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美味しく食べられる喜びをすべての人に。ヴィーガン&グルテンフリースイーツのパイオニア、「CocoChouChou」のスイーツができるまで【前編】先輩起業家インタビューvol.2
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美味しく食べられる喜びをすべての人に。ヴィーガン&グルテンフリースイーツのパイオニア、「CocoChouChou」のスイーツができるまで【前編】先輩起業家インタビューvol.2

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

「会社員時代は、生活は安定していましたし、会社も仕事も大好きでした。はたから見たら、とても順調なキャリアだったかもしれません。でも、ふと『私は一生こんなふうにして働いていくのかな?』と、立ち止まったんです。」

そう語るのは、「すべての人に『美味しく食べられる』喜びを」をテーマに、長野県長野市を拠点にヴィーガン&グルテンフリーのスイーツブランド「CocoChouChou(ココシュシュ)」を営む飯田紗央里(いいださおり)さん。

会社員を退職後、お菓子作り教室・商品開発からスイーツ事業をスタートした飯田さん。通信販売から始まった「CoCoChouChou」は、現在は長野駅前の実店舗を構えるほか、全国各地のイベントや催事にも出店し、多くのファンを持つ人気ブランドです。

インタビュー前編では、「CocoChouChou」のこだわりと、会社員生活を手放し自分の事業を始めるまでのストーリーを聞きました。

<お話を聞いた人>
飯田紗央里さん
株式会社CocoChouChou代表取締役。こどもの頃の趣味はお菓子作り。 IT企業に就職も、食べることが大好きで、人生を華やかに彩る“食”に携わる仕事を生涯の仕事にしたいと退職。ヴィーガンや食物アレルギーなど、食の制限の問題に気が付き、独学でヴィーガン&グルテンフリーのスイーツを研究し、2017年に「CocoChouChou」を開業。

誰もが笑顔で美味しく食べられるスイーツブランドを目指して

――まずは、「CocoChouChou」が大切にしているお菓子づくりのあり方やブランドにかける思いを教えてください。

「CocoChouChou」のお菓子はすべて、卵・乳製品・小麦・白砂糖不使用のヴィーガン&グルテンフリーです。

「お菓子は体や美容によくない」と我慢している方や、食物アレルギーや健康の事情などで食の制限がある方、菜食主義のヴィーガン・ベジタリアンの方など、誰もが「自分だけがみんなと同じ美味しいお菓子を食べられない」という寂しい気持ちを抱くことなく、笑顔で美味しく食べられるスイーツを作っています。

――健康に配慮したお菓子や、アレルギー対応のお菓子は味気ないイメージがあったのですが、「CocoChouChou」のスイーツはとても華やかで見ているだけでもときめきますね。

まさに、心が華やぐようなおしゃれでかわいいスイーツを作ることも「CocoChouChou」のこだわりです。「これしか食べられないから仕方なく」ではなく、あらゆる食の制限をポジティブに変換して、「美味しいから」「かわいいから」と「CocoChouChou」を選んでいただけるように商品開発を行っています。

――おいしさのこだわりについて教えてください。

白砂糖は使わず、甘みはミネラルたっぷりのメープルシロップやきび砂糖、デーツなどのドライフルーツで、”くどくない”甘みを出しています。また、コクを出すために、良質な脂肪分であるカシューナッツやココナッツオイル、カカオバターなどを使用し、米粉にナッツの粉を加えるなど工夫を凝らしています。

――「CocoChouChou」は、現在どのように展開していますか?

「CocoChouChou」は、通信販売から事業をスタートしました。公式の通信販売サイトのほか、楽天市場、Cake.jpからお取り寄せいただけます。また、 新宿伊勢丹やながの東急百貨店、渋谷ヒカリエなど全国の百貨店・セレクトショップでの催事販売や、マルシェやイベント等の出展も行っています。2017年には、長野市内で実店舗を構えました。

――スイーツの中でも、「ヴィーガン・グルテンフリー」に注目した商品開発を進めてきたのはどうしてですか?

これは創業から数年が経った今でも思うことなのですが、魅力的な商品やスイーツは既に世の中にびっくりするぐらい溢れています。有名なパティスリーで修行した人や、フランスで修行した人たちが次から次へと新商品を出している中で、自分がわざわざ既存のお菓子を作ることには意味が見出せませんでした。

それよりも、まだ世の中に無いもの、それも、「無くてみんなが困っているもの」を作るべきなんじゃないか、と考えて、「ヴィーガン・グルテンフリー」のスイーツブランドを立ち上げることを決めました。

会社員としての順調なキャリアアップがふと怖くなった

――飯田さんは、もともとは会社員として働いていたとお聞きしましたが、「いつかこんなスイーツブランドを立ち上げたい」という思いがあったのでしょうか。

子どもの頃からお菓子づくりが好きで、学生の頃はパティスリーやお菓子作り研究家のもとでアルバイトをしており、「いつかは食べ物に関わる仕事に就きたいな」とは漠然と考えていました。

ですが、会社員として働いていた時も、辞めた当時も、何をするかは一切決まっていませんでした。「会社員生活を断念して、大好きなお菓子の道に戻ってきた」みたいな感覚はまるでないんです。

――会社員の頃はどんなお仕事をされていたのですか?

都内のインターネット銀行に就職し、約7年間ネットマーケティングの業務に携わっていました。会社も仕事も好きで、今でも働いていてよかったと思っています。それでも会社を辞めたのは、「このままキャリアも収入も上がっていったら、もう抜けられなくなる」と怖くなったからでした。

――「怖くなった」というのはどういうことですか?

生活は安定しているし、仕事もやりがいがあって、収入も上がっていく。はたから見たら、会社員としてはとても順調だったかもしれません。でも、忙しい毎日の中で「私は一生こんなふうにして働いていくのかな?」と、不安になったんです。収入もある程度伸びてきていたので、これ以上の金額をもらえるようになったら、きっと手放すのが怖くなってしまうだろうと。

――会社の中で順調にキャリアを積んでいたからこそ、立ち止まりたくなったと。

「手放すなら今だ!」と強く思ったのを覚えています。そこで、先のことも考えずに見切り発車で会社を辞めました。そこから何をするかはまったく決まっていませんでしたが、「まずは辞めないと始まらない」という気持ちでしたね。

――立ち止まることで、一度自分自身をリセットしたのですね。

会社員時代は本当に毎日一生懸命仕事をしていたので、プライベートの充実を優先してこなかったんです。辞めてからの約一年は、貯金を切り崩しながらのんびりと暮らし、今後自分がどのように生きたいのか考えました。

それでも、結局明確な答えは出なかったんです。ただ、「会社員に戻ろう」とは思えなかった。そこで、自由と責任が伴う「起業」という選択肢が浮かびました。

――「自由」と「責任」が伴う働き方が、飯田さんにとって大事なポイントだったのですね。

会社員時代も、より責任の重い仕事、決定権のある仕事をさせてもらえるとやり甲斐を感じていました。全ての決定権と責任を担う起業は、自分に合っているのではないかと思い至ったんです。

「好きなことを仕事にする」というより、働き方の選択肢の1つとして「起業」という働き方を選び、その中で、漠然と好きな食の仕事についた、という流れです。

まずは小さなことから。コツコツと発信してチャンスを掴む

――もともとは会社員をしていたところから、どうやってお菓子の事業を始めていったのですか?

開業資金を貯めていたわけではなかったので、先行投資が必要な店舗経営は選択肢にはありませんでした。幸い、大学時代にお菓子業界に関わっていた経験があったので、プロには全く敵わないけれど、お菓子作りの基礎知識とスキルはあった。そこで、なるべくお金をかけずに小さく始められる展開の仕方を考えて、お菓子教室と商品開発から小さく事業を始めました。

――なるほど、商品を作って売るのではなく、スキルやアイディアを提供するところからスタートしたと。

前職でマーケティングの部署にいたこともあり、メディア系に強い人たちとのつながりも多かったので、「みんなに話したらうまくきっかけを掴めるんじゃないか」と感じたのも大きかったです。

タレントさんを起用してるような事業部の方もいたので、なにか少しでもチャンスが舞い込めば、という気持ちで、お菓子を作っては会社に差し入れに行き、「お菓子の事業を始めようとしているんです」と挨拶して回りました。

――まだかたちになる前の段階から、コツコツと発信をしていったのですね。

最初はとにかく営業活動をしていましたね。まだ会社名もなにも決まっていない段階で、とにかく「お菓子教室を始めるから、習いたい人いるかな?」「商品開発、メニュー開発の仕事を探してる人いないかな?」と呼びかけながら自分の作ったお菓子を配り歩いていました。そうしたら、前職の関係者の方がカフェの商品開発の仕事を持ってきてくれたんです。

――早速チャンスが! 飯田さんが会社員時代にお仕事を一生懸命やっていたからこそ、退職後も応援してもらえたように感じます。

本当にありがたかったですね。そこでご紹介いただいたのが、東京の麻生十番で新規オープンする予定のカフェだったんです。麻生十番には大使館がいくつもあり、海外の方も多く暮らしているエリアなので、ヴィーガンやグルテンフリーに対する考え方が日本の中でも早くから根づいている地域でした。

実際にそのカフェに採用された店員さんの中にも、ヴィーガンの方がいて。そこで初めて、「そうか、卵・乳・小麦を使ってしまうと、ヴィーガンやグルテンフリーを選ぶ人たちは食べられないんだ」と気がついたんです。その頃、ちょうど食品アレルギーの問題も注目されていた頃だったので、そこからヴィーガン・グルテンフリーのお菓子を開発し始めました。

――たまたま掴んだ仕事のチャンスが、ヴィーガン・グルテンフリーの世界に踏み込むきっかけになったのですね。

そうなんです。メニュー開発を進める中で、感度を上げて周りの声を聞いていくと、「みんなと同じお菓子が食べられない」「楽しく美味しいお菓子が食べたい」という声が聞こえてきて。

ただ「美味しいお菓子」を作るのではなく、「悩んでいる人たちの課題を美味しいお菓子で解決する」方がいいんじゃないか、と自分の進むべき方向性が見えてきました。

・・・

インタビュー後編では、長野移住と、事業をかたちにしていくまでの過程や仲間の増やし方、これからの展望について聞きました。

・CoCoChouChouのホームページ

・CoCoChouChouのオンラインショップ