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20代のクリエイター仲間と、地方の若者のロールモデルに。人生を楽しむ働き方を長野で実現【前編】先輩起業家インタビューvol.9
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20代のクリエイター仲間と、地方の若者のロールモデルに。人生を楽しむ働き方を長野で実現【前編】先輩起業家インタビューvol.9

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

「法人化することは、早い段階から検討していました。個人事業主として一人で独立した頃は、まだ受注できる仕事の量やできることも限られていましたが、いずれはデザイナーやエンジニア、マーケターといったクリエイターの仲間たちを集めて会社にできたらと」

そう語るのは、株式会社オンクリ代表の土屋喬椰さん(つちやたかや)さん。2022年に長野県佐久市で設立された株式会社オンクリは、ブランド設計からマーケティング施策の設計・実行、クリエイティブ制作・運用までを一貫して行う会社です。代表の土屋さんを含め、社員は全員20代のクリエイター。フルリモートで自由な働き方を追求しています。

インタビュー前編では、就職後1年半で独立を選んだ経緯や、さらにそこから数年で法人化に踏み切るまでのストーリーについて聞きました。

<お話を聞いた人>
株式会社オンクリ 代表 土屋喬椰さん

長野県東御市に生まれ、プログラミングが学べる専門学校に進学。社会人を1年半経験し個人事業主として独立、2021年にオンクリを設立。趣味はサウナとDIY。

20代のクリエーターによる、地道な泥臭いマーケティングを楽しむ制作会社

空き家になっていた佐久市の祖父の家をDIYで改装したオンクリのオフィス

――まずはじめに、株式会社オンクリの事業内容について教えてください。

株式会社オンクリは、もともとは僕個人の事業として立ち上げ、2022年に法人化をしました。WEB制作・マーケティング支援の事業と、システム開発という主に2つの軸で事業を展開しています。

WEB制作・マーケティング支援の事業は、企業のWebサイトやECサイトの制作、CRMシステム(Cusomer Relationship Management、顧客関係管理システム)の導入支援や、写真や動画といったコンテンツ制作が中心です。後者のシステム開発では、企業の社内で使う業務効率化システムを、完全にスクラッチから開発することができます。

オフィスは佐久市に構えており、僕を含めた20代のクリエイター4名で運営しています。基本的にはフルリモートでの勤務ですが、月に数度オフィスに集まり、自然の中で焚き火やサウナをしながら顔を合わせてコミュニケーションを取る機会を作っています。

――会社のホームページを見ると土や畑仕事といったモチーフが多く、いわゆる制作会社とは少し異なる印象を受けたのですが、これにはどんな理由がありますか?

オンクリは「地道な、泥臭いマーケティングを楽しむ制作会社」を掲げています。

弊社のマーケティングは、いわゆる「SNSでバズる」みたいなことを推している訳ではなくて。それよりも、たとえば顧客情報を一からデータ化したり、WEBサイトをしっかり作り込んで、コンテンツを継続的に更新するといったような、地方の企業にとって必要な「泥臭いこと」を、地道に一緒にやっていきます。

――個人事業主として事業を立ち上げてから、約1年後に法人化を果たしたのはどんな経緯が?

個人事業主として事業を始めてから、よく「マーケティングだけが得意な会社だと制作物が外注だから思い通りにならない部分がある」という話や、逆に「制作会社に頼んで綺麗なサイトが完成したのに全然売り上げが立たないぞ」みたいな悩みを聞いていたので、それらを一貫してできる会社があったらいいんじゃないかと考えるようになりました。

僕ひとりの個人事業として独立した頃は、まだ受注できる仕事のキャパも含めできることが限られていました。ですが当時から、デザイナーやエンジニア、マーケターといったクリエイターたちを集めて会社にできたらすごく良い会社になるだろうなというところまで考えていたので、法人化することは割と早い段階から検討していましたね。

持病を抱えながら会社員として働くことへのもどかしさ

オフィスの敷地内にある畑で語らうオンクリの仲間たち

――土屋さんのご自身のキャリアの変遷について詳しく教えてください。

高校卒業後、ITエンジニアの勉強をする専門学校に2年間通いました。専門学校卒業後は、地元のシステム開発やWeb制作をしている会社に就職し1年半ほど勤務し、2021年1月に個人事業主として独立した形です。

――当時から地元・長野で働きたい気持ちがあったのですか?

いえ、特にそういったわけでもなくて。「どこで働くか」というより「何をするか」に重きを置いて就職先を探していました。

当時僕は、「農業」と「IT」という2つの軸を掛け合わせたことがしたかったんです。僕の祖父が農家だった影響で、農業をやりたい気持ちが昔から心の中にありました。ですが、祖父や家族から反対されたので、ひとまずエンジニアの勉強をしたんです。それでもやっぱり農業と関わることがしたくて、両方組み合わせてやっている会社を探してみたら、たまたま長野で見つけたので、そこに就職しました。

現在のオンクリのオフィスは、土屋さんの祖父の畑に囲まれている

――その後1年半で独立されたのは、ご自身でやりたいことが見えてきたといったところでしょうか?

僕には「潰瘍性大腸炎」という持病があり、症状が悪化すると常に腹痛がしてトイレが近いといった状態になってしまうので、出社するのが難しくなってしまいました。それでも会社の理解を得てフルリモートで働いていたのですが、最終的には退職することを選びました。

――そこから個人で独立して仕事を探すのは大変ではなかったですか?

大変でしたね。会社員時代は主にエンジニアやマーケティングの仕事をしていて営業は未経験だったので、最初はどう仕事を取ったらいいのか全くわからなかったんです。独立して3ヶ月は売り上げも立たずただお金が減るばかりなので、とりあえずメールをたくさん送って、アポが取れた企業にひたすら行く、ということを繰り返していました。

そうしたら、独立後4ヶ月目になって初めて前職の月収をポンと超えたんです。その頃から、「これはいけるんじゃないか」と思えるようになりました。半年ぐらい経つ頃には、売り上げが立つようになってきたので、そのまま続けてこられた感じです。

――独立初期の頃から、「地方にトータルで全部できる制作会社があればいいのでは」と考えていたとお話がありましたが、本格的に法人化を進めることになった経緯を教えてください。

個人事業を立ち上げてから半年ほどで、既に自分だけでは回らないような状況だったので、初めは業務委託として同年代の仲間に仕事をお願いしていました。

一人でやるなら個人事業の方が全然良いと思うのですが、自分は最初から「マーケティングや制作を一貫してできる会社を地方に作りたい」という思いがあったので、案件が増えてきて、周りに仕事を任せられる優秀なデザイナーやエンジニアの仲間がいたことから、「仲間たちを雇用して会社にしてしまった方がいいな」と感じるようになり、会社として枠組みを作るために法人化に踏み切りました。

「人を雇用する」というリスクの壁を、高校時代の同級生に触発されて乗り越えた

――「経営者になりたい」とか「創業したい」というよりは、会社の枠組みがあった方がいいな、という思いだったんですね。

そうですね。経営者になろうとは思っていなかったです。

――起業されるタイミングや法人化されてから、県の創業支援に関するサポートは何か受けましたか?

長野県の創業支援の枠で融資を受けています。それから「長野県よろず支援相談室」という県の経営相談みたいな窓口の相談支援を受けました。相談員の方が、たまたま専門学校のときにお世話になった先生だったということもあり、創業初期に相談しに行きました。

創業後の今でもお世話になっていて、例えば顧客の方から補助金についての相談を受けたときなど、県で受けられる補助金や制度について教えていただいています。

――創業当時、身の回りに創業をしている同年代の仲間はいましたか?

以前SHINKIで紹介されていた株式会社Contactの依田は高校時代の同級生です。彼が東京の大学に進学して以降は連絡を取っていなかったのですが、僕が前職でやっていたことや、個人事業主として頑張っていこうとしていたのを、彼の方は知ってくれていたみたいで。

それまでは連絡があってもあまり返さずにいたのですが、ある日急に「俺もちゃんとビジネスを覚えて、これから頑張るんだ」と電話が来たんです。僕もちょうど同じようなことを考えていた時期だったので、そこからよく連絡を取り合うようになって、結果的に同じ時期に起業をしました。

――同級生の仲間に触発された部分もあったのですね。

お互いの創業初期の頃は、焚き火を見ながら語り合ったことも

人を雇用するってリスクもあることじゃないですか。僕はそれで二の足を踏んでいたのですが、依田はまだ事業を始めたばかりの段階でいきなり法人化をしていて。

もともとは、先に僕が個人事業主として独立していたので、依田から「どうやってお金を回してるのか」とか「どうやって仕事を取ってるのか」といった相談を受けていたんです。でも、法人化したのは彼の方が早かった。それを見てちょっとした対抗意識というか、「自分も何かやってやろう」という気持ちが芽生え、法人化を決断しました。

――リスクを感じていた部分もあったのですね。いざ法人化してからは、順調に事業が回っていますか?

なかなか、「ずっと順調です」とはいかなくて。どうしても、あまり仕事がない時期というのは今でもあるのですが、創業者が集まるイベントや、地方の起業展などには積極的に顔を出して、新規の営業活動を何とか少しずつ頑張っています。

インタビュー後編では、「将来に絶望していた」という高校時代のことや長野で起業することのメリット、今後の展望についてお聞きしました。

株式会社オンクリのHP https://onkuri-web.com/