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地方起業と事業計画の重要性【SSSセミナーレポート】
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地方起業と事業計画の重要性【SSSセミナーレポート】

信州スタートアップステーション(SSS)では、長野での創業を考えている方や、支援機関の方向けのオンラインセミナーを定期的に開催しています。

2025年夏期は、ビジネスのアイデア出しから事業計画の作成までみっちりサポートする全4回の創業セミナーをオフライン・オンライン配信併用で開催します。

6月17日に行われた第1回目のセミナーでは、「地方企業と事業計画の重要性」をテーマに、株式会社つばさ公益社 代表取締役の篠原憲文氏を迎え、地方ビジネスにおける事業計画の作り方や金融機関との付き合い方、地方ならではの課題と機会についてお話をいただきました。セミナーの様子をレポートします。

【登壇者】
株式会社つばさ公益社 代表取締役 篠原憲文氏

「家族葬のつばさ」創業7年、東信エリア10会館運営。明治大卒。メリルリンチ日本証券、eBay Japan、Macromedeia(現Adobe)勤務。日本DX大賞、信州ベンチャーサミット最優秀賞など。

進行役:信州スタートアップステーション コーディネーター 

篠原氏は、創業7年で10店舗を展開する葬儀会社を経営しています。

「丸いノコギリ」の教訓:準備の重要性

セミナーの冒頭で篠原氏から紹介されたのは「丸いノコギリ」の話でした。木こりが切れないノコギリで木を切り続けているのを見て、なぜ刃を研がないのかと聞くと「忙しいから」と答えたという話です。

「順番が違うわけです。最初にしなければいけないのは刃を研ぐこと。しっかり準備をした上で木を切るべきなのに、切れないノコギリでずっと時間を使っていると」

自身も、信州スタートアップステーション(SSS)を活用して事業計画書の作成支援や銀行融資の相談をし、金融機関との「共通言語」を学んだ経験を振り返りました。まずは知識をつけて自分自身のノコギリを研ぎ、相手と文脈を合わせたり、考えを理解したりすることで、話が伝わり事業の実現に力を貸してもらえるようになるのです。

さらに、篠原氏は「事業計画は信頼を作るためのツール」と語ります。

「事業計画書は、銀行や投資家に事業の実現可能性を示すだけでなく、チームとの共通の言葉や向かっていく方向性を示すものとなります」

そのため、客観性の担保の重要性と、主要な財務諸表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)を読めるようにしておく必要性が強調されました。

地方企業のメリットと課題

続いて、地方起業には都市部にはない独自の強みがあると篠原氏は説明します。特に地域資源の活用については、特産品や文化資源を活かした差別化がしやすく、独自性を生み出しやすい環境があるといいます。

「特に、ふるさと納税みたいなチャンスを活用して極端に大きくなった会社って実はたくさんあって。例えば徳島県には創業初年度に売り上げ10億、2年目30億みたいな会社もあります。実はチャンスの種というのは今地方にすごくたくさんあるんじゃないかと」

また、コスト面では都市部と比較して人件費や家賃を抑えられ、初期投資を小さくできるメリットがあります。地域課題への取り組みについても、地域の問題解決に取り組むことで応援されやすい環境があると語りました。

「どこを掘っても地域は問題だらけだから、その地域の問題解決を頑張ろうとすると、みんなから応援されやすいみたいな環境がある。さらに、キーマンとすぐに繋がれることも強みです。ネットワーク構築のしやすさも地方の良さだなと感じます」

一方で、地方企業特有の課題についても率直に語られました。最も重要な課題として挙げられたのは顧客の獲得。次に地方特有の市場の小ささが問題となります。

「顧客獲得に関しては課題があるなというのは、自分で事業をやっていても感じます。シンプルに人が少ないとか、販路がないとか、どの属性にターゲットを定めるんだとか、さらにどう広げるんだとか。従来に地方になかったような文脈で集客するなど、工夫をする必要があると思います」

ただし、これには両面性があり、競争が少ないという利点もあると説明されました。

また、特に強調されたのがキャズム理論の重要性でした。新商品・サービスがイノベーター(2.5%)、アーリーアダプター(13.5%)から一般顧客(アーリーマジョリティー)に移行する際に現れる「深くて大きな溝」について詳しく説明されました。

特に地方では、都市部なら成立するニッチなビジネスも、興味関心を引く人の絶対数が少ないがゆえに成立しないケースが多いため、時間と資金を考慮に入れた事業計画が不可欠だと強調されました。

「nice to have(あったらいい)」と「must have(ないと困る)」の違い

さらに篠原氏は、「実は支出管理が事業計画の7割だと個人的には思っています」と続けます。予測が難しい売り上げに対し、支出はコントロールできるという観点から、家賃、人件費、在庫など管理可能な項目をしっかり計画することの重要性が説明されました。

特に注目すべきは固定費で、「固定費がゼロだったらいつまでも継続できる」という視点から、「死なない事業計画」を作ることが強調されました。

その上で篠原氏は、長年の経営経験から、事業計画でよく見られる典型的な失敗パターンについて説明しました。最初に挙げられるのが過大な売上予測です。根拠のない楽観的な見込みで初期段階での過大評価をしてしまうケースについて語りました。

「ピカピカキラキラのオフィスや、人件費を過剰に取り過ぎるなど、固定費を最初からかけすぎてしまうのは逆効果。多くの場合で、初期顧客からメインストリームに移るまでに資金ショートを多くの場合で起こしてしまいます。創業初期の経営者が陥りやすい落とし穴として、キャッシュフロー管理の失敗も挙げられます」

続いて篠原氏は、よく見落とされがちな市場調査の重要性について、自身の経験を踏まえて警鐘を鳴らしました。

「仮説を作ってコンセプトを作った段階で『絶対に行ける!』と熱が上がってしまい、気づくと、ちゃんとした市場調査もしないうちにプロダクトを作って売り始めてしまうみたいなことが起きやすい。やっぱり熱を持って作るサービスやプロダクトというのは目線が偏っていて、とてもじゃないけど客観的ではなく、自分にしかわからない理論で組み立てられてることがあります」

そこで、ニーズを見極める重要なポイントとして「nice to have(あったらいい)」と「must have(ないと困る)」の違いを理解することの重要性が実例を交えて語られました。

「『あったらいいよね』から、お友達相手にプロダクトを作りました、『いいね』と言ってくれたから始めました、それで全然売れないということがすごくよくあると。結局、そこに痛みが生じていて、『ないと困る』から、お金払ってもでも解決したいことなら、確かに入っていけるんだけども、『あったらいいよね』は基本売れないし、友達の評価は全く当てにならない」

「勝てる場所で戦う」地方企業のポジショニング戦略

地方でのビジネス展開について、篠原氏は「勝てる場所で戦う」ことの重要性を強調しました。

まず、先行者がいることのメリットについて説明しました。一見すると競合がいることは不利に思えますが、むしろ市場の存在証明になると語ります。

次に、メインストリームの横にあるニッチ市場への着目と、セグメントやコンテンツを絞った戦略の有効性について詳しく説明されました。

「僕自身が地方で起業して思うのは、地方での創業は、先行している成功者がいる上で、ニッチかつ独自性のある領域がいいなと思ってます。メインストリームの横に、セグメントやコンテンツが絞られてる世界があると。例えば、メインストリームであるゴルフの、左利き用だとか女性専用、大きいサイズのゴルフウェア。メインストリームの横に流れているニッチで独自性を発揮して圧倒的に勝つ」

セミナーの最後は、「言われた通りやるのは難しいが、言われた通りやったら成功することがたくさんある。スマホの時代は情報がコモディティになったため、行動で差をつけましょう」というメッセージで締めくくられました。

今後の創業セミナーでは、アイデア出しと市場分析、事業計画書作成、事業計画のブラッシュアップを行っていきます。

長野での創業を考えている方や、創業して間もない方、中小企業等で新規事業をご担当されている方はぜひご参加下さい。
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