幼馴染3人で地元のゲストハウスを事業承継。観光業を通して地方創生を目指す【後編】先輩起業家インタビューvol.8
起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。
「本業と並行しながら長野で起業をすることに対しては、もちろん不安はありました。ですが、やはり仲間がいたことが大きかったです。仮に事業が上手くいかなくても、3人なら一緒に楽しめるだろうという信頼がありました。不安はゼロではなかったけれど、期待やわくわく感の方が大きかったですね。」
そう語るのは、長野駅前にあるゲストハウス「Local Knot Backpackers」を運営する鈴木敦也(すずきあつや)さん。松本出身の幼馴染3人組で長野駅前のゲストハウスを事業承継し、それぞれが本業と並行しながら、地元長野で宿を運営し、地方創生に貢献する新たな挑戦を続けています。
インタビュー後編では、実際に引き継いだ後の手応えや、本業を続けながら起業することにどう向き合ったのか、今後の展望についてお聞きしました。
<お話を聞いた人>
Local Knot Backpackers
■藤澤厚太/ KOTAさん
1997年生まれ。長野市/松本市出身。「人や組織の可能性を最大化する」ことをキャリアビジョンとして掲げて活動。ベンチャー企業で戦略/新規事業開発コンサルタントとして活動すると同時にCoach A Academiaを経てコーチとしても活動している。
■堀内勇吾/ UGOさん
1997年生まれ。松本市出身。大学進学を機に東京へ上京。大学在学中はゼミや学園祭実行委員、バイトに心血を注ぎ、密度の濃い学生生活を送った。大学卒業後は2020年に日本の大手総合化学メーカーへ入社。2023年11月にエンジニア人材サービス会社に転職。
■鈴木敦也/Tsuyaさん
1997年生まれ。松本市出身。高校卒業後、管理栄養士を目指し上京。大学在学中は資格勉強の傍ら、飲食店でのアルバイトや留学を通じ様々な「食文化」に触れてきた。現在は都内で管理栄養士として働いており、商品開発やマーケティングに従事。
本業で培ったスキルと経験が、起業の後押しとなった
――インタビュー前編では、たった1ヶ月で事業承継の準備をされたとお話がありましたが、その際に県のサポートや助成金などは利用されましたか?
藤澤さん:とにかく早く動く必要があったので、長野県からのサポートをしっかり調べる時間はほとんどありませんでした。でも、本業で事業計画を検討した経験があり事業の実現可能性のポイントを押さえていたため、日本政策金融公庫へ融資申請する際にも、特に大きな問題なく準備を進められました。今後事業を成長させていくにあたり、長野県からのサポート等もうまく活用していければと思っています。
――本業の知識があったおかげでスムーズに進んだんですね。事業継承後の引き継ぎ作業はどうでしたか?
堀内さん:そうですね。バタバタはしましたが、何とかやり遂げました。契約に関するお金の振込が2月中に済み、3月から4月は毎週末長野に通ってオペレーションや実務の引き継ぎトレーニングを受けました。そして5月にはすべての引き継ぎが完了し、自分たちだけでの運営が始まりました。
――地方では人材確保が難しいと言われますが、働いてくれるスタッフはすぐに見つかりましたか?
藤澤さん:基本的には、もともと働いていたスタッフの方々に引き続きお願いしました。その上で、アルバイトとして大学生やワーキングホリデーで来ていた外国籍の方を数名採用しました。それに、僕らオーナーが常に現場にいるわけではないので、新たに現場ディレクターとして、大学時代の友人を雇いました。彼は長野に住んでいて、信頼できる存在だったので助かっています。
――地元で起業したからこそできる採用のあり方ですね。引き継ぎのあとは、どんなステップを踏みましたか?
藤澤さん:次に取り組んだのは、ゲストの方により快適に宿泊してもらうための施設改修です。「森と水バックパッカーズ」としての運営は順調に続けられていたものの、「ジャーナリングするゲストハウス」という新しいコンセプトを実現するためには、いくつかの課題がありました。築45年という古い建物で、壁のひび割れや床の凹凸、天井のシミなど、直さなければならない箇所が多かったんです。
堀内さん:そこで、改修資金を集めるためにクラウドファンディングを行いました。本当にありがたいことに、約200名以上の方にご支援いただき、必要な資金を集めることができました。驚いたのは、その内95%近くが友人や知人だったことです。まだ引き継ぎ間もない頃からこれほど多くの方々が応援してくれたのは、自分たちの活動が認められたことでもあり、励まされました。
鈴木さん:リターンとしてお礼の手紙を書いていると、地元の同級生や、久しく会っていない友人の名前も出てきて、とても嬉しかったですね。
藤澤さん:僕らの新しい挑戦を信じてくれたことが、とても嬉しかったです。これからもその期待に応えられるよう、深呼吸ができる空間を作り続けたいと思っています。
会社員を続けながらの起業。仲間がいたから不安を乗り越えられた
――「森と水バックパッカーズ」と出会ってから、一気に事業が進んでいったのですね。会社員として働きながら起業するというのは、不安が大きかったのでは?
堀内さん:最初は「経営がうまくいくのか」「口約束で終わってしまわないか」という2つの不安がありました。後者については「僕たちなら大丈夫だろう」と思っていたんですが、経営面では正直すごく不安でした。でも、藤澤が本業で新規事業開発をしていたので、「彼がいれば何とかなる」と感じるようになりました。
鈴木さん:僕も不安はありましたが、やはり2人の存在が大きかったです。これまでずっと一緒に遊んでいたので、仮に上手くいかなくても、一緒に楽しめるだろうという信頼がありました。不安はゼロではなかったけれど、期待やワクワク感の方が大きかったですね。
ただ、実際に事業を継承して正式にオーナーになったときは、プレッシャーを感じ、「もうやるしかない」という気持ちになりました。今は楽しんでやれているので、本当にやって良かったと思っています。
――藤澤さんは本業の経験があるとはいえ、初めての起業に対して不安はありませんでしたか?
藤澤さん:もちろん不安はありました。でも、僕はリスクを分解して考えるタイプなので、一つ一つ不安要素を洗い出し、クリアすれば前に進めるようにしていきました。最終的には「少しの勇気さえあればやれる」という段階まで不安を減らしたことで、逆に、「ここまで準備してやらない方がリスクだ」と感じるようになって。「この挑戦をしなければ、一生何者にもなれない」という思いが大きな原動力になりましたね。
――不安を具体的に分解することで、「やらない方がリスクだ」と感じられるようになったんですね。
藤澤さん:そうです。これも本業での経験が役立ちました。要点を押さえて、それをクリアすれば道が開けるという確信が持てたので、その後の不安もかなり軽減されました。
――地元長野で起業するという選択は、改めて振り返っても正解だったと思いますか?
鈴木さん:東京に行ったからこそ、長野の良さが見えてきた部分があります。長野を出る前は、「長野には何もない」と思っていましたが、東京に行ってみると、東京もお金がなければ何もできないんだと気づいたんです。そう考えたら「何もないなら、自分で作ればいい」と思えるようになり、それから長野のほどよいローカル感が最高だと感じるようになりました。今では長野が大好きです。
堀内さん:長野の良さは上京した時から知っていましたが、創業を経てさらに魅力的な街だと思いました。帰る度に好きになる、そんな街です。そんな自慢の街をもっと色んな人々に知ってもらえるよう、みんなで楽しみながら進んでいきたいです。
藤澤さん:長野にはUターンする人も多いのですが、僕たちのように東京を拠点にしながら二拠点生活をしている人は少ない気がします。僕たちの強みは、東京で得たものを長野に還元できることだと思います。この強みを活かして今後も頑張っていきたいですね
半歩も一歩。歩み続けることが前に進む唯一の手段
――改めて、事業が軌道に乗り始めた今の心境を教えてください。
鈴木さん:一つ大きな「武器」を手に入れた感じですね。目に見える形で「これをやっている」という看板ができたことで、自分たちの活動がはっきり示せるようになりました。まだ目指しているゴールには遠いですが、少し肩の荷が下りた気がします。
堀内さん:僕も、過去と比べるとだいぶ進展があり、落ち着いてきました。ただ、これからを考えると、まだまだやることが山積みですね。僕たちの最終的なゴールは、ゲストハウスを運営するだけではなく、地方経済を活性化させて地域を再生すること。まだその道のりは長いです。
藤澤さん:僕も2人と同じ意見です。お客さんが楽しんでくれている姿を見ると本当に嬉しいし、僕たちもこの場所に来るのが楽しみです。このゲストハウスは、僕たち自身にとっても「居場所」なんです。でも、堀内が言ったように、僕たちが目指しているのはもっと大きなものなので、このゲストハウスで終わるつもりはありません。事業をさらに拡大していきたいですね。今は、まだ0歩目といったところです。
――今後チャレンジしていきたいことはありますか?
藤澤さん:ゲスト同士やスタッフとの繋がりだけでなく、地域住民とももっと繋がれるようにしていきたいと思っています。たとえば、今は長野県立大学の学生さんと一緒に読書会を企画したり、信州大学の建築学科の学生さんたちとリノベーションイベントの企画を進めています。今後も、地域の方々にも来てもらえるようなイベントを増やしていきたいですね。
鈴木さん:せっかく長野で拠点が一つできたので、長野の豊かな食材を活かし、地産地消をテーマにした商品開発をしていきたいです。農家さんと繋がりをつくり、規格外の食材を使って、何か新しい商品が作ったり、食にまつわるイベントができたらいいなと考えています。
――最後に、長野での起業を目指しこれから動き出そうとしている方に向けてメッセージをお願いします。
藤澤さん:僕が伝えたいのは「何者かになりたいなら、一歩の勇気を持つこと」です。僕自身もその一言で動き出すことができました。
堀内さん:一人で悩んでいるなら、仲間を作ることですね。仲間がいれば不安なこともお互いにカバーし合えるし、何より一緒にやることで楽しさが100倍になります。
鈴木さん:僕は「半歩の積み重ね」を大事にしてほしいと思います。人によっては最初の一歩が難しいと感じることもあるかもしれませんが、仲間を集めたり、現場に足を運んだりして、少しずつ動き出すことで道は開けます。僕もその半歩の積み重ねでここまで来られました。なのでみなさんもぜひ「半歩の積み重ね」を大切にしてください。
Local Knot BackpackersのInstagram https://www.instagram.com/local_knot_bp/