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地域と関わる起業。ハタケホットケ社の想い【SSSセミナーレポート】
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地域と関わる起業。ハタケホットケ社の想い【SSSセミナーレポート】

信州スタートアップステーション(SSS)では、長野での創業を考えている方や、支援機関の方向けのオンラインセミナーを定期的に開催しています。

2024度最後のセミナーでは、起業家と地域との関わりにフォーカスし、東京から長野県に移住され、地域の課題に対し地域のコミュニティとともに関わり、それをご自身の事業にされたハタケホットケの日吉有為(ひよし・ゆうい)氏にご登壇頂きました。

また、地域コミュニティからは塩尻市スナバの三枝大祐(さいぐさ・だいすけ)氏にもご登壇頂き、起業家と関わる地域の両面からお話を頂きました。セミナーの様子をレポートします。

【登壇者】

(株)ハタケホットケ 代表取締役 日吉 有為氏

シビック・イノベーション拠点スナバ 三枝 大祐氏

進行役:信州スタートアップステーション主任コーデイネーター

「草刈りが大変!」という自分のための課題解決が地域の課題解決へ

セミナー前半では、ハタケホットケ社の日吉氏より長野移住のきっかけや、創業の経緯と成長の軌跡についてお話がありました。

日吉氏は、コロナ禍中に東京から塩尻市に移住した友人がきっかけで、家族とともに塩尻に移住しました。日吉氏「移住のきっかけになった友人の友人が、家庭菜園でお米を作っている方で、『一緒に田んぼをやろうよ』と誘ってくれて。田んぼなんて見たこともないし入ったこともなかったので、『やりたい!』と何も知らないまま家族で参加したんです」

その田んぼは家庭菜園だったため、除草剤を使っておらず、日吉さんは夏場毎週田んぼに入って草刈りに通う経験をしました。その後、初めて自分が作ったお米を食べた日吉さんは、その感動により人生観が変わったと言います。

翌年も引き続き田んぼを続ける中で、草取りの大変さを感じた日吉氏は、ものづくりが好きな友人と一緒にラジコンを応用し除草をする方法を模索し始めました。試作を繰り返し、完成品を「ミズ二ゴール」と名付けます。

さらに、塩尻で交友関係を広げるため、塩尻の団体や活動について調べる中で、シビックイノベーション拠点「スナバ」を紹介された日吉氏は、塩尻市のソーシャルイノベーション拠点「スナバ」に通いはじめます。

さまざまなプログラムに参加する中で、本格的に「ミズ二ゴール」の開発と創業に向けて動き始めた日吉氏は、2021年には、長野県のソーシャルビジネス創業支援金を活用し株式会社ハタケホットケ社を共同創業。その後、ジャパンモビリティショーへの出展や、信州ベンチャーサミットへの挑戦、クラウドファンディングでの資金調達、エンジェル投資家からの出資など、着実に事業を拡大してきました。

日吉氏 「日本の農業には高齢化と後継者不足、有機栽培への移行が遅れているという大きな課題があります。そのどれにも、『草取りの大変さ』が共通しており、ソリューションがないから前に進めない。『ミズ二ゴール』には、それを解決できる可能性があるっていうことで本当にいろんなところから注目いただいて。最初のきっかけは『草取りをやりたくない』という自分たちの思いでしたが、それが農家さんの助けになり、地域課題の解決に繋がった。最終的には国全体の課題解決につながっていくかもしれません」

創業4年目となる現在は、水田除草だけでなく、ジャンボタニシ対策や獣害対策など、地域の農に関する課題を解決する事業にも取り組んでおり、日本の持続可能な農業の実現を目指しています。

地域の中で出会った課題感を、社会と繋げながら事業に落とし込む

セミナー後半では、そんな日吉氏の挑戦を伴走してきたスナバの三枝氏から、シビック・イノベーション拠点スナバの紹介や、共創による地域課題の解決についてお話がありました。

スナバには、150人近くの登録者がおり、集まる人たちは、起業家、フリーランス、地域おこし協力隊、会社経営者、会社員、アーティスト、行政職員、小中高生など、さまざまな職種、年代の人たちです。

三枝氏 「多かれ少なかれ、誰もが『こういう地域だったら生きていきたいよね』『地域に対してこういう課題や違和感を持っているとあんまり居心地良くないよね』という思いを持ってるはず。それを『誰かがやってくれるだろう』『行政がやるべき、自分は関係ない』ではなく、自分たちだからこそできることを、小さくてもいいから誰かと一緒にアクションを起こしていく」

スナバでは、そんな人が地域の中でどんどん現れ、地域全体の中でアクションや事業が生まれていくビジョンを掲げています。そういった動きを「シビック・イノベーション」と定義し、それを担う方がどんどん増えていくような環境を作りたいなというところをミッションのもと、さまざまなプログラムを行っています。

たとえば、日吉氏も実際に参加した「SBB(スナバ・ビジネスモデル・ブートキャンプ)」という短期プログラムには、「やりたいことがあるけど、どうしたらいいかわからない」という初期フェーズの方に向けたセッションから、創業計画書の作成など具体的な手法を学ぶセッションがあります。新しく事業を立ち上げる人が、なぜその事業をやるのか、誰のために、どんな課題をどう解決したいのか、という部分を整理して線で繋ぎ、事業に生かすにはどうしたらいいかを一緒に考えます。

三枝氏 「ハタケホットケ社の初動のように、何かやりたいことやできること、人の縁から事業の型を作っていきつつ、ある程度のところまで来たら、未来視点で『事業を通してどんな未来を見たいのとか』『どんなインパクトを作りたいのか」をちゃんと定義しながら、そのビジョンと現状とのギャップを定めて、必要なリソースを特定し、それを集めるような事業計画や、どんな成長スピードでどのぐらいの規模でやっていくか、自分たちが作っていく哲学を入れ込んだ財務収支計画を作ってかないと、事業の持続的な発展は望めません。そのための支援をするプログラムもスナバでは構築しています」

セミナーの最後には、参加者からの質疑応答が行われました。移住直後の生計の立て方や、「ミズ二ゴール」の具体的な機能、どんな人ならスナバに合うと思うか、などのフラットな質疑が交わされ、さらに理解を深める時間となりました。

地域の中で出会った課題を、社会と繋げながら事業に落とし込む。さらに、さまざまな人を巻き込みながら事業を進めていく。その結果、さらに人が集まり、資金が集まり、さらに事業の幅が広がっていく好循環を生み出せる。地域と関わる事業を実現するためのエッセンスが学べるセミナーとなりました。