信州アクセラレーションプログラム成果報告【イベントレポート】

信州スタートアップステーション(SSS)では、長野での創業を考えている方や、支援機関の方向けのオンラインセミナーを定期的に開催しています。
11期目となる令和6年度は、人々のウェルビーイング向上や地域産業の課題解決を目指すソーシャルアントレプレナー3社が採択されています。
3月10日に長野市内で行われた成果報告会では3社の代表が登壇し、事業の内容やプログラムの成果を発表し、発表後は多様な参加者同士のネットワーキングも行われました。当日の様子をレポートします。

まずは長野県経営総合支援課による開会の挨拶のあと、信州スタートアップステーション運営より「アクセラレーションプログラム」についての説明が行われました。
「アクセラレーションプログラム」では、年に2回、公募により選定した企業等を対象に、数カ月間にわたりコーディネーター、メンターが起業家の様々な経営課題に対して短期集中型の伴走支援をします。
対象となるのは、明確なプロダクトやサービスが確立していない段階の創業における「シードステージ」にいる企業や事業者です。課題の解決に向けて、運営受託者のコンサルティングやメンター・アドバイザーによる支援、ヒアリングの機会の設定などを短期間で集中的に行います。
11期目となる令和6年度は、人々のウェルビーイング向上や地域産業の課題解決を目指すソーシャルアントレプレナー3社が採択されています。
いつものコーヒーに健康習慣をプラスする

続いて、各社の成果発表が行われます。まず一人目の登壇者は、株式会社ARARAT CREWS代表取締役・上野真路さん。株式会社ARARAT CREWSは、大学発のベンチャー企業であり、代表である上野さんの食に関する原体験をもとに、食×ヘルスケアの領域で事業を展開しています。現在は、いつものコーヒーにプラスしてヘルスケアをサポートするオイル「PERFECT PERFORMANCE COFFEE OIL」の開発・販売を行っています。
アクセラレーションプログラムでは、まずはSSSコーディネーターとの壁打ちとメンタリングを通じて抽象度の高かった課題の洗い出しと整理を行いました。そこから、具体的なペルソナを設定した上で、プロモーションビデオの撮影、継続率の向上、長野県内の展開という三つの課題を設定し、解決に向けた取り組みを行ってきました。
上野さん 「自分は大学を卒業して長野に帰ってきたので、どこのコミュニティに入ればいいのか、誰とつながればいいかわからずにいました。アクセラレーションプログラムに参加したことで、長野で人とのつながりができたことがこのプログラムに参加した一番の変化です。また、安曇野や松本の経営者の人と話す中で、『若くて頑張っている』というだけで自分を応援してくれる、賭けてくれる人がいると分かったことが自分の支えになりました。どんどん攻めていっていいとわかったので、これからの事業展開に生かしていきたいと思います」
今後は、To Cのサブスクの積み上げを測るほか、珈琲商社や専門人材との強い連携を結んでいるという強みを生かし、商品開発及びコンサルティングや、実店舗の運営に向けてさらなる事業展開を目指します。
農家とデザイナーをマッチングするレベニューシェア型デザイン伴走サービスで地域課題を解決

二人目の登壇者は、農家とデザイナーをマッチングするレベニューシェア型デザイン伴走サービス「nou×nou(ノウノウ)」を提供する株式会社Newtrial.代表取締役の松本寿治さんです。松本さんは、松川村の地域おこし協力隊としても活動しており、任期終了後は本格的な事業展開を目指します。
「nou×nou」は、「これからの農家の伴走者はデザイナーなのではないか?」という仮説から生まれたサービスです。対象となるのは、生産が安定しており、農表事業の規模拡大を目指す中規模農家です。レベニューシェア型により初期リスクを抑え、農家とデザイナーがお互いにコミットしながら農業事業の価値を最大化し、農家の収益向上を支援します。伴走支援を通じて商品価値やブランディングを向上する事で、持続的成長を目指します。
アクセラレーションプログラムでは、主にSSSのネットワーク活用のサポートを通じ、県内農家や「nou×nou」のビジネスに関連がありそうな事業者を洗い出し、アプローチ分析を経て15名にヒアリングを行いました。
松本さん 「最初に長野に来た時は、人とのつながりが無い段階だったので、事業のアイディアがあっても、地域課題に対して誰かと一緒に話してみることが出来ていませんでした。プログラムを通じて県内のさまざまな人と出会って話をし、壁打ちをすることによって、どうしたら話が出来るようになるのかがクリアになっていきました。今後事業を提案する上での道しるべになったと思います。」
ヒアリングを通じ、「サービスを整理し、シンプルでわかりやすい具体的なメニューを作成する必要がある」という課題が見えてきたことから、LPサイトの作成とサービスの見える化に着手。また、サービスを整理することで、「nou×nou」は人手不足で困っている中小企業にも応用できるのではという可能性も見えてきました。
今後は、LPサイトのリビルド、県内でのサービスの展開と実績作り、長野県から全国展開を目指します。
「ネコ科」の女性が自分らしい生き方を見つけるための仕組みを開発

三人目の登壇者は、社会に馴染めない、疎外感を感じる女性のために、自分らしい生き方を見つけるための仕組みやサービスを開発する株式会社ノイエの代表取締役である谷口 絵美さんです。
対象となるのは、発達障がい(ASD)を抱えている女性たち。人に合わせるのが疲れる、ひとりが気楽、家でゴロゴロするのが大好き。谷口さんは、そんな特徴を「ネコ科」と表現し、「ネコ科のニンゲン」の人の自分らしさを応援するサービス「nekoka」を開発しています。
アクセラレーションプログラムでは、福祉サービスに関わる人や支援者、働く女性を中心に困りごとをヒアリングし、現状と課題を洗い出しました。
ヒアリング前は、情報発信のためのWEBサイトの解説や、診断ツールやセルフチェックの開発を考えていたという谷口さん。しかし、ヒアリングを通じ、「診断を受けてもどうしていいかわからない」「重度の障がいを持つ方への支援はあれど、軽度の症状やグラデーションがある場合の支援を探すことが難しい」「お金を稼ぐ手段が必要」という課題が見えてきました。そこで、課題解決のための入り口をつくるだけでなく、スキルアップや就労支援という橋渡しを行い、出口までつくるという事業の方向性が定まりました。
谷口さん「自分がIT業界にいたことから、はじめはオンライン上で完結するプラットフォームの開発を想定していました。今回、ヒアリングを通じて現場の声を聞き、就労支援という課題解決の出口までつくるという事業の道すじが出来たことは大きな変化だったと思います。」
現在は、事業内容をわかりやすく伝えるためのロゴとキャラクターを作成し、啓蒙活動や情報提供に活用していく準備を進めています。また、その次の段階となる、スキル習得の場や、就労移行支援の場づくりに向けて県内の事業者等との連携を進めていきます。
それぞれの発表後には質疑応答の時間が設けられ、事業展開に関する具体的な質問から、アクセラレーションプログラム参加前と参加後の変化についてなど、事業に対する思いに関する質問が寄せられ、熱のこもった言葉が交わされました。
これまで35社がアクセラレーションプログラムに参加しており、かつてプログラムに参加した創業者が次期の採択事業者のヒアリングに協力したり壁打ち相手になるなど、年月を重ねて卒業者が増えるにつれて長野の創業コミュニティが形成されつつあります。今後、長野県初の事業やサービスが大きく成長し全国へと展開していく未来への風向きが感じられる報告会となりました。