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長野だから乗り越えられた創業初期の壁。眼科に特化した人材サービスで医療現場の課題を解決【後編】先輩起業家インタビューvol.7
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長野だから乗り越えられた創業初期の壁。眼科に特化した人材サービスで医療現場の課題を解決【後編】先輩起業家インタビューvol.7

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

「人材系のビジネスは、在庫等を抱える必要がない無形商材のビジネスモデルなので、場所を選ばずに展開できます。そのため、初期の段階から家賃の高い東京にオフィスを構えるのは無駄だと考え、地元である長野で創業することにしました。」

そう語るのは、眼科に特化した情報メディア、就職/転職サービスを提供する株式会社Contactを立ち上げた依田龍之介(よだりゅうのすけ)さん。視能訓練士を目指し医療系の大学で学ぶ中で、医療現場の人材採用の課題を肌で感じ、起業を目指すように。ビジネスの新規性と可能性が評価され、2022年に創設された長野県の創業支援ファンド信州SSファンドの投資先第一号にも選ばれました。

本社はかつて祖父が暮らした軽井沢町の家に置き、現在は東京・下北沢のシェアオフィスとの2拠点で働く依田さん。インタビュー後編では、長野での創業を選んだ理由や、創業初期の課題、今後の展望について聞きました。

<お話を聞いた人>
株式会社Contact 代表取締役 依田龍之介さん

長野県出身。大学院修士課程修了。視能訓練士。大学院在学中に研究・学会発表を行いながら、3歳児健診での弱視見逃し防止に関する事業で経産省が主催するジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト等に登壇。その後、医療系ITスタートアップに参画。2022年株式会社Contact設立。

創業コストを下げるため、東京から地元の長野にUターン

軽井沢にある祖父の空き家をオフィスとして活用

――インタビュー前編では、思い立ったその日に登記を済ませたとお話がありましたが、長野での起業を選んだのはどうしてですか?

結論から言わせていただくと、初期コストを下げたかったからです。人材系のビジネスは、在庫等を抱える必要がない無形商材のビジネスモデルなので、場所を選ばずに展開できます。そのため、初期の段階から家賃の高い東京にオフィスを構えるのは無駄だと考え、地元である長野で創業することにしました。

まずは登記を済ませてから、長野での創業支援やサポートを探しました。その中で、信州スタートアップステーション(以下、SSS)を見つけました。

――SSSでは、具体的にどのような支援を受けましたか?

一番最初にSSSに相談に行った際は、そもそも視能訓練士とは何かというお話から、慢性的な眼科の人材不足など、医療現場の課題や現状の説明をさせていただきました。そこから、どんな事業なら課題解決が実現できるのかの壁打ちをすると共に、実現のために必要な資金量と調達手段についても相談にのっていただきました。

――開業にあたって資金調達はどのように行いましたか?

「眼科に特化した就職/転職サービス」というのは、あまり一般的でないサービスだったこともあり、当初見積もった事業資金規模に対し、既存の金融機関から十分な融資を受けるのが難しい状況でした。

人材サービスというのは、実は免許事業で、創業にあたって厚生労働省から「有料職業紹介免許」という免許の交付を受けないといけないんです。そのためには約500万円の純資産が必要で。

――まだ事業が始まっていないうちから、それだけの金額を準備する壁は大きいですね。

はい。僕は当時まだ大学院生でしたし、創業のための初期費用で貯金をほとんど使い切ってしまっていたので、500万円という金額は自分では到底用意できないものでした。さらに、銀行の融資を受けられたとしても、融資は会計上は純資産にカウントされないため、免許取得には不十分だったんです。

資金調達の壁に当たるも、長野県の創業支援ファンド第一号に

――その課題はどのように解決したのですか?

本当に運が良く、僕が起業したちょうど数ヶ月後にSSSが創業支援のファンド「信州スタートアップ・承継支援ファンド」を創設したんです。ファンドからの出資であれば純資産扱いになり、免許の取得をすることができます。

SSS側から「こんなファンドがあるんですがどうですか?」とご提案いただき、早速手続きをすすめ、無事に投資先第一号にお選びいただけました。その後、2022年の6月には視能訓練士の働き方などの記事を配信するサイト「Contactメディア」を立ち上げ、免許取得後に眼科に特化した求人プラットフォーム、「Contactキャリア」をスタートさせました。サービス開始から約一カ月で、関東を中心に約20の医療機関の求人を受け付け、視能訓練士は約130人の登録がありました。

――いざサービスを立ち上げて、実際に軌道に乗り始めるまではどれくらいの時間がかかりましたか?

初期の頃はとにかく大変でしたね。事業が安定するまでは思っていたよりも時間がかかりました。一年ほどはとにかく毎日必死に目の前のことに向き合っていたと思います。

――軌道に乗るまでの時間は、どうやって乗り越えられましたか?

東京の家を解約して大学院の地下で生活していた期間も

正直、今となってはあんまり覚えていないんです。全てのあらゆることを試し、少しでも可能性のあるものにはアクションをかけ、「あ、これだ」という手応えがあるものを手繰り寄せてつないでいったらやっと軌道に乗った、という体感です。

――以前SSSの相談員の方にインタビューした際に、成功する創業者の共通点は「何度もトライできるへこたれない人」というお話がありました。

もちろん、どちらかと言ったらつらかったですよ。でも、「起業をする」というのは自分で選んで自分で始めたことですから。僕は漫画の「進撃の巨人」が好きなのですが、漫画に出てくる「お前が始めた物語だろ!」というセリフで自分を鼓舞していました。

初期コストが抑えられる長野での創業。迷っている人はぜひ挑戦を

――改めて振り返っても、創業初期の場に長野を選んだのはいい選択だったと感じますか?

はい。何が一番良かったかというと、資金調達のハードルが低かったことです。長野には、県の創業窓口であるSSSがあります。そこで事業の可能性を感じてもらうことができれば、県内の金融機関等におつなぎいただけるというのは、新規創業者にとってとても心強かったです。

SSSを介さず、僕個人で金融機関をノックして融資の相談に行ったこともありましたが、当時の僕はまだ学生でしたし、事業としての実績もなかったため、門前払いされてしまうこともありました。ですが、「県のお墨付き」として、SSSの担当の方から「こんな起業家がいるんです」と紹介していただくと、最初の話を聞いていただく入り口がまったく違うんです。ドアが開いた感覚がありました。

――県の窓口があることで、信頼感が得られたと。

それから、東京とのアクセスの良さも大きな利点です。人材サービスというのはどこにいても展開できるビジネスモデルとはいえ、お客さんは東京の方が多いですし、支援してくださっている投資家や、起業家仲間も東京に多くいます。その点、軽井沢駅から東京までは新幹線で1時間弱で行けるので、東京でランチミーティングをして、夕方には家に帰ってくることができる。

もちろん交通費は多少かかりますが、東京で家もオフィスもかりるとなったらとんでもない額の費用が必要です。それならば、普段は軽井沢に篭って、必要なときにパッと東京に行く生活の方がよかったですね。現在、東京にもオフィスを置いているのは、創業当初よりも東京での仕事の機会が増えたからです。拠点を移したというよりは、二拠点を続けつつ、東京に比重を置いているという状態ですね。

――依田さんが今後挑戦していきたいことはありますか?

「医療分野の採用課題を解決する」という事業のコアは今後も変わりません。次のアクションとしては、大手の人材企業と事業提携をしていくことを目指しています。僕はどちらかというとゼロイチの人間なんです。アイデアを元に事業を立ち上げることが得意で、一から十に事業を成長させていくフェーズは、もっとその分野が得意な方にバトンタッチしていきたい。

なんとか、事業の仕組み自体は出来上がってきたので、ここからより大きく事業を成長させてくれる仲間と組んで、さらにサービスを大きく展開していきたいです。「Contactキャリア」は眼科医に特化した採用プラットフォームですが、ゆくゆくは眼科以外の職種にも展開していけたらと思っています。

――最後に、長野県での創業を考えている方向けのメッセージをお願いします。

商材を持たず、場所を選ばないビジネス展開を考えている方であれば、長野県での創業は本当におすすめです。僕は、長野県で創業して良かったと思っています。迷っている方には、ぜひ挑戦してほしいですね。

株式会社Contact https://corp.contact.ne.jp/

Contactキャリア https://contact.ne.jp/