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働く人の心身を癒して整える。「自分の経験」を突き詰めて、やるべきことを見つけた道のり【前編】先輩起業家インタビューvol.3
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働く人の心身を癒して整える。「自分の経験」を突き詰めて、やるべきことを見つけた道のり【前編】先輩起業家インタビューvol.3

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

「『起業する』という選択肢が自分の中に浮かんできた時は、一体自分に何ができるのかわかっていませんでした。少しずつ自分の思いを整理していく中で、『自分の経験をサービスに転換していくしかない』と事業の内容がかたちになってきたんです。」

そう語るのは、長野県松本市を拠点に、リラクゼーション事業や健康経営コンサルティングを行う株式会社ネックレスの代表取締役・滝沢直美(たきざわなおみ)さん。子育て環境を考えて長野県に移住した滝沢さんは、12年間にわたり市役所職員として働いてきました。「公務員の仕事は天職だった」と振り返るも、追突事故による後遺症からやむなく退職。自分のしたいこと、できることを見つめ直す中で浮かんできたのが「起業」という選択だったといいます。

インタビュー前編では、長野移住の背景と、公務員の仕事を離れ、自身の事業を始めるまでのストーリーを聞きました。

<お話を聞いた人>
株式会社ネックレス 代表取締役 滝沢直美社長(たきざわなおみ)さん
地方公務員として12年間勤務。追突事故による後遺症でデスクワークが困難になり退職。その後、教育サービス業および福祉事業所立ち上げ。2022年9月 株式会社ネックレス創業。
健康経営マイスター/健康経営アドバイザー/ボディセラピスト/傾聴療法士/カウンセラー

オフィスでリラクゼーション!? 一人ひとりの心身の健康に寄り添う

――まずは、株式会社ネックレスの事業内容について教えてください。

まず、第一弾事業として2023年に開始した「オフィスリラクゼーション癒しラボ」では、福利厚生の一環として企業や団体のオフィスや工場等へスタッフが出張し、リラクゼーションの施術を行います。一対一でコミュニケーションが取れることから、身体だけでなく心の健康にも寄り添うサービスとなっています。

また、個人のお客様向けにも、店舗で施術を行うリラクゼーションサロン「TUKANOMA」を松本市内で展開しています。

「TUKANOMA」では、地域の経済活動を支える働く人や、フリーランスの方、家事や育児を頑張る人が、心身を整えることで毎日健やかにいられるよう、もみほぐしやストレッチを中心とした施術で癒しの時間を提供しています。ストレスや自律神経の状態を把握できる医療機器も導入しており、健康に対する毎日の行動変容のきっかけをつくることも目的の一つです。

――どちらのサービスも、「働く人の健康」を大事にしているのですね。

はい。「健康経営」の考え方が事業の軸になっています。「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。会社として健康投資を行うことは、働く人たちの活力・生産性アップなど、組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上につながると期待されます。

ネックレスの「健康経営伴走サポート」では、社員の健康管理を経営的な視点で考え、会社の目標達成のための健康投資を効果的に実施していただくための伴走をします。社内の健康経営の現状調査、社員様へのヒアリングなどを行い、現状をしっかり把握・分析した上で、社員様が永く健康で働き続けられる環境づくりをお手伝いするほか、社内で健康セミナー等を提供しています。

「天職」だと感じていた公務員を、事故の後遺症によりやむなく退職

――滝沢さんは、創業前は長年公務員として働いていたとお聞きしました。当時から、「健康経営」を軸にした事業展開のアイデアがあったのでしょうか。創業に至るまでの道のりを教えてください。

いえ。公務員として働いていた当時は、自分が起業することになるとは思ってもいませんでした。まず、私は岐阜県で生まれ育ったのですが、長男が生まれた頃に子育て環境を考えて長野県に移住してきたんです。イメージしていた通り、暮らしやすさと自然環境のバランスがとても良く、長野が大好きになりました。

移住直後は、しばらく専業主婦をしていたのですが、3人の子供を育てる中で、いろいろな方々に本当にお世話になって。「子供たちのふるさとになるこの信州に恩返しがしたい」という思いから、臨時職員という形で市役所に就職したんです。約4年間パートとして勤めた後、「大好きな信州の地に骨を埋めよう」と決めて公務員試験を受けました。

――「信州への恩返し」のために公務員に。

正規職員として採用されてからは、観光、芸術文化振興、広報、シティプロモーション、市民の健康づくりなど、さまざまな業務に携わりました。大好きな長野のために働くことができ、公務員の仕事は、まさに天職だと思っていました。

ですが、市職員として働き始めて10年目のある日、追突事故に遭って頚椎を損傷したんです。長年希望していた部署に配属され、「やっとやりたかったことができる!」と意気込んでいたタイミングでの事故でした。当時は「この先の人生どうしよう」ととにかく不安でいっぱいでした。

――しばらくは治療をしながら公務員のお仕事を?

約3年間は、治療・休養と復帰を繰り返しながら働くことになりました。ありとあらゆる治療を試しましたが、パソコンに向かうと1〜2時間で慢性的な両手のしびれや耳鳴りが起きて、頭痛や吐き気、脂汗に襲われました。上司のデスクに決裁を貰いに行くだけでフラフラしてしまい、立っていられないような状況でした。

仕事が大好きなのに、思うように身体が動かず、以前のように働けない。「こんなはずじゃないのに、もっとできるはずなのに」と焦りながら、それでも毎日なんとか働いてお金を稼いで、家族を養っていかないといけなくて。

――身体の不調にくわえて、精神的なつらさも。

性格的に、自分のことよりも周りを優先してしまうタイプなので、どれだけしんどくてもニコニコと平気なふりをして仕事をしていましたね。なんとか頑張り続けましたが、3年目になる頃には、体調不良やストレスで頭が回らず、これまでできていた仕事ができなくなってしまったんです。これ以上はもう限界だと退職を決めました。

自分の気持ちを整理する中で、やるべきことが見えてきた

――そこから起業を考え始めたのですか?

公務員を辞めた時点で「起業」という選択肢は漠然と自分の中にありました。思うように働けないもどかしさから、「何かをやりたい」という思いがふつふつと自分の中に湧き上がってきていたんです。でも、公務員の働き方は「お金を稼ぐ」ことの対極にあるように思えて、「本当に自分にできるのか?」と不安でした。

――たしかに、「公務員」という働き方と起業には大きな違いがあるように感じますね。

「起業したい」という思いはあったものの、退職後しばらくは知人からのご縁で福祉事業所の立ち上げに関わらせてもらいました。障がいのある子供たちのために居場所を作る仕事はとてもやりがいがありました。ですが、自分がやるべきことは、ほかにあるんじゃないかという思いがずっと心の中にあって。

そんな時、たまたま起業に関するセミナーに参加し、ようやく「自分にもできるかもしれない」と起業が現実的になってきたんです。そこで、一番初めに思いついたのは「人が元気になるような商品を作って販売すること」でした。

――今のネックレスの事業内容とは異なりますね。

もともと「ものづくり」が好きだったんです。でも、商品を作るとなると最初に大きな投資が必要になる。さらに、それが売れる保証はない。私は3人の子供がいたので、そんな博打みたいなことはできませんでした。

「じゃあどうする?」と考えていたところ、セミナーの中で「まずは自分にできる形でお金を得つつ、基盤が整ったらそこからやりたいことを事業化していく方法もある」と教わったんです。そこで「今の私にできることって何だろう?」と考え直し、ようやく「今まで自分がしてきた経験があるじゃないか」と思えたんです。

――そこでやっと「起業」と「自分自身の経験」がつながったのですね。

事故に遭ったことにより、身体だけでなく心の調子も悪くなり、自分の生産性は最低まで落ちました。一人の生産性が落ちると、全体の生産性も落ちてしまう。それならば、経済活動をしている会社や団体にアプローチをして、働く人一人ひとりの生産性を上げることができれば自然と全体の生産性も上がるのではないか。そのためのサービスを作ろうと。

起業と聞くと、「〇〇が好きだから仕事にしたい」「私には◯◯がやりたい」と、一直線に進んでいくイメージをされる方が多いと思います。でも、私はそうではなかった。経験を重ねる中で、まずは自分の中にある「思い」の部分を整理して、自分に提供できる価値は何かをじっくり考えることで、自分の経験をサービスに転換しようとしたんです。

――思いを整理する過程は、ご自身でひたすら壁打ちをされたのでしょうか。それとも誰か相談相手はいましたか?

まずは自分一人で考えを整理しました。「自分に何ができるのか」「何がしたいのか」をどんどん紙に書き出していき、さらに、「社会には何が必要とされているのか」をネットや本で調べたり、周りの人にアンケートを取ったりしてヒアリングをし、情報を整理していきました。

視野が狭くなりすぎないよう、ある程度考えがまとまってきたら、仲間や友人たちにも相談をしました。その繰り返しで、だんだんアイディアが形になっていきました。そうしていく中で、働く人にダイレクトにアプローチできる「出張型のリラクゼーションサロン」を思いついたんです。

・・・

インタビュー後編では、未経験の分野での事業展開の仕方やサービスの広め方、ブレずに大切にしていること、今後の展望について聞きました。

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