助けたり助けられたりしながら進んでいきたいですね。
<地元カンパニーへのお問い合わせ>