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長野から未来を創る6社のチャレンジ「スタートアップ×地域企業 信州ビジネスピッチ」【イベントレポート:後編】
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長野から未来を創る6社のチャレンジ「スタートアップ×地域企業 信州ビジネスピッチ」【イベントレポート:後編】

信州スタートアップステーション(SSS)では、長野での創業を考えている方や、支援機関の方向けのイベントやセミナーを定期的に開催しています。

12月16日に長野市内で開催された「スタートアップ×地域企業 信州ビジネスピッチ」では、基調講演とリバースピッチに続き、長野県内外で活躍する6社のスタートアップによるピッチプレゼンテーションが行われました。

メンタルヘルスケア、体験型エンターテインメント、観光土産EC、食事管理アプリ、食品廃棄物アップサイクル、森林資源循環など、多様な分野で課題解決に挑む起業家たちの熱い思いが語られました。当日の様子をレポートします。

【登壇者】

スタートアップピッチ登壇企業(6社)
株式会社ピノビスタ、SAKE ART LAB.、Local Knot株式会社、株式会社AInnovate、ゴミナクス株式会社、株式会社グリーンベネフィット

基調講演・フィードバック
株式会社MTG Ventures 代表取締役 藤田豪氏

進行役:有限責任監査法人トーマツ

「ゼロからプラスへ」ポジティブなメンタルヘルスケアアプリ「Welloom」

最初に登壇したのは、株式会社ピノビスタの松井氏です。同社は、メンタルヘルスケアアプリ「Welloom」を開発しています。松井氏自身、会社員時代にメンタル不調を経験したことが創業のきっかけだと語りました。

松井氏「日本ではメンタル不調になっても相談する人が少ない。評価が下がるのではないか、偏見を持たれるのではないかという懸念があるからです」

「Welloom」は、AI対話型診断により24時間いつでも利用できるWebアプリです。最大の特徴は、「ポジティブ認知行動療法」を採用している点だと松井氏は説明しました。

松井氏「従来のメンタルヘルスケアは、マイナスをゼロに戻すことが目的でした。しかし私たちは、ゼロからプラスへ、さらなる成長を支援することを目指しています

アクセラレーションプログラムへの参加を通じ、事業戦略が進歩したと振り返りました。当初は利用者数を追い求めていましたが、「数よりも満足度や質を重視する」方向に舵を切ったといいます。ベータ版リリース後2週間で2桁のユーザーを獲得し、諏訪信用金庫から融資も受けることができました。

2025年1月の正式リリース後は、個人向けから法人向けへと展開し、将来的には統合的なウェルネスプラットフォームへの成長を目指しています。

藤田氏からは、「ペルソナをもっと絞り込む必要がある」とのフィードバックがありました。また、「AIだけでなく、人間の要素やコミュニティ機能も検討してはどうか」との提案もなされました。

お酒を飲みながらアートを楽しむ新しい体験「SAKE ART LAB.」

SAKE ART LAB.共同代表である目黒氏は、「ペイント&シップ」という体験型エンターテインメント事業を展開しています。「ペイント&シップ」とは、欧米発祥のお酒を飲みながら絵を描く体験です。2010年代からマーケットが育ちつつあります。

SAKE ART LAB.の展開する事業では、インストラクターの指導のもと、2時間で1つの作品を完成させることができ、友人やグループで楽しめる点が特徴です。約1年間でこれまでに56回開催し、延べ354名が参加。Google口コミでは22件の評価が集まっており、平均5.0という高評価を獲得しています。

アクセラレーションプログラムへの参加を通じて、活動範囲が大きく広がったといいます。松本市での初開催や、小布施町の北斎館とコラボしたイベント、軽井沢のクリスマスマーケットとのコラボイベントも企画し、地域×観光×体験の可能性も感じたと振り返ります。また、そういった特別企画から通常イベントに誘導する導線を作ることもできたと振り返りました。

また、県内6事業者とのミーティングを経て、長野市の善光寺門前で酒蔵「西之門」を運営する株式会社よしのやとの協賛イベントが決定したことも報告しました。

目黒氏「酒蔵で日本酒を飲みながら北斎の絵を描く体験が出来る本イベントは、非常に嬉しいことに告知から一週間以内に満員御礼となりました。酒蔵×アート体験というのは全国的にも珍しいので、可能性やニーズの高さを伺えた結果となりました」

今後は県内6地域への展開を予定しており、将来的にはフランチャイズ展開も視野に入れています。

藤田氏は、「県内展開で広げていくのもいいけれど、酒蔵とアート体験を組み合わせたプログラムとしての展開は今後伸びる可能性がある」と指摘しました。また、「著作権が切れた作品を活用するのは良い戦略だ」と評価しました。

観光土産ECと事業承継を組み合わせた「Knotモデル」

Local Knot株式会社の藤澤氏は、観光土産のECサービスと事業承継支援を組み合わせた独自のビジネスモデル「Knotモデル」を提案しました。

Local Knotが注目するのは、地域の観光事業者の後継者不足による休廃業の問題です。

藤澤氏「現状の課題として、全国的に黒字でも後継者不足で休廃業する企業が50%以上あります。その理由として、後継者不足は3割に上り、後継者不足が地域経済の衰退に繋がっていると私たちは考えています。長野県でも、後継者不在割合は約50%以上となっています」

そこでLocal Knotはまず「受け継ぐ」ことから事業をスタートさせました。長野駅前のホステルを事業承継し、1年で売り上げ1.5倍の事業再生を達成。地域の交流の場として活用を進めています。

アクセラレーションプログラムでは、金融機関や地域の事業者とのヒアリングを行い、事業承継の本質的な問題は「引き継ぎ手不足」ではなく、引き継ぎ元の「案件化不足」だと気づいたことを発表しました。だからこそ、観光事業者と継続的な関係性を保ちながら事業承継を推進する事業が地域に必要だと訴えました。

同社のサービスは、宿泊施設でQRコードを受け取り、客室で商品を閲覧・購入し、自宅に配送されるという仕組みです。特徴的なのは「ストーリーメディア機能」で、商品の背景や生産者の思い、地域課題を伝えることができます。差別化のポイントとして、ストーリー性の重視、地域活動者やインフルエンサーとのコラボレーション商品セット、事業承継との連携を挙げました。

藤田氏からは、「地域の小売店を潰さず協働していく仕掛けが必要。土産屋にQRコードを貼り、そこからの売上に対してキックバックする仕組みも検討してはどうか」との提案がありました。また、「外国人向けにストーリーをどう訴求するか工夫が必要」とのアドバイスもなされました。

「毎月1000円で体重1kg減」食事管理の自動化

株式会社AInnovateの遠藤氏は、食事管理を自動化するアプリを開発しています。毎月1000円の課金で、毎月1kgの減量を目指します。

遠藤氏「既存の食事管理アプリは9割が挫折します。認知負荷が高く、徒労感があるからです」

同社のアプリは、3ステップで完結します。体重計に乗る、帳尻合わせプランが策定される、提案リストから選択する。過去の記録ではなく、未来の行動指針を示す「未来志向」が特徴です。

遠藤氏自身、ボディメイク大会に出場した経験があり、8ヶ月で体重を12kg増やし、その後10kg減らした実績があります。また、大手事業会社でのWeb・アプリ開発経験や、上場企業向けのAI導入実績も持っています。

ターゲットは都内で働く激務の女性で、「食の自制は可能だが、調整する体力がない層」を想定しています。2025年2月のリリース後、1年で1.5万人のユーザー獲得(東京都内中心)を目指し、将来的には英語化して国内外に展開する計画です。

藤田氏は、「ターゲット層からは外れているがぜひ使ってみたい」と興味を示した上で、「価格設定を再検討した方がいい。1000円は安すぎる可能性がある」と指摘しました。

食品廃棄物から価値を生み出すバイオテクノロジー

ゴミナクス株式会社の中島氏は、食品廃棄物から有効成分を抽出し、バイオ製品に転換する技術を提供しています。

同社は長岡技術科学大学発のベンチャーで、35年にわたる研究の蓄積があります。

中島氏「日本の食品廃棄物の85%が焼却処理されており、約424億円の処理費用がかかっています。また、非上場企業の75.1%が脱炭素化ビジネスに未着手で、ノウハウ・人材・技術が不足しています」

同社の技術は、10種類以上の廃棄物から抽出実績があり、各廃棄物に合わせてカスタマイズした抽出が可能です。抗菌性や保湿性の付与、無色透明なフィルムへの加工もできます。

ビジネスモデルは、当初の仲介プラットフォーム型から研究開発特化型へと進化しました。収益源は、特許ライセンス、知的財産権譲渡、仲介手数料です。

アクセラレーションプログラムを通じて、15社以上のアップサイクルメーカーと業務連携を構築し、研究開発から製品化・量産化まで一気通貫で支援できる体制を整えました。

藤田氏からは、「コスト削減よりも高機能化で差別化する方向性が良い。『なくてはならない』製品の開発を目指してほしい」とのアドバイスがありました。

森林資源の循環で地域に新たな価値を

最後に登壇したのは、株式会社グリーンベネフィットの岩見氏です。代表自身が森林組合の参与を兼務する林業従事者という、異色の経歴を持つスタートアップです。

同社の主要事業は2つあります。1つ目は「木の糸事業」で、木材チップからセルロースを取り出し、機能性のある糸にして製品化するものです。大阪・関西万博では医師のユニフォームに採用され、半年間の使用後にリサイクルする計画です。

2つ目は「木材住宅事業」で、根羽村の杉とヒノキを使った木製の災害避難所「Hut(ハット)」を開発しています。

岩見氏「72時間以内に素人でもインパクトドライバー1台で組み立て・解体が可能で、震度6から7の耐震性があります。価格は約300万円で、コンパクトカー1台分のスペースに収納できます」

同社のモデルは、植林から育成、伐採、製品化、リサイクル、再造林という循環型です。特に注目すべきは、「時間価値の創造」という考え方です。東御市のワイナリーと連携し、その年ごとのブドウの木の枝で木の糸を染色して製品化をするなど、年次ごとのコレクションやヴィンテージの概念を持ち込んでいます。

同社はプロジェクト型で運営しており、オープンプロジェクトとして地域の事業者と協業し、各地域の特性を活かした製品開発を行っています。

藤田氏は、「森林組合発のスタートアップは珍しく、完成度が高い」と評価しました。また、「ワイナリーとの連携など、時間価値化の取り組みが秀逸。他地域への展開可能性も大きい」と述べました。

長野から始まる共創の未来

すべてのピッチが終了した後、長野県産業労働部の米沢部長が登壇し、「県としてスタートアップ支援の機会を今後も継続的に増やしていきたい」と今後の展望を語りました。

イベントを通じて、メンタルヘルスからアート、森林資源活用まで、多様な分野で地域の課題解決に取り組むスタートアップの姿が明らかになりました。

また、基調講演やリバースピッチで示された「対等なパートナーシップ」の理念のもと、地域企業とスタートアップが協業する土壌が長野県で着実に形成されつつあることが感じられるイベントとなりました。

今回のイベントは、主催の長野県、協力の長野経営者協会、サポーター企業4社、発表を行ったスタートアップ6社の協力により実現しました。長野県では、今後もこのような出会いの場を継続的に設け、地域のスタートアップエコシステム形成を推進していきます。

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