「花が好き」という想いを、唯一無二の仕事に。理想のライフスタイルを叶える、創業という選択肢【後編】先輩起業家インタビュー

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。
「『好きなこと』と『得意なこと』、『世の中が求めてること』、そして『お金になること』。この4つの円が重なれば重なるほど、それを仕事にしやすくなります。そうすると、仕事が自分の生きがいにつながっていく」
そう語るのは、”花のロスを減らし花のある生活を文化にする” をミッションに掲げ、廃棄されてしまうロスフラワーを用いた店舗デザインや装花装飾を行う株式会社RINを立ち上げた河島春佳(かわしま・はるか)さん。
自分の理想のライフスタイルを叶えるため、20代前半から創業を意識するようになり、自分が熱意を注げる「好きなこと」を突き詰め、着実に事業を形にしていきました。東京で創業し、事業を育ててきた河島さんが、次のフェーズを展開するためのフィールドとして検討しているのが、生まれ故郷である長野県。
インタビュー後編では、駆け出しのフリーランスから法人化を果たすまでの道のりや、今後の展望について聞きました。
<お話を聞いた人>
株式会社RIN 代表取締役 フラワーサイクリスト®︎ 河島 春佳
長野県小諸市生まれ。大自然の中で幼少期を過ごし自然を愛するようになる。2014年頃から独学でドライフラワーづくりを学び、2017年 生花店での短期アルバイト時に、廃棄になる花の多さにショックを受けたことから、フラワーサイクリスト®︎としての活動を始める。2018年クラウドファンディングで資金を集めパリへの花留学を実現し、2019年ロスフラワー®︎を用いた店舗デザインや、装花装飾 を行う株式会社RIN を立ち上げる。2020年には花農家と消費者の架け橋として開設したオンラインショップ『フラワーサイクルマルシェ』が、農林水産省HPでも紹介。2021年フラワーサイクリスト®︎になるためのスクール『フラワーキャリアアカデミー』をリニューアルし、現在全国の200名以上の卒業生と共に、ミッションとして掲げる “花のロスを減らし花のある生活を文化にする” ために活動中。
自分を見つめ直して気づいた、花への深い想い

――インタビュー前編では、創業に向けて事業の種を育てていくまでの過程をお聞きしました。当時はフラワーアレンジメントなどクリエイティブな側面が主だったと思うのですが、そこから現在の主軸であるロスフラワーにたどり着くにはどんな経緯があったのでしょうか。
「花を仕事にしたい」という軸は決まったものの、いわゆる素敵なフローリストの方はすでに世の中にたくさんいたので、それだけでは仕事にならなかったんです。
「じゃあどうしたらいい?」と自分を見つめ直してみると、私は当時生花よりもドライフラワーをメインに扱っていることに気が付きました。「なぜドライフラワーなの?」と深掘りしていった先に、「お花を捨てるのがもったいない」という思いがあるなと気がついて。そこから、「フードロスのお花バージョンみたいな取り組みができないかな?」とぼんやり思い描き始めました。
そこで、サステナビリティを意識したマルシェを運営している友人に、「廃棄のお花を救うプロジェクトをやっていきたい」と、ざっくばらんにアイデアを話してみたんです。そうしたら、「それは是非、うちのマルシェで販売して欲しい」といい反応をいただけて。話していく中で、「それってフードロスのお花バージョンだから、ロスフラワーだね」「生産者さんの規格外のお花や、お花屋さんで行き場を失った花を救うことで、お花を長く楽しんだり、花のある生活で心の栄養をお届けしていきたい」と、事業のアイデアが固まっていきました。
――自分を見つめ直すことで生まれたアイデアを、さらに人に話すことで形になっていったんですね。
当時から内省と同じくらい意識していたのは、「直感を信じて行動する」「走りながら行動する」というマインドセットでいることでした。会社員時代の「安定を求める保守的な自分」のままでは、自分で仕事を作っていくことが出来ないなと。自分の脳を書き換えることで、自分で生きていくための道を切り開く力を身につけようとしていました。
パリ留学を経て、企業向け事業展開へ
――そのマインドセットがあったからこそ、未経験でも独学で走り出せたのですね。会社を立ち上げるまでの道のりを教えて下さい。

大学職員を退職し、フリーランスとして独立したものの、当時の自分のキャリアを考えると、「未経験」で「独学」のままだったんです。「自分で学ぶ機会を作りたい、かつ、人と違うことをしたい」という思いから、フランス・パリへの海外留学を目指すようになりました。
とはいえ、資金が潤沢にあるわけではなかったので、クラウドファンディングを実施して、ファンとの関係性づくりも同時に行ったんです。2018年に、Facebookの告知だけでクラウドファンディングを実施し、パリでの花留学とワークショップの実施を実現しました。帰国後の仕事につながるように、お花の装飾の定期契約権をリターンに用意しました。ありがたいことに、100人以上の多くの方や、企業の社長さん達にもご支援いただくことができ、帰国後の仕事につながりました。

そうしたパリへの留学経験と、クラウドファンディングでのファンの皆様からの応援をきっかけに、アーティストとして生きていく自信がついて、本格的にロスフラワーをコンセプトに活動していくようになりました。
留学前は、ワークショップやケータリングなど、個人向けのお仕事がメインだったのですが、留学後は企業向けのお仕事が出来るように動きだしました。企業向けの展示会に参加し、3日間で1000枚のチラシを配ったこともあります。
――地道に着実に、事業の種を撒いてきたのですね。
チラシの効果が出て、実際に企業さんとの案件をいくつかいただけるようになりました。そこで、ロスフラワーとフラワーサイクリストの商標を取得し、自分の中でもいわゆるハイブランドさんに起用してもらえそうな事業展開を目指したら、Urban ResearchさんやLUSHさんの店舗装飾や、乃木坂46さんの衣装提供を行うようになり、2019年に法人化を果たしました。
生まれ故郷・長野への想いとこれからの展望
――今後の事業の展望として考えていることはありますか?

副業・フリーランス時代も含めると、これまで10年近く東京で仕事をしてきました。たくさんの人との出会いや、様々な企業さんとのパイプを作り、事業を大きくしてくることができました。
次は、さらに地方に目を向けて、お花の生産者さんに寄り添うお仕事を増やしていきたいと考えています。これまでも生産者さんの元に通ってはきたのですが、実際に自分が地方に住むことによって、生産者さんとの距離が近くなり、心を開いてくれるかもしれません。自分自身、住んでいるからこそ、気づけることもあるんじゃないかなと。
そもそもロスフラワーがどういった過程で出てきてしまうのかを探り、根元から課題解決につなげたり、これまで培ったノウハウを活かした6次産業化のお手伝いだったり、やってみたいことはたくさんあります。ゆくゆくは、地域の雇用を増やしたり、農業と福祉の連携の仕組みを作ったり、地域のお花の魅力の発信もしていきたいです。今の会社とは別に、新しい会社を立ち上げてもいいんじゃないかと考えています。
――その候補地のひとつが、長野県なのですね。
はい。長野県は、お花の生産者さんが多いほか、新幹線が通っているので都市部ともアクセスがしやすいため既存のお仕事も継続しやすい。そして、やはり私の生まれた土地であり、子どもの頃に毎年遊びに来ていた思い出があります。子育て環境としても良さそうだなと。
東京にいる便利さもいいけれど、森の中で暮らすいい意味での不便さが、今の自分にしっくりきて。不便だからこそ、ゆっくり自分の時間を取れたり、内省する時間を大切にしたりできる。自分をリセットできる感覚が心地よくて。
まだどうなるかはわかりませんが、もしこの記事を読んでくれていて、RINに興味を持ってくれる長野の企業の方がいたら、今後何かご一緒できたらうれしいですね。
4つの要素が重なった時、仕事は生きがいになる

――最後に、創業を考えている方向けにメッセージをお願いします。
「好きなこと」と「得意なこと」、「世の中が求めてること」、そして「お金になること」。この4つの円が重なれば重なるほど、それを仕事にしやすくなります。そうすると、結果として仕事が自分の生きがいにつながっていく。
私の場合は「好きなこと」がお花、「得意なこと」がクリエイティブ、「世の中が求めていること」つまり、社会課題としてロスフラワーの活用がありました。そして、それがありがたいことに「お金になること」でした。
無理に「世の中が求めていること」だけにフォーカスしすぎず、「好きなこと」「得意なこと」も大切にしていった方が、事業を継続しやすいんじゃないのかなと私は思います。そうやって、その4つのバランスを見ながら、自分が無理なく続けられる何かを見つけていくといいんじゃないかな。
株式会社RINのホームページ:https://lossflower.com
河島春佳さんのinstagram:https://www.instagram.com/haruka.kawashima