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起業という選択肢を、「サザンガク」でもっと身近に。松本から広がる挑戦のコミュニティ【前編】
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起業という選択肢を、「サザンガク」でもっと身近に。松本から広がる挑戦のコミュニティ【前編】

コワーキングスペース・サテライトオフィス・テレワークオフィスの3つの機能を持つ松本市の「サザンガク」。2019年11月のオープン以来、場所にとらわれない働き方や起業家育成の場として、地域に根付いてきました。年間100回以上のイベントを開催し、人と人をつなぎ、新しい挑戦を後押ししています。

信州スタートアップステーション(SSS)や長野県よろず支援拠点の相談拠点としても機能するサザンガクは、起業を考える人たちにとってどんな場所なのか。松本で今、どんな動きが生まれているのか。サザンガク施設長の阿部航大さんと、コミュニティマネージャーを務める中山拓輝さんにお話を聞きました。

<お話を聞いた人>
阿部航大(あべ・こうた)さん サザンガク施設長
長野県白馬村生まれ。信州大学理学部卒業後、市役所で約12年間環境関係の業務に従事。2023年4月より松本市役所職員として、一般財団法人松本ものづくり産業支援センターに派遣され、サザンガクの管理・運営全般を担当。

中山拓輝(なかやま・ひろき)さん サザンガクコミュニティマネージャー
長野県岡谷市出身。進学・就職で福井・東京へ。7年前に長野県に戻り、諏訪のホテルで勤務後、2019年にファイナンシャルプランナーとして松本市で独立。約1,000人以上のプランニング実績を持つ。2023年より株式会社ATOMicaに所属し、サザンガクのコミュニティマネージャーに就任。現在も現役ファイナンシャルプランナーとして活動中。

3つの機能を持つ場所、サザンガク

写真右から阿部さん、中山さん

――まずはお二人の自己紹介をお願いします。

阿部さん:阿部航大と申します。松本市役所の職員でして、今は市役所からの派遣という形で、一般財団法人松本ものづくり産業支援センターに出向しています。2023年からサザンガクの施設長として管理や運営全般を担当しています。

中山さん:株式会社ATOMicaの中山拓輝と申します。2023年から弊社がサザンガクのコミュニティマネジメント業務を受託していまして、僕も阿部さん同様にサザンガクに来て3年目になります。

株式会社ATOMicaは宮崎県発のスタートアップで、全国に60拠点のコワーキングスペースを運営しています。ミッションとしては「頼り頼られる関係性を増やす」、ビジョンが「あらゆる願いに寄り添い、人と人を結び続ける」という形で、都市化で加速していく孤独を課題に感じているスタートアップです。

特に地域は人口が減少していくので、本当に誰かに頼ったりお願い事をするような関係性がどんどん減少している。それによって行動を起こしにくいという社会課題があると考えていて、その解決に取り組んでいます。

――運営に関わっている企業自体がスタートアップなのですね。サザンガクはどんな機能がある施設なのでしょうか。

阿部さん:オープンが2019年11月なので、コロナが始まる少し前なんですが、場所にとらわれない働き方を松本でも広げていくことを目指して立ち上げられました。そのためにデジタル人材の育成と起業家の育成がミッションになっています。そういう方たちのコミュニティをこの場所を使って育て、地域の活性化をしていくこともサザンガクの目指すところです。

中山さん:その上で、サザンガクは主に3つの機能がある施設です。1つ目がコワーキングスペース。1人で仕事をしたい時には「集中ブース」。短時間で打ち合わせをしたい時に便利な「ミニ会議室」や「スクラム会議室」と、その人それぞれに合った活用ができます。

2つ目がサテライトオフィス。インキュベーション施設としての機能も持っており、館内に全部で16の部屋があり様々な企業が入居しています。

3つ目がテレワークオフィス。子育て中の女性を中心に、フレキシブルな働き方ができる雇用の創出と、地域企業の人手不足解消をねらったBPO事業を運営している場所です。

――一般的なコワーキングスペースと、サザンガクの違いは何ですか?

中山さん:この地域のコワーキングは会員制のところが多いんですが、サザンガクはドロップインでの利用も歓迎しています。月額会員の方ももちろんいるんですが、ドロップインの方の割合が比較的多いのが特徴ですね。外に開かれた場所なんです。

サザンガクを訪れた学生の相談にのる阿部さん

阿部さん:また、信州スタートアップステーションと長野県よろず支援拠点の相談窓口にもなっているので、起業や仕事のことで何か相談事があれば、ここに来れば何かしら対応できますよ、というところも特徴です。

信州スタートアップステーションの相談員の方が常駐している日であれば直接その方におつなぎしますし、そうでない日は自分たちがお話をお聞きして、「こんな方が来ました」とおつなぎしています。

そのほかにも、サザンガクのメンバーの中でお力になれる方がいればご相談に乗りますし、サザンガクの起業コミュニティの中で、つなげられそうな方がいればつなげるようにしています。相談員との相談もできるし、いろんな人とのつながりも作れる。そういうハブ的な役割を担っていきたいと思っています。

年間100回以上のイベントで生まれるつながり

――施設としての機能のほかに、ソフト面ではどんな取り組みをされていますか?

阿部さん:コミュニティ形成をしていくために、中山さんと二人三脚でいろいろなイベントを行っています。ざっくばらんな交流会や読書会から、起業に関するセミナーやピッチなど幅広くいろんなことをやっていて、年間で100回を超えるぐらいのイベントを企画しています。中山さん:松本には信州大学・松本大学がいくつかあるので、学生の活動を応援して、地域コミュニティに学生が触れる接点を作ったり、子どものデジタル人材育成の取り組みも行ったりしています。大人向けにもいろんなツールの使い方の講座や、AIの勉強会も開催しています。座学的に学ぶ機会だけでなく、実践の機会も作っているのが特徴です。

――大人だけでなく、若い世代に向けた取り組みも行っているのですね。子どもや学生さんたちの反応はどうですか?

阿部さん:熱い学生さんは一定数いらっしゃって、サザンガクを知って目を輝かせてくれるような学生さんに会うとやっぱりうれしいですね。「こんな世界があったんだ、もっと早く知りたかった!」と毎週通ってくれる子もいます。

中山さん:僕自身、長野県の岡谷市出身なんですが、進学を機に一度地元を離れていたんです。サザンガクに赴任した時は、「地域でこんなに面白いことをやっている人がたくさんいたんだ!」と驚きました。

阿部さん:サザンガクは、地域の若い世代が東京など都市部に出て行かなくても、いろんなジャンルで活躍している方と触れ合える良い場所だなと思っています。私たちとしても、もっとそんな学生たちを増やしていきたいです。

――松本への移住を考えている方の相談も増えているそうですね。

中山さん:はい。松本が好きで移住されてきた方が、働き場所を探してサザンガクに相談にきてくださる機会も増えています。これまでの経歴や、松本でしてみたいことをお聞きして、「こんな面白い人がいるんです」と、地域の企業の方やプレーヤーの方とおつなぎすることもあります。今後も、サザンガクがそういうハブになっていけたらうれしいです。

松本の起業家育成における新たな動き

――起業家育成の取り組みについて教えてください。

阿部さん:実は、松本市では起業家育成という文脈の取り組みが今まであまりなかったんです。でも、去年ぐらいからようやくサザンガクでも着手できるようになってきて。

まず、起業という選択肢を身近に捉えてもらうために2024年から「Meet Up 33GAKU」というイベントを計11回開催してきました。これは起業家や支援者、投資家をゲストに迎え、トークセッションをしてインプットをした後に、その場で交流会まで行うというスタイルのイベントです。多いときは40人以上集まるような回もあって。少しずつコミュニティらしいものができつつあるな、という手応えを感じました。

もうひとつ、「Startup Weekend Matsumoto」というイベントを去年12月に初開催しました。これはサザンガク独自でやったわけではなく、本当に民間主導というか、いろんな方がボランティアで運営に回ってくださり、いろんな企業の方が「応援するよ」とスポンサーになってくださって形になりました。

第1回を12月に、第2回を7月にやったんですが、本当に大勢の方に集まっていただいて。それが今度は、伊那や上田など県内のさまざまな方向へ波及していっているような動きが作られています。

(写真提供:Startup Weekend松本)

中山さん:今年度から、株式会社ATOMicaとして松本市スタートアップ推進事業も受託しています。松本市が、「地域特性を生かした新産業の創出」という目標を掲げているので、市民の皆さんに起業をもっと身近な選択肢にすることを目指している取り組みです。若い人たち、地域の人が挑戦できる環境を整えて、インパクトを生み出すスタートアップを育てる。そんなエコシステムの基盤を作っていきたいと考えています。

こちらは主に3つのプログラムを動かしています。1つ目がトークセッションという形で、昨年度「Meet Up 33GAKU」でやっていたような形を引き継いで、起業を経験された方々のインプットのトークセッションを全10回行っています。

2つ目が、スキルアップイベントです。昨年度は、起業志向の方々に向けて、AIツールを使った実践ワーク等を実施しました。たとえば、会話型AI「ChatGPT」を用いてチームごとにビジネスアイデアを具体化した後、デザイン生成AI「GenSpark」で事業の魅力を伝えるLP(ランディングページ)のドラフトを自動生成するスキルを学びました。

3つ目が、「松本道場」で全5回の連続講座の0期生を募集しました。この1月から1期生を開催します。連続講座の最後には、「M-1グランプリ」という形で、起業のアイデアを実際に人に伝えるピッチのイベントを行います。

――実際に利用できる施設があり、さらにソフト面の取り組みやコミュニティも育っているというのは地域に与えるインパクトが期待できそうですね。

阿部さん:行政がこういう拠点施設を持っているからこそ、周りからも動きが見えやすくやれているのかなという感じはしますね。でも、今後はさらに「ちょっと何かやってみたいかも」とか、「アイデアがまだ固まってないけど気になる」というライトな層が参加しやすい、集まりやすいような取り組みをしていきたいなと思っています。

中山さん:スタートアップと言っても、そのモデルを描く人は本当にごく一部だと思うんです。もうちょっと「起業」というあり方を幅広く捉えて、それがビジネスになるかならないかはともかく、個人としての新しい一歩だったり、会社として、組織としての新しい一歩だったりというものを後押ししたいですね。そのために、人と人をつないでいくようなことを、ここでやっていきたいです。

インタビュー後編では、コミュニティから生まれた具体的な事例や、未来の起業家へのメッセージを聞きました。

サザンガクのHP https://33gaku.jp/