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長野だからできるアート体験を、地域と共に。「SAKE ART」が描く新しい観光コンテンツの形【後編】先輩起業家インタビュー
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長野だからできるアート体験を、地域と共に。「SAKE ART」が描く新しい観光コンテンツの形【後編】先輩起業家インタビュー

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や本音を掘り下げます。

「まずは小さく始めてみることをおすすめします。移住だって引っ越しの延長線上。事業も最初から大きく構える必要はなくて、少ないお金からできることがたくさんある。池に石を投げたら波紋が広がるように、やってみることで自然と広がっていくイメージです」

そう語るのは、長野市を拠点にお酒を飲みながら絵を描くアート体験「SAKE ART」を展開する株式会社ARTLIER代表取締役の目黒健太郎(めぐろ けんたろう)さん。2024年6月のスタートから約1年半、長野市内での定期イベントにとどまらず、善光寺門前の酒蔵や小布施町の北斎館でのコラボイベントを実現。松本市や佐久市、塩尻市のゲストハウス、ブルワリーやワイナリーなど、活動の範囲は県内各地へと広がっています。

インタビュー後編では、長野の地域資源との掛け合わせが生み出す特別な体験の数々と、地域と共につくる新しい観光コンテンツの可能性について聞きました。

<お話を聞いた人> 株式会社ARTLIER 代表取締役 目黒健太郎(めぐろ けんたろう)さん

1988年、神奈川県生まれ。新卒で総合リース会社に入社し、11年間にわたり医療機関の開業支援や国内外のスタートアップ投資に従事。その後、専門人材データベース企業に転職し、フルリモート体制で全国の自治体と連携した地域企業への人材マッチング事業を推進。

2022年4月、「NAGA KNOCK!」への参加を機に長野市へ夫婦で移住。移住直後より長野市の起業コミュニティの立ち上げ・企画運営に携わり、現在も地域の挑戦者を支える場づくりを継続中。

2024年6月には、自身の「やってみたい」を形にした、お酒を飲みながら名画が描けるアートスタジオ「SAKE ART」を開始。2025年12月に法人を設立。お酒とアートを通じて、誰もが素顔に戻れる「大人の遊び場」を創出。お酒とアートを通じて、誰もが素顔に戻れる「大人の遊び場」を創出。酒蔵やブルワリー、ワイナリーなど地域の作り手との連携を通じて、長野ならではの新しい観光コンテンツの開発にも取り組んでいる。

SAKE ART 公式サイト:https://sakeartlab.com/

アクセラレーションプログラムから生まれた、長野ならではな地域事業者との共創の場

――インタビュー前編では、「SAKE ART」を小さく始めた経緯を伺いました。実際に始めてみてから見えてきたことはありますか?

実際に始めてから見えてきたことは本当にたくさんあります。たとえば、最初は自分たちが絵を教えることに不安があったことから、インストラクターは外部のプロの方にお願いしていたんですが、次第に事業の核の部分をずっと外部依存していていいのかという疑問が出てきて。

僕たちの目指すゴールは「うまく描く」じゃなくて「楽しく描いて達成感を感じていただく」ことなので、スペシャリストよりも、描けない人の気持ちがわかる人の方がむしろ適しているんです。自分たちなりに試行錯誤をし、回数を重ねるうちに自分たちでインストラクターができるようになりました。そうして少しずつ軌道修正を重ねて、今の「SAKE ART」のスタイルが確立していきました。

――2025年度に、信州スタートアップステーションの「信州アクセラレーションプログラム」※1 へ参加したことが、県内での活動の広がりにつながったそうですね。参加を決めた理由は?

1年間やってきて、ある程度型が決まってきて新規のお客さんも来てくださるようになってきたので、改めて外部のプロ目線を入れて、どうSAKE ARTを伸ばしていくかを本格的に考えたかったというのが主な理由です。

――実際にはどんな支援を受けましたか?

支援の内容は大きく三つあって、一つ目がブランドイメージの言語化です。自分自身の「楽しい」という気持ちだけが先行していたところを、実際に来てくださったお客様の特徴や考え方をプロの方と一緒に整理して、どんな方に刺さっているのかを言語化しました。それによってロゴやブランドカラーも固めることができました。

二つ目が広告の効果検証です。マーケティングは専門外だったので、何をこの段階で検証すべきかをプロに明確にしてもらい、LINE広告やインフルエンサーとのタイアップを実施しました。地元テレビ「土曜はこれダネ!」にも取り上げていただいて、自分たちだけではできない認知拡大の効果を実感しましたね。

そして三つ目が、県内事業者様とのネットワークづくりです。立ち上げ初期は長野市内のレンタルスペースを中心にイベントを展開していましたが、この支援によって活動範囲を大きく広げることができました。

――どのように事業が広がったか教えてください。

善光寺門前町の酒蔵「善光寺外苑 西之門 よしのや」とのコラボイベントの様子

自分たちだけではアプローチできないような県内の各事業者の方々と意見交換させていただく機会をつくっていただき、結果として長野市・善光寺の門前にある酒蔵「善光寺外苑 西之門 よしのや」さんや、サンクゼールさんとのコラボイベントにつながりました。

ほかにも、松本市や塩尻市、佐久市などの近隣エリアでの初開催や、長野市のクラフトビール醸造所のNAGANO BREWERYさんとのコラボも実現しました。特別なイベントをきっかけに通常イベントへ誘導する動線もつくれるようになり、地域×観光×体験という「SAKE ART」がこれから目指していく事業の形が見えてきました。

当初の狙いだった「県内での本格的な認知拡大の検証」という意味では、非常に満足のいく結果になったと思っています。信州スタートアップステーションを始めとした関係者の皆様には大変感謝しております。

※1 信州アクセラレーションプログラム・・・信州スタートアップステーションによる、次世代産業と地域課題の解決を目指す企業の創出をはかるため、創業後間もない企業への短期集中的伴走支援(アクセラレーションプログラム)

新しいサービスが地域に受け入れられるまで

――小布施町の美術館「北斎館」でもイベントを開催されたと聞きました。

小布施町のイベントでは、地元のワイナリーで作られたワインやジュースを用意

きっかけは知人の紹介で、小布施町の観光全般を担当されている方が私たちのイベントに来てくださったことでした。

北斎館とも非常に強いつながりをお持ちの方で、その方を起点に北斎館の関係者の方々にも知っていただき、まずはチームビルディングとして体験していただいたんです。皆さんに非常に喜んでいただけて。普段は美術館で鑑賞するだけの北斎を、実際に見た上で自分で描く体験を通じて、より北斎を身近に感じてもらえるということで、共催イベントを実施する運びになりました。小布施町は葛飾北斎が晩年を過ごした土地で、北斎を支援したパトロンが当主をしていた酒蔵など、北斎ゆかりのお酒がたくさんあります。北斎館で作品を鑑賞してから、そのゆかりの日本酒や地元ワイナリーのワインを楽しみながら北斎を描く。そんな体験ができるのは全国探しても小布施町だけで、参加者の方に小布施のファンになっていただけるという狙いもありました。信濃毎日新聞にも記事にしていただき、参加者の半数以上が県外からお越しいただいたことも印象的でした。

――地方ではまだあまり知られていない新しいサービスを提供する上で、地域の受け入れ側の反応はいかがでしたか?

「お酒×アート」の体験は、日本ではまだ大都市圏にしかなく、実際に体験したことがある人は5%以下という状況です。最初に企画を持ち込んだ時は、はやはり「何それ?」という感じでしたね。そういった新しいアクティビティーを、美術館や酒蔵という歴史あるオフィシャルな場所でやることへの戸惑いは当然ありました。

でも、実際に体験してもらったり、参加者が笑顔で描いている写真や動画を見てもらったりするうちに、「面白そうだね。まずは1回やってみよう」という反応に変わっていきます。そして実際にやってみると「これは定期的にやっていきましょう」という話になっていくんです。最初の戸惑いから、段々積極的になってくださるプロセスが毎回印象的です。

長野は日本で一番美術館と博物館が多い地域なんですよ。そして、新潟県に次いで日本で2番目に酒蔵が多い地域でもあり、ワインの産地でもある。お酒とアートを掛け合わせた文化を長野から発信できるというのは、すごく説得力があると思っています。


長野を起点に、地域と共につくる新しい観光体験へ

――今後の展開についても聞かせてください。


直近では、長野市内のブルワリーや、ワイナリーとのコラボイベントを行いました。長野市外でも、塩尻や佐久平など新しい地域でのイベントも増えてきています。それぞれ長野市とはまた違う客層の方に来ていただき、地域ごとの個性があるなと感じました。

塩尻のイベントでは、地域のゲストハウスとコラボし、地元のお酒を飲みながら絵を描いてそこに泊まる、というコンセプトを提供することができました。地元の人にとっても、外から訪れる人にとっても、その土地への愛着を生むコンテンツになったと思っています。今後も県内各地でその土地ならではのコラボイベントを企画していきたいです。

固定スタジオを持たないからこそどこへでも行けるのが強みです。長野を飛び出して山梨や金沢、東北など、各地の酒蔵やワイナリー、そしてアートが好きな方々と連携しながら、その土地ならではのお酒とアートを掛け合わせた体験を広げていきたいと思っています。

企業向けの展開では、社内研修やエンゲージメント向上への活用も考えています。実際に、先日長野市内の企業さんと30人規模の社員向けイベントを開催したのですが、社員の方だけでなくご家族、小さなお子様も含めて皆さんで集まっていただいたんです。アートを通して会話が生まれると、上司・部下という縦の関係性ではなく、斜めの関係性で交流できる。福利厚生としてだけでなく、家族ぐるみで会社への愛着が深まるような場になったと感じています。

老若男女が一緒に楽しめて、会話と創作への没頭が両立できるのが「SAKE ART」の強みなので、エンゲージメント向上やカルチャーブランディング、新卒研修などへの活用余地も大きいと考えています。自治体でのマッチング・婚活イベントへの横展開も考えられますし、将来的にはフランチャイズ展開も視野に入れています。長野だからこそできることの可能性を広げながら、日本各地でさまざまなコンテンツを展開していけばと考えています。

――最後に、長野での起業を考えている人にメッセージをお願いします。

まずは小さく始めてみることをおすすめします。長野への移住だって引っ越しの延長線上でしたし、起業も「人生をかけるぞ!」と最初から大きく構える必要はなくて、出来る範囲の予算で実験レベルからでも始められます。

その実験を2〜3回やるだけで、考えているだけではわからないたくさんのことが見えてきます。始めることで人からの反応が生まれ、水面に波紋が広がるように自然と事業が広がっていきます。反応がなければやめればいいですし、撤退の選択肢を持ったまま、ちょっとだけ背伸びしたやり方でやってみる。目指すところまで道のりを一足飛びで行こうとするのではなく、グラデーションで歩んでいけば、精神的な負担も少なく、自分のペースで事業を進めていけると思います。

株式会社ARTLIERのホームページ