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一匹の犬との出会いが人生を変えた。犬とのよりよい暮らしを求めた移住が創業のきっかけに【後編】先輩起業家インタビューvol.11
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一匹の犬との出会いが人生を変えた。犬とのよりよい暮らしを求めた移住が創業のきっかけに【後編】先輩起業家インタビューvol.11

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

「僕はこれまで、自分が好きなことだけをやって生きてきたタイプなので、パートナーである朋ちゃんにも、人生をかけてわくわくできることを見つけてほしいと常日頃思っていました。彼女がやりたいことを見つけて、長野で実現するチャンスを得られたことをとてもうれしく思っています。」

そう語るのは、愛犬と家族の絆を深めるための複合施設「JAZZY DOG(ジャジードッグ)」をオープンした小林朋紀(こばやしともき)さんのパートナーである小林雅也(こばやしまさや)さん。一緒に夢を叶えるため、2023年に家族で神奈川県横須賀市から長野県長和町に移住してきました。

インタビュー後編では、長野移住を決めた経緯や創業の道のり、実際にサービスを始めてからの手ごたえと今後の展望について聞きました。

<お話を聞いた人>
株式会社JAZZY DOG 代表・小林朋紀さん

猟犬の保護犬を家族に迎えた事をきっかけに犬ついて学び始める。「命を放棄しない、させない社会づくり」を目指して自宅で保護犬を預かり、新しい家族に繋げる活動をする上で、新しい家族のもとで人も犬もより幸せになるためには、自分自身がより知識を深め成長する必要を感じ「スタディ・ドッグ・スクール認定ドッグトレーナー」「米国CCPDT認定ドッグトレーナー(CPDT-KA)」を取得。犬達が生き生きと走り回ってる姿に魅了され、自分も自然に身を置きたいと考え2023年より長野県小県郡長和町に移住。犬たちの自由と福祉を第一に考え、学び続けながら犬たちとの信頼関係を深めている。

犬たちのため、家族の夢のために長野への移住を決意

――インタビュー前編では、神奈川からの移住を考え始めた経緯をお聞きしました。犬たちにとってよりよい環境を求めての決断とはいえ、家族で拠点を移すことには抵抗がなかったですか?

雅也さん:僕はこれまで音楽の仕事をメインに場所を選ばない働き方をしていたので、拠点を移すことは問題ありませんでした。それに、これまでは僕のやりたいことに朋ちゃんがついてきてくれていたので、今度は朋ちゃんがやりたいことを一緒にやっていこうと。

朋紀さん:長男はちょうど全寮制の学校に入ったタイミングでした。次男は転校が必要でしたが、彼自身も小さいころから犬が好きだったので、「犬のためなんでしょう」と納得してくれました。

――中でも長野を選んだのはどうしてだったのでしょうか。

朋紀さん:場所を探す上で、自然が豊かな広い土地があること、季節問わず十分に外で遊ばせられるように夏は涼しく冬は雪が少ないことが理想でした。長野は涼しいイメージがあったので、本格的に移住を考え始めた時点で自然と候補に挙がりましたね。長野と言っても広いので、積雪が少なく涼しい東信エリアに絞り込んで探していきました。

雅也さん:その中でたまたま今の土地を見つけて。長和町は山奥だけれど、国道が通っていて岡谷インターからも近い。旅先でドッグランに困った人も気軽に立ち寄れるだろうと思い、即決しました。そこから本格的にどうやって移住をするのか考え始めました。

――まずは理想的な土地を見つけたのですね。そこから移住や創業はどのように進んでいったのでしょうか。

長和町の山奥にある広大な土地に出会ったことにより、一気に長野移住と創業の計画が加速

雅也さん:まずは、内閣府の移住創業支援のホームページを見つけました。そこから長野県の担当窓口に問い合わせをしたところ、担当の方がとても親身に話を聞いてくださって。さらに、僕たちの目指す犬との暮らしのあり方は地域課題解決につながる可能性があるため、「ソーシャル・ビジネス創業支援金」の制度が使えるかもしれないと教えていただいたんです。

朋紀さん:そこで調べてみたところ、長野県でもやはりブリーダーの崩壊や多頭飼育崩壊は問題になっていることがわかってきて。そういった問題を地域で解決していくためには、人々の犬に対する意識を変えていくための啓蒙活動が必要です。その一環として、まずは誰でも気軽に利用できて、収益化もしやすいドッグランを作ることから始めようと構想が固まってきました。

それまでは、ただ「長野で犬と暮らしたい」という思いで動いていましたが、そこで初めて「自分たちが何をやりたいのか、何を目指しているのか」を人に伝えていかないといけないんだと一気に現実味が増してきました。そこから本格的に事業計画をまとめ、県にプレゼンテーションを行って無事に採択していただき、移住と創業のチャンスを得ることが出来ました。

タイムリミットがある中、急ピッチで移住と開業を実現

――採択後は、具体的にどのように移住や事業化を進めたのでしょうか

荒れた土地を整備するところからドッグランの建設がスタート。オープン後も自分たちの手で微調整を重ねている

朋紀さん:創業・移住の支援を受ける条件として、期限内に住民票を移して事業をスタートさせる必要がありました。保護犬活動を行うためのNPO法人と、ドッグランやドッグホテルの運営・チャリティーグッズの販売等で収益化を目指す株式会社をそれぞれ立ち上げ、とにかく急ピッチでドッグランの工事に取り掛かりました。

雅也さん:自分たちの住まいに関しては、大型犬の多頭飼育をしていたため賃貸は厳しいぞと。かといって、自分たちで土地を買って家を建てる時間もなかったので、まずは空き家バンクを探して、たまたま山の中にぽつんとした一軒家を見つけたんです。オンボロだったけれど、直せばなんとか住めそうだったのでそこを買い取り、ドッグランの工事と並行して約一か月間神奈川から長野に通い、DIYで改修しました。

――時間的なリミットがある中での急発進だったのですね。

2025年の春からの始動を目指し、現在建設中のドッグホテルとシェルター

朋紀さん:はい。今思えば、一気に進めることが出来たのでリミットがあってよかったです。それから、「ソーシャル・ビジネス創業支援金」事業の一環である県からの伴走支援も心強かったです。

採択前の相談支援では、担当の方がいつも「私たちが何をしようとしているのか」を言語化するための質問を的確に投げてくれたので、思いだけで先走ることなく客観的な目を持ちながら、やるべきことややりたいことを整理していくことができました。採択後も、支援の一環として五年間の伴走支援を受けられるため、つい先日も建設中の施設を見学に来てくださいました。

――実際にドッグランの運用を始めてみて、利用しに来る方の反応や手応えはいかがですか?

朋紀さん:「こういうサービスがなくて本当に困っていた」と言っていただいたり、これまでのびのび外を走ったことがなかったワンちゃんが夢中で走り回ったりしているところを見るとやっぱりうれしいですね。

今はまだ施設の建設や犬のトレーニングに手いっぱいで、プロモーションやマーケティングまで手が回っていないのですが、社会に必要とされているサービスだという手ごたえがあるので、まずは口コミで利用者の輪が広がっていけばいいなと思っています。

――今後の展望や、挑戦したいことについて教えてください。

朋紀さん:まずは、現在建設中のドッグホテルとシェルターを完成させて、事業を軌道に乗せたいですね。日本は震災や台風などの自然災害が多い国です。でも、そういった際に大型犬を預けられる環境はまだまだ整っていない。災害に限らず、急な事故や病気で一時的に犬を預かってもらわないといけなくなるかもしれません。のびのびと遊ばせられる場所に加えて、なにかあった時に安心して預けられる場所を一つ持っておくことは、大事な犬やその後の犬との暮らしを守ることにつながります。

また、長野という土地を生かして、ジビエのお肉をドッグフードに活用し、さらに無添加の餌を食べた犬の糞を肥料にして野菜を育て、またドッグフードの素材にするなど、資源が循環する仕組みも模索していきたい。

やりたいことはまだまだたくさんあります。地域のいろんな企業とタッグを組みながら発信力や影響力をつけていき、最終的には、犬の正しい知識と飼い方、そして「命を捨ててはいけない」ということをしっかり社会に伝えていけるようにしたいです。

――最後に、これから長野で新しいことに挑戦しようとしている方に向けたメッセージをお願いします。

朋紀さん:なんの後ろ盾もない中での長野での創業でしたが、長野県の方々たちが私たちのやりたいことを「面白そう、いいね」と受け入れてくださり、創業支援をしていただけたことがうれしかったです。だからこそ、自分たちの描くイメージをしっかり実現して、応援してくださった長野県の方に「JAZZY DOGに長野に来てもらってよかったな」「あの人たちの活動がきっかけで、長野県の動物福祉が前進した」と思ってもらえるところまで目指していきたいと思っています。

雅也さん:僕はこれまで、本当に自分が好きなことだけをやって生きてきたタイプなので、パートナーである朋ちゃんにも、人生をかけてわくわくできることを見つけてほしいと常日頃思っていました。彼女が自分の内側から湧いてくる「やりたいこと」を見つけて、長野で実現するチャンスを得られたことをとてもうれしく思っています。僕のように「パートナーのやりたいことを実現するために移住を決める」というパターンも幸せなんじゃないか、ということを世のご夫婦に伝えたいです。

株式会社JAZZY DOGのホームページ

特定非営利活動法人JAZZY DOG LIFEのホームページ