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「好きなことをしてギリギリで生きていこう」から始まったコーヒースタンド。「学生起業」のリアルと卒業後の現在地【後編】先輩起業家インタビューvol.5
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「好きなことをしてギリギリで生きていこう」から始まったコーヒースタンド。「学生起業」のリアルと卒業後の現在地【後編】先輩起業家インタビューvol.5

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

「最初は、『ゴージャスに生きなくていい。ギリギリでもいいから、好きなことをして生きていこう』と思っていたのに、いざお店を続けていくうちにやりたいことが増えてきて。だんだん『頑張って売上を伸ばしていこう』という姿勢に変わってきました」

長野県立大学在学中に長野駅前でコーヒースタンド「ODDO COFFEE」を立ち上げた小倉さん。大学卒業後もお店の経営を続け、現在は新店舗オープンに向けた準備を進めている最中です。

インタビュー後編では、コーヒースタンド立ち上げの経緯、独立後の心境の変化、これからの展望を聞きました。

<お話を聞いた人>

ODDO COFFEE 小倉翔太さん
静岡県出身。長野県立大学グローバルマネジメント学科起業家コース卒業。在学中に「ODDO COFFEE」を開業。現在は長野駅前にコーヒースタンドを展開し、コーヒー豆の仕入れ、焙煎、販売を行う。

「学生のうちにやるしかない」舞い込んできたチャンスを掴んで

――インタビュー前編では、ODDO COFFEEが動き出すまでの経緯をお聞きしました。本格的に事業を始めるにあたって、誰かに相談はしましたか?

コーヒーサークルODDOを立ち上げた時点で、ソーシャルイノベーション創出センター(以下、CSI)※1に今後の活動について相談に行きました。そこでは、「これからどんなことをしたらいいか」というアイデアベースの相談から、借入の仕方、経営を続けていくための利益の出し方などビジネス面の相談もさせていただきました。

また、CSIからの紹介で信州スタートアップステーション(以下、SSS)にも相談に行きました。そうして相談を重ねる中で、担当コーディネーターの方が現在のODDO COFFEEがある場所の持ち主の方と繋げてくださったんです。ビルの改修の構想の中にカフェ機能が入っており、まずは1〜2ヶ月間チャレンジショップとして店を開いてみないかと。

――いざ具体的に話が動き出したときはどう感じましたか?

「学生のうちにやるしかない」という気持ちでした。当時僕たちは大学3年生で、このまま就職してしまったら自分達でお店をやろうとするのは難しくなるだろうなと。

声をかけてもらったのが2022年の11月くらいで、オープンは2月だったので、やると決めてからはとにかく駆け足で準備を進めてきました。何も進んでいない状態で始まって、やっていく中で段々と形になってきた気がします。

――実際にお店が始まってからの手応えはどうでしたか?

もちろん、お店が形になってうれしかったです。でも、当時はまだサークルのメンバーと一緒に、4人体制でお店を回していたので、週に数回しかお店に立っていませんでしたし、豆の焙煎もしていましたが、何かが思い浮かぶわけでもなく、「一旦頑張っています」ぐらいの姿勢でした。

※1CSIとは・・・社会課題解決に取り組む事業者支援や産学官連携を行う、長野県立大学の地域連携拠点

周りが就活を始める中で、「自力でやっていく力」をつけることを選んだ

――意識が変わったのはいつ頃からですか?

他のメンバーが就職活動に向けて動き出した頃です。立ち上げ当初から、もともと自分がやりたくてやってきたことではあったので、いつか1人でやるタイミングが来るだろうと考えてはいたのですが、「今の姿勢のままではいけない」と感じ、メンバーのみんなに「今後は僕一人でやっていこうと思う」という話をしました。いざ一人で店に立ってみたら、店内の調度品の配置一つとっても「ここは良くないな」「もっとこうした方がいいな」というのが見えてきて。

それから、大学の授業で事業計画書を書き上げたのも大きかったと思います。一度将来の具体的な計画を立ててみたことで、「事業として続けていけるかもしれない」という実感が湧いてきました。

――お店の経営が自分ごとになってきたと。メンバーも含めて、周りが就活をし始める中で、小倉さんが「一人でやっていこう」と決められたのはどうしてですか?

極論かもしれませんが、アルバイトを辞めた時点で「僕は社会で働けないのかもしれない」みたいな気持ちがあったんです。今思えば、アルバイトと会社に就職して働くというのは全然違うものなので、もしかしたら就職して働くこともできたのかもしれません。

でも当時は、「いやな気持ちを抱えながらどこかで働くくらいなら、今のうちに一人で商売をしていけるようになった方がいいかもしれない」と考えていました。

――自分でやっていく力を磨いた方が生き残れるかもしれないと。

そうですね。だから、「たくさん儲けたい!」みたいな意欲も一切なかったです。「ゴージャスに生きなくていいから、好きなことをしてギリギリで生きていこう」という気持ちでした。

――実際のところ、独立後は「好きなことをしてギリギリ」状態なのでしょうか。

いえ、いざ自分でお店を経営するようになると、だんだんやりたいことが増えてきて。やりたいことを実現するためには売上を伸ばす必要がある、そのためには新しい取り組みや先行投資が必要で、それを続けていくと、結果として利益が出る。

たとえば、買う豆の量が増えると、使うお金が増える。その次の月の売上が少ないと、支払いができないという状況になります。でも、「じゃあ無理しなくていいや」ではなく、あえて仕入れ量を増やして「売上をあげるしかない」という状況に自分を追い込んでいくようになりました。最初にイメージしていたスケール感に比べて、今の事業の規模はもっと大きくなっていますね。

――お店を経営する中で、また意識が変わってきたと。

今でも、最終的にはのんびりお店をやりたいと考えています。でも、そのためにはODDO COFFEEとしての価値をしっかりと作り上げて、どこに行ってもお店ができるような状態にならないといけないんだなと分かってきました。

たとえば、最近は長野駅前の再開発の話が出てきて、この建物自体も将来どうなるかわかりません。今は「ちょっとでも状況が変われば簡単に店が吹き飛ぶぞ」という危機感があるので、まずお店としての力をつけていきたいですね。

まずはトライしてみることで、やりたいことややるべきことが見えてくる

――「好きなことをのんびりやっていく」ためには、ゆるがない土台が必要だと。今は力をつけていく段階だと意識しているのですね。ほかにも、経営していく中で意識が変わった部分はありますか?

駅前に店舗を出してからは、外国人観光客のお客さんと接する機会が増えました。お客さんたちと話をするうちに、「自分は日本人だけど日本のことを知らないな」と感じ、日本文化について勉強するようになりました。

すると、嗜好品という点ではコーヒーと日本のお茶には近い部分があるとわかってきて。お店作りをする上でも茶道の考え方は参考になりそうだったので、茶道を習い始めました。

――それは面白い変化ですね。

さらにそこから、器にも興味を持つようになって。お店で使う器もなるべくいいものにしようと、全国の陶器市に足を運んでは「いいな」と思った器の作家さんを調べて、お店用にオーダーをしています。

――お店で得た気づきから新しいことを初めて、それがまたお店に還元されるサイクルが生まれていますね。小倉さんが、今後新しく挑戦してみたいことはありますか?

来年を目処に、ODDO COFFEEの2店舗目を出す計画を進めています。長野市内で美術商をしている方が、空き家のオーナーさんと一緒にギャラリー兼ショップを出そうという話があって。ギャラリーだけでは売上が立ちにくいので、カフェもやろうという話で、うちに話が来たんです。

茶道を始めてから、美術品や工芸品に興味を持つようになったので、面白そうだなとお話を受けました。ODDOをオープンしたての頃だったら、ピンとこずお断りしていたかもしれません。そもそも、向こうもイベント出店の経験しかない学生には声をかけなかったと思いますし。

――経験を積み、考え方や興味関心にも変化があったからこそ、つながったご縁なのですね。一店舗目の経営は今後も続けていきますか?

続けていく予定です。現店舗ではずっとドリップコーヒーを出しているのですが、駅前はどちらかというと急いでいる方の方が多く、客層とやりたいことが合っていないなという気がしていたんです。

新店舗は、むしろ一杯のコーヒーをじっくり楽しむお店になると思うので、現店舗には新しくエスプレッソマシーンを置いて、スピーディーにコーヒーを提供できるようリニューアルできたらいいなと考えています。

――かつては接客に苦手意識を感じていたとお話がありましたが、新店舗の開店には不安はないですか?

僕は、決して「人と関わりたくない」というわけではないんです。でも僕は、人とコミュニケーションを取って人との関係性を作っていくことが苦手というか、それを放棄してしまうタイプの人間なんだろうなと。

でも、「お店」という形であれば、空間の作り方、サービスの仕方をしっかり作りこめば、最低限のコミュニケーションでも、いい空気や関係性を作れるんじゃないかと。新店舗も、いいお店、いい空間にしていきたいですね。

――自分のお店だからこそ、そういったお店作りのあり方も追求していけますね。最後に、小倉さんのように「好きなことで生きていきたい」と考えている方にメッセージをお願いします。

目の前にあることを頑張っていればいい。それだけな気がします。「長く続ける」という方向性でいつつ、まずはトライしてみて、やっていく中で降りかかってきた要素に一生懸命向き合っていけば、また次にやりたいことが出てくる。それを繰り返していけば、うまく転がっていくのかなと。

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