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2025.8.13

「花が好き」という想いを、唯一無二の仕事に。理想のライフスタイルを叶える、創業という選択肢【後編】先輩起業家インタビュー

2025.8.13

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

「『好きなこと』と『得意なこと』、『世の中が求めてること』、そして『お金になること』。この4つの円が重なれば重なるほど、それを仕事にしやすくなります。そうすると、仕事が自分の生きがいにつながっていく」

そう語るのは、”花のロスを減らし花のある生活を文化にする” をミッションに掲げ、廃棄されてしまうロスフラワーを用いた店舗デザインや装花装飾を行う株式会社RINを立ち上げた河島春佳(かわしま・はるか)さん。

自分の理想のライフスタイルを叶えるため、20代前半から創業を意識するようになり、自分が熱意を注げる「好きなこと」を突き詰め、着実に事業を形にしていきました。東京で創業し、事業を育ててきた河島さんが、次のフェーズを展開するためのフィールドとして検討しているのが、生まれ故郷である長野県。

インタビュー後編では、駆け出しのフリーランスから法人化を果たすまでの道のりや、今後の展望について聞きました。

<お話を聞いた人>
 株式会社RIN 代表取締役 フラワーサイクリスト®︎ 河島 春佳

長野県小諸市生まれ。大自然の中で幼少期を過ごし自然を愛するようになる。2014年頃から独学でドライフラワーづくりを学び、2017年 生花店での短期アルバイト時に、廃棄になる花の多さにショックを受けたことから、フラワーサイクリスト®︎としての活動を始める。2018年クラウドファンディングで資金を集めパリへの花留学を実現し、2019年ロスフラワー®︎を用いた店舗デザインや、装花装飾 を行う株式会社RIN を立ち上げる。2020年には花農家と消費者の架け橋として開設したオンラインショップ『フラワーサイクルマルシェ』が、農林水産省HPでも紹介。2021年フラワーサイクリスト®︎になるためのスクール『フラワーキャリアアカデミー』をリニューアルし、現在全国の200名以上の卒業生と共に、ミッションとして掲げる “花のロスを減らし花のある生活を文化にする” ために活動中。

自分を見つめ直して気づいた、花への深い想い

©KATO SHINSAKU

――インタビュー前編では、創業に向けて事業の種を育てていくまでの過程をお聞きしました。当時はフラワーアレンジメントなどクリエイティブな側面が主だったと思うのですが、そこから現在の主軸であるロスフラワーにたどり着くにはどんな経緯があったのでしょうか。

「花を仕事にしたい」という軸は決まったものの、いわゆる素敵なフローリストの方はすでに世の中にたくさんいたので、それだけでは仕事にならなかったんです。

「じゃあどうしたらいい?」と自分を見つめ直してみると、私は当時生花よりもドライフラワーをメインに扱っていることに気が付きました。「なぜドライフラワーなの?」と深掘りしていった先に、「お花を捨てるのがもったいない」という思いがあるなと気がついて。そこから、「フードロスのお花バージョンみたいな取り組みができないかな?」とぼんやり思い描き始めました。

そこで、サステナビリティを意識したマルシェを運営している友人に、「廃棄のお花を救うプロジェクトをやっていきたい」と、ざっくばらんにアイデアを話してみたんです。そうしたら、「それは是非、うちのマルシェで販売して欲しい」といい反応をいただけて。話していく中で、「それってフードロスのお花バージョンだから、ロスフラワーだね」「生産者さんの規格外のお花や、お花屋さんで行き場を失った花を救うことで、お花を長く楽しんだり、花のある生活で心の栄養をお届けしていきたい」と、事業のアイデアが固まっていきました。

――自分を見つめ直すことで生まれたアイデアを、さらに人に話すことで形になっていったんですね。

当時から内省と同じくらい意識していたのは、「直感を信じて行動する」「走りながら行動する」というマインドセットでいることでした。会社員時代の「安定を求める保守的な自分」のままでは、自分で仕事を作っていくことが出来ないなと。自分の脳を書き換えることで、自分で生きていくための道を切り開く力を身につけようとしていました。

パリ留学を経て、企業向け事業展開へ

――そのマインドセットがあったからこそ、未経験でも独学で走り出せたのですね。会社を立ち上げるまでの道のりを教えて下さい。

大学職員を退職し、フリーランスとして独立したものの、当時の自分のキャリアを考えると、「未経験」で「独学」のままだったんです。「自分で学ぶ機会を作りたい、かつ、人と違うことをしたい」という思いから、フランス・パリへの海外留学を目指すようになりました。

とはいえ、資金が潤沢にあるわけではなかったので、クラウドファンディングを実施して、ファンとの関係性づくりも同時に行ったんです。2018年に、Facebookの告知だけでクラウドファンディングを実施し、パリでの花留学とワークショップの実施を実現しました。帰国後の仕事につながるように、お花の装飾の定期契約権をリターンに用意しました。ありがたいことに、100人以上の多くの方や、企業の社長さん達にもご支援いただくことができ、帰国後の仕事につながりました。

帰国後の報告会の様子

そうしたパリへの留学経験と、クラウドファンディングでのファンの皆様からの応援をきっかけに、アーティストとして生きていく自信がついて、本格的にロスフラワーをコンセプトに活動していくようになりました。

留学前は、ワークショップやケータリングなど、個人向けのお仕事がメインだったのですが、留学後は企業向けのお仕事が出来るように動きだしました。企業向けの展示会に参加し、3日間で1000枚のチラシを配ったこともあります。

――地道に着実に、事業の種を撒いてきたのですね。

チラシの効果が出て、実際に企業さんとの案件をいくつかいただけるようになりました。そこで、ロスフラワーとフラワーサイクリストの商標を取得し、自分の中でもいわゆるハイブランドさんに起用してもらえそうな事業展開を目指したら、Urban ResearchさんやLUSHさんの店舗装飾や、乃木坂46さんの衣装提供を行うようになり、2019年に法人化を果たしました。

生まれ故郷・長野への想いとこれからの展望

――今後の事業の展望として考えていることはありますか?

副業・フリーランス時代も含めると、これまで10年近く東京で仕事をしてきました。たくさんの人との出会いや、様々な企業さんとのパイプを作り、事業を大きくしてくることができました。

次は、さらに地方に目を向けて、お花の生産者さんに寄り添うお仕事を増やしていきたいと考えています。これまでも生産者さんの元に通ってはきたのですが、実際に自分が地方に住むことによって、生産者さんとの距離が近くなり、心を開いてくれるかもしれません。自分自身、住んでいるからこそ、気づけることもあるんじゃないかなと。

そもそもロスフラワーがどういった過程で出てきてしまうのかを探り、根元から課題解決につなげたり、これまで培ったノウハウを活かした6次産業化のお手伝いだったり、やってみたいことはたくさんあります。ゆくゆくは、地域の雇用を増やしたり、農業と福祉の連携の仕組みを作ったり、地域のお花の魅力の発信もしていきたいです。今の会社とは別に、新しい会社を立ち上げてもいいんじゃないかと考えています。

――その候補地のひとつが、長野県なのですね。

はい。長野県は、お花の生産者さんが多いほか、新幹線が通っているので都市部ともアクセスがしやすいため既存のお仕事も継続しやすい。そして、やはり私の生まれた土地であり、子どもの頃に毎年遊びに来ていた思い出があります。子育て環境としても良さそうだなと。

東京にいる便利さもいいけれど、森の中で暮らすいい意味での不便さが、今の自分にしっくりきて。不便だからこそ、ゆっくり自分の時間を取れたり、内省する時間を大切にしたりできる。自分をリセットできる感覚が心地よくて。

まだどうなるかはわかりませんが、もしこの記事を読んでくれていて、RINに興味を持ってくれる長野の企業の方がいたら、今後何かご一緒できたらうれしいですね。

4つの要素が重なった時、仕事は生きがいになる

――最後に、創業を考えている方向けにメッセージをお願いします。

「好きなこと」と「得意なこと」、「世の中が求めてること」、そして「お金になること」。この4つの円が重なれば重なるほど、それを仕事にしやすくなります。そうすると、結果として仕事が自分の生きがいにつながっていく。

私の場合は「好きなこと」がお花、「得意なこと」がクリエイティブ、「世の中が求めていること」つまり、社会課題としてロスフラワーの活用がありました。そして、それがありがたいことに「お金になること」でした。

無理に「世の中が求めていること」だけにフォーカスしすぎず、「好きなこと」「得意なこと」も大切にしていった方が、事業を継続しやすいんじゃないのかなと私は思います。そうやって、その4つのバランスを見ながら、自分が無理なく続けられる何かを見つけていくといいんじゃないかな。

株式会社RINのホームページhttps://lossflower.com
河島春佳さんのinstagramhttps://www.instagram.com/haruka.kawashima

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2025.8.13

「花が好き」という想いを、唯一無二の仕事に。理想のライフスタイルを叶える、創業という選択肢【前編】先輩起業家インタビュー

2025.8.13

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

「子育てがネックで仕事が出来ないことも、仕事が忙しくて家族との時間が取れないというのもいやだったんです。どちらも叶えたかったのですが、このまま会社員として働いていたら、それは難しそうだぞという体感がありました。独立したら、理想のライフスタイルが描けるんじゃないかというイメージが漠然とあったんです。」

そう語るのは、”花のロスを減らし花のある生活を文化にする” をミッションに掲げ、廃棄されてしまうロスフラワー®︎を用いた店舗デザインや装花装飾を行う株式会社RINの創業者である河島春佳(かわしま・はるか)さん。

自分の理想のライフスタイルを叶えるため、20代前半から創業を意識するようになり、自分が熱意を注げる「好きなこと」を突き詰め、着実に事業を形にしていきました。東京で創業し、事業を育ててきた河島さんが、次のフェーズを展開するためのフィールドとして検討しているのが、生まれ故郷である長野県。

インタビュー前編では、ロスフラワー®︎を軸としたビジネスの着想を得たきっかけや、「好き」を仕事にしていくまでのステップについてお聞きしました。

<お話を聞いた人>
 株式会社RIN 代表取締役 フラワーサイクリスト®︎ 河島 春佳

長野県小諸市生まれ。大自然の中で幼少期を過ごし自然を愛するようになる。2014年頃から独学でドライフラワーづくりを学び、2017年 生花店での短期アルバイト時に、廃棄になる花の多さにショックを受けたことから、フラワーサイクリスト®︎としての活動を始める。2018年クラウドファンディングで資金を集めパリへの花留学を実現し、2019年ロスフラワー®︎を用いた店舗デザインや、装花装飾 を行う株式会社RIN を立ち上げる。2020年には花農家と消費者の架け橋として開設したオンラインショップ『フラワーサイクルマルシェ』が、農林水産省HPでも紹介。2021年フラワーサイクリスト®︎になるためのスクール『フラワーキャリアアカデミー』をリニューアルし、現在全国の200名以上の卒業生と共に、ミッションとして掲げる “花のロスを減らし花のある生活を文化にする” ために活動中。

花のロスを減らし花のある生活を文化にする

――まずは株式会社RINの事業内容について教えて下さい。

弊社では、まだ美しいうちに廃棄されてしまう花を「ロスフラワー®︎」と名付け、この花たちに新たな命を吹き込む事業を展開しています。”花のロスを減らし花のある生活を文化にする”をミッションに、持続可能な花き市場の維持と、花の持つ美しさや価値の再定義を目指しています。

花業界では、フードロス問題と同じように、まだ美しいにも関わらず大量の花が日々廃棄されているという深刻な課題があります。主にカタチが基準に合わなかった、などの理由で、日々、たくさんの生花がまだキレイなうちに捨てられているんです。

具体的な事業は、大きく分けて4つあります。まず1つ目がロスフラワー®︎を用いたブランディング事業で、店舗やブース、ディスプレイの装飾をメインに行っています。装飾事業では、空間装飾だけにとどまらない効果的な施策のご提案を通じて、お客様の取り組みをサポートしています。これまでに、ユニクロやSABON、LUSHなど、様々な企業様とのコラボレーションを実現してきました。装飾で使用したお花をノベルティに加工し、装飾後に発生する廃棄も削減する取り組みも行っています。

2つ目がフラワーサイクリスト®︎のコミュニティ運営です。フラワーサイクリスト®︎とは、ロスフラワー®︎に新たな命を吹き込む人のことです。「サイクリスト」は環境用語である「アップサイクル」からの造語で、ものづくりの力で廃棄品にさらなる価値を与えることを意味します。

花を使って事業をしていきたい方や、アーティストとして活動している方向けに、養成講座「Flower Career Academy」を運営しています。現在全国で200名以上の卒業生が活躍しています。

3つ目が、2020年4月に花農家と消費者の架け橋として開設したオンラインショップ「Flower cycle marche(フラワーサイクルマルシェ)」の運営です。農林水産省花いっぱいプロジェクトでも紹介され、商品を購入することで花の廃棄問題を間接的に支援できる仕組みとなっています。主にバラ農家さんとユリ農家さんから直送でフレッシュな生花をお届けしたり、「花の命を最後まで大切にしたい」という思いから生まれたドライフラワーボックスなどを販売しています。

そして4つ目が教育事業です。私自身が文部科学省の「アントレプレナーシップ推進大使」に就任し、講演会やイベントを通じて「これからの未来を担う人々が、一歩を踏み出すきっかけ」となれるよう取り組んでいます。

また、植物とのふれあいの中で子ども等の豊かな成長を促す花育事業も強化しており、認定NPO法人フローレンスの「こども冒険バンク」などでフラワーアレンジメント体験も提供しています。

理想のライフスタイルを叶えるため、創業という選択肢が浮かんだ

――河島さんは長野生まれと伺っています。これまでの経歴について教えてください。

私は母の故郷である長野県の小諸で生まれました。両親が転勤族だったため、その後全国を転々としたのですが、小諸には長期休みのたびに帰っており、毎年、いつも山や野の花の中で遊んでいました。都内に住んでいる親戚の家に行くと、「なんでここは山がないの?」と疑問に思っていたくらい、幼い私にとって自然は身近な存在でした。

自然と同じくらい、手を動かして何かを作ることも好きだったので、小学生になる頃にはファッションデザイナーを目指すようになりました。当時は「ものを作る=ファッションデザイナー」だと思っていたんです。

大学でもファッションの勉強をしていましたが、就職活動の際にリーマンショックにぶち当たり、憧れていたファッション業界に行けないという挫折を味わって……。そこから「じゃあ、今後自分の軸として生きていきたいことは何だろう?」と考え直した時に、やっぱり自分のクリエイティビティを生かせる仕事がいいなと。そこで、大手おもちゃメーカーのグループ会社に就職し、企画営業や受発注、設計・デザインの仕事を経験しました。

仕事の現場は楽しかったのですが、私は20代前半の頃から「仕事と子育てを両立したい」という思いがあって。このまま会社員として働いていたら、それは難しそうだぞという体感がありました。当時から、自分が独立したら理想のライフスタイルが描けるんじゃないかというイメージが漠然とあったんです。

――創業のアイデアが先というよりは、理想のライフスタイルの実現を考えた先に創業という選択肢があったと。そこからどうやって創業に向けた準備を?

そうですね。子育てがネックで仕事が出来ないというのも、仕事で忙しくて子育てや家族との時間が取れないというのもいやだったんです。どちらも叶えたかった。

「じゃあ、起業できるスキルは何があるかな?」と振り返ってみたら、当時の私にはまだ何もありませんでした。

当時から、いわゆる自己啓発本を読み込んで、自分の好きなことをビジネスにするためのヒントを探していました。その中で、まず「自分が得意とするもの」と、「自分が好きとするもの」を掛け合わせることが大切だと学んだんです。

そこで、ちゃんと地に足がついた状態で、自分が本当にやりたいことを探そうと考え、まずは当時勤めていた会社から休みが取りやすく働きやすい職場に転職しました。フラットな状態で自分を見つめ直せるような環境を重視して大学教員を選び、そこで3年間働きながら創業に向けた準備をしていきました。

職場を変え、時間の使い方を変えることで創業に向けた意識を高めていった

――創業に向けたワンクッションとして、まずは働く環境を変えたのですね。どのように事業のアイデアや方向性を固めていったのでしょうか。

具体的には、時間の使い方を変えました。特に意識していたのは、休日に誰と時間を過ごすかです。なるべく、自分の好きなこと・得意なことを仕事にしている人、もしくはこれからしていきたいと考えている人と会って話すことで、刺激を受けて自分の意識を高めていました。

それから、大学職員は長期休みが多かったので、その時間を使って海外旅行にも行きました。それが今の事業につながるきっかけになったんです。

――詳しく教えてください。

スイスなど、山の景色があるところによく行っていたのですが、帰ってきてから旅の写真を見返すと、山に咲いている野花の写真が半分以上を占めていたんです。そこで初めて「あ、私って花が好きなんだ」と気がつきました。

そこからさらに「自分のクリエイティビティを生かして、花を使った仕事ができないかな」と考え始めました。それがちょうど20代半ばぐらいです。

――自分の中のやりたいことや好きなものが、少しずつつながっていったのですね。そこからは具体的にどんなステップを踏んでいったのでしょうか。

「花が好き」「クリエイティブ」という二軸で考えると、まず一般的にフローリストという仕事があるとわかって。そこで、まずは独学でフラワーアレンジメントのワークショップを企画し、週末に自宅に友人を呼んでワークショップをすることからスタートしました。SNSを使った集客やファン作りもその頃からコツコツと始めていました。

それが徐々に口コミで広がり、カフェなどのお店でワークショップをするようになり、友人以外のお客さんも来てくれるようになり、参加費をいただけるようになり……。それがまた噂になり、LUMINEなど都内の百貨店にも呼んでいただけるようになりました。

小さく始めた一歩が、口コミで広がり、人を呼ぶようになり、外から仕事を持ってきてくれるようになって、徐々に事業として成り立つようになっていったんです。

インタビュー後編では、ロスフラワーという社会課題の解決をコンセプトに事業展開していく過程や、今後の地方での新規事業立ち上げの展望について聞きました。

株式会社RINのホームページhttps://lossflower.com
河島春佳さんのinstagramhttps://www.instagram.com/haruka.kawashima

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2025.7.11

すべての「わたし」を創造的に生きよう。「WE-Nagano」が描く長野の未来【インタビュー後編】

2025.7.11

自分の暮らしをより良くしていくにはどうしたらいいんだろう?

自分に出来ることはあるのかな?

2023年に発足した「WE-Nagano」は、ジェンダー・国籍・世代・セクターを超えて、より良い社会のあり方を地域に根ざしながらグローバルな視座で考えることを目指した長野県立大学発のプロジェクトです。

2025年7月18-19日に開催される第2回Global Conferenceでは、長野で活躍する起業家やプレーヤー、海外からのゲストを含む他分野の実践者と、「わたし」が創造する良い暮らしと地域の未来について考えます。

立ち上げの中心メンバーとして活動する渡邉さやかさんは、自身も30代で起業し、当時の経験からアジアの女性起業家の支援を行ってきました。

インタビュー後編では、地域とグローバルという2つの視点を持つことがどうして大切なのか、第2回Global Conferenceの見どころや、「WE-Nagano」が描く未来についてお話を伺いました。

<お話を聞いた人>
 渡邉さやかさん

長野県出身。長野県立大学大学院ソーシャル・イノベーション研究科 准教授。ビジネスを通じて社会課題を解決できる仕組みを考えたいという想いから、2007年新卒として外資系コンサルティング会社に入社。2011年6月退職。独立後は、被災地での産業活性プロジェクトや、企業途上国・新興国進出支援として、東南アジアだけでなく、中東・中央アジア・アフリカで事業開発に関わる。また、2014年にAWSEN(アジア女性社会起業家ネットワーク)を立ち上げ、アジアを中心に女性社会起業家支援に尽力、現在は国内の女性の創業・起業や就労支援にも携わる。

地域で活動する人と、地域で暮らす人たちに橋をかける

――インタビュー前編では、「WE-Nagano」立ち上げの経緯をお話いただきましたが、昨年の第1回Global Conferenceの手応えはいかがでしたか?

来場者の方からのアンケートで、「長野の歴史が変わる瞬間を見た」「長野でこんな登壇者の方々の話が聞けるなんて思わなかった」「大学でのイベントに参加したことがなかった、大学が身近になった」こういう人の話を聞いたことがなかった」というコメントをいただけたのがとてもうれしかったです。

中には、「近所だけど大学との接点がなかった。面白そうだったから来てみた」「地域の若者の声が聞けてうれしい」という地元の方もたくさんいらっしゃって。せっかく地域で活動する経営者や若者がいるのに、地域の人たちとの接点を持てずにいるのはとてももったいないので、Global Conferenceが人と人との橋渡しのような役割が担えたらと思っています。

去年から今年にかけて、協賛企業やメディアパートナーも増えてきました。2年目にして広がりが出てきたと感じています。今後もさらに同じ思いの仲間を増やしていきたいです。

ビジネスのセクターにいなくても、暮らしや地域を変えていける

――2025年度のカンファレンスの概要と見所を教えて下さい。

今年度は、7月18日(金)と7月19日(土)の2日間、長野県立美術館と長野県立大学三輪キャンパスの2会場で開催します。

DAY1は、長野県立美術館の地下ホールを会場に、昨年の流れを引き継ぎ「女性が切り拓く新たなキャリアと社会」、「グローバル視点から考える女性の力と地域イノベーション」、「長野県から考える『誰もが幸せに暮らす地域』」の3つのセッションを行います。

DAY2は、長野県立大学三輪キャンパスで、「10-20代が考える『生きやすい地域』」、「『わたしを生きる』とは」、「わたしたちが創造する『良い暮らし』『良い地域』~多様性の視点から、寛容性のある社会について考える生かして~」の3つのセッションを行います。

昨年度は、ビジネスの視点で『良い企業』について考えるセッションが中心でしたが、今年はより身近な『良い暮らし』をどう創造できるのかという視点に変わりました。

また、今年はさらに若者の参加者を増やしたいと思い、長野市内の高校等にもお声がけしています。性別や年齢、属性など、あらゆる垣根を越えて一緒に考える機会になればいいなと思っています。

「自分にもできるかも」というアントレプレナーシップの醸成を

今年度のセッションの登壇者たち

――地域とグローバル、両方の視点を大切にされているのはどうしてですか?

アジア女性起業家ネットワークを立ち上げた後に、アジアの女性起業家を日本各地に呼んでいたんですが、東京だけでなく、岩手の陸前高田や長野の諏訪、沖縄の離島など地方でのイベントも意識的に企画していました。

すると、「英語を話せない」「グローバルを意識したことがない」という人でも、言語の壁を越えて同じ女性だからこそ共感できる悩みというのがたくさんあったんです。私はそこに可能性を感じて。

私が意識したいのは、いわゆるスーパースター的な経営者としての姿だけではなく、個人のストーリーを見せることです。女性起業家が別世界の存在ではなく、「意外と一緒じゃん」というところから、関心を持ったり、自分のやりたいことを考えるきっかけになればと思っています。

――今の長野県について、どのような課題意識をお持ちですか。また、「WE-Nagano」を通して長野がどう変わっていくことを望んでいますか?

第1回「WE-Nagano Global Conference」でも、10-20代のセッションを企画

日本財団の18歳意識調査によると、長野県は「自分には人に誇れる個性がある」と考えている人の数が最下位なんです。これはとても残念なことですし、大きな課題だと考えてます。

「WE-Nagano」が掲げるテーマは、「女性」と「グローバル」という大きな軸がありますが、今年度は「若者のアントレプレナーシップ醸成」にも力を入れていきたいと思っています。それを踏まえ、今年のカンファレンスのテーマも、「わたしたちが創造する良い暮らし、良い地域」にしました。

起業をする人の背景には、身近なロールモデルの存在が非常に大切だと言われています。地域の若者が「自分にも何か出来るかも」と思うきっかけになってほしいです。

登壇者の言葉があなたの暮らしを変えるヒントになるはず

――今年は特にどんな方に参加して欲しいですか? 来場者に向けたメッセージをお願いします。

まだ「起業したい、起業を考えている」というわけじゃなくても、「これからどうやって生きていこうかな」「地域の中で活動しているんだけれどうまくいかないな」とモヤモヤしている人にも、ぜひ来ていただきたいです。

結婚・出産といったわかりやすいライフイベントだけじゃなく、キャリアの変化や移住などの環境の変化があった人、一方でグローバルな動向に興味がある人にも響く内容になっていると思います。

「ちょっと面白そうだから行ってみよう」「その日たまたま暇だから行ってみようかな」という理由でも、登壇者の誰かの言葉から、なにかしら自分の暮らしを変えていくヒントを得られるところがあるはずですよ。


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2025.7.11

すべての「わたし」を創造的に生きよう。「WE-Nagano」が描く長野の未来【インタビュー前編】

2025.7.11

自分の暮らしをより良くしていくにはどうしたらいいんだろう?

自分に出来ることはあるのかな?

2023年に発足した「WE-Nagano(Women Entrepreneurs Nagano)」は、ジェンダー・国籍・世代・セクターを超えて、より良い社会のあり方を地域に根ざしながら世界史座で考えることを目指した長野県立大学発のプロジェクトです。

2025年7月18-19日に開催される第2回Global Conferenceでは、長野で活躍する起業家やプレーヤー、海外からのゲストを含む他分野の実践者と、「わたし」が創造する良い暮らしと地域の未来について考えます。

立ち上げの中心メンバーとして活動する渡邉さやかさんは、自身も30代で起業し、当時の経験からアジアの女性起業家の支援を行ってきました。インタビュー前半では、渡邉さんご自身のキャリアや、「WE-Nagano」立ち上げの経緯について伺いました。

<お話を聞いた人>
 渡邉さやかさん

長野県出身。長野県立大学大学院ソーシャル・イノベーション研究科 准教授。ビジネスを通じて社会課題を解決できる仕組みを考えたいという想いから、2007年新卒として外資系コンサルティング会社に入社。2011年6月退職。独立後は、被災地での産業活性プロジェクトや、企業途上国・新興国進出支援として、東南アジアだけでなく、中東・中央アジア・アフリカで事業開発に関わる。また、2014年にAWSEN(アジア女性社会起業家ネットワーク)を立ち上げ、アジアを中心に女性社会起業家支援に尽力、現在は国内の女性の創業・起業や就労支援にも携わる。

地域に根ざしながら、グローバルな視点とアントレプレナーシップを醸成

――まず、WE-Naganoの概要を教えて下さい。

「WE-Nagano(Women Entrepreneurs Nagano)」は、長野県立大学が主催するプロジェクトで、すべての「わたし」が創造的に生きることを応援する取り組みです。地域に根ざしながらグローバルな視点を持ち、より良い社会や未来をつくっていくために、議論や交流を行っています。

名称の “W” (Women) は、これまでの社会システムとは異なる視点という意味での女性的リーダーシップの必要性や、現代社会で未だ可能性を拓ききれていない女性という存在への期待を表現しています。

また、”E” (Entrepreneurs) には、起業家精神、つまり、自らの可能性を信じ、新たな世界を拓いていく姿勢を、事業を起こす人に限らずすべての人が持てるようにという願いを込めています。

2023年1月頃から有志で準備を進め、2024年3月8日の「国際女性デー」にプロジェクトの発足をお知らせできることとなりました。事務局は、長野県立大学・大学院の教員や学生が務めており、年齢やジェンダーや国籍を超えて、幅広い参加者の皆さんが集い、共に考え、交流してもらえる機会になればと願い、活動しています。

第1回「WE-Nagano Global Conference」の様子

昨年は、「グローバル/ローカル(地域)/イノベーション・女性(女性的リーダーシップ)」をキーワードに、長野市で第1回「WE-Nagano Global Conference」を開催しました。

国内外のスピーカーによるセッションやワークショップを通じて、アントレプレナーシップ(起業家精神)を持つ一人ひとりが、国籍・性別・世代・分野を超えて未来を創造していく場として今後も継続していきます。

――「すべての『わたし』を創造的に生きよう」というメッセージがとても印象的ですね。

私たちは、多様な生き方を創造していくことを、広義に「起業」と呼んでいます。すべての人が、創造的に生きていくこと。生き方としての起業について考えること。そうした動きが、地域をより進化させ、持続的な社会を生み出していくと信じています。

30代で起業し、地域に入り込んだ経験から生まれた思い

――渡邉さんご自身も起業を経験しており、長年東南アジアの女性起業家支援の活動を行っていると伺っています。「WE-Nagano」立ち上げには、ご自身の経験からくる思いも込められているのでしょうか。

まず私の経歴からお話すると、私は長野県の出身ですが、進学と同時に上京して長野を離れ、大学と大学院では国際協力や国際政治、途上国支援について学んでいました。卒業後は、ビジネスを通じて社会課題を解決できる仕組みを考えたいという想いから、2007年新卒としてIBMビジネスコンサルティングサービス(現 日本IBM)に入社しました。

東日本大震災をきっかけに、2011年から陸前高田市に通うようになり、地元の気仙椿の実を活用した化粧品開発・販売の事業を立ち上げました。

しかし、2013年から大手美容メーカーが同じく気仙椿を使用した事業を開始したんです。それにより、地元の方々の間で「採った椿の実を、さやかちゃんの会社に渡せばいいのか、○○社に渡せばいいのか」と、混乱を生んでしまって。

地域のために何かをしたいと始めた事業でしたが、「よそ者」である私がどうやって地域に関わっていくのかを考え始めるきっかけとなりました。

ちょうどその頃、ミャンマーは民主化が進み、東南アジア各国への外資企業の参入が加速的に増えていました。規模は違えど、私が経験したようなことが向こうでも起きているのではないかと。どんどん外からの参入があり、変化が起きる中で、起業家達はどうやってその地域の良さや文化を守りながら経済開発を進めているのか興味を持ち、個人的にアジア諸国に通い始めたんです。

――ご自身の経験が、東南アジアの女性起業家支援につながったのですね。

最初の頃は、とにかく自費で現地の起業家を周りました。その結果、地域の良さを守りながら事業を進めている起業家たちは社会起業家と呼ばれていることが多く、更には特に女性たちが地域に根ざしてビジネスをしていることがわかりました。また、国や地域が違えど女性の社会起業家はみんな似た課題を抱えていることや、孤立しがちなことがわかってきて。

課題解決のためにはまずネットワークが必要だと、当時日本財団からご支援をいただき、2014年に「アジア女性社会起業家ネットワーク(AWSEN)」を立ち上げました。

出産と子育てをきっかけに働き方を考え直し、長野にUターン移住

――グローバルに活動を展開していたところから、長野にフィールドを移したのはどうしてですか?

第1回「WE-Nagano Global Conference」ではモデレーターも務めた渡邉さん

「アジア女性社会起業家ネットワーク(AWSEN)」を立ち上げてから、他の仕事も含めて、毎月1~2回は海外に行くような生活を送っていたんです。この生活を続けていたら、もし結婚をしたとしても子どもを産んで育てるのは難しいだろうな、もし子どもを欲しいと思うのであれば、いずれは働き方を変えないといけないなと考えていました。

30代後半で結婚して子どもを授かり、「もう頻繁に海外に行くことも難しくなるだろうし、自分が育ったような自然が近くにある土地で子育てをしながら働きたい」と考えていた頃に、長野県立大学の大学院立ち上げにあたり教員をしないかとお話をいただいたんです。

長野には実家もありますし、子育て環境も良さそうだったので家族で長野にUターンしてきました。

――そこから「WE-Nagano」立ち上げにもつながっていくのですね。

長野県立大学は、ミッションとしてグローバル発信、リーダーシップ育成、地域イノベーションを掲げています

前長野県立大学の理事長を務めていた安藤国威さん(現在は長野県立大学顧問)の「地域イノベーションの要は、女性である」という想いと、私の「アジアの女性起業家コミュニティと長野をつなげたい」という想いから、今後の地域イノベーションのあり方について、「女性的な」リーダーシップやグローバル視点を加え、長野県から発信・交流していく機会を作ろうと「WE-Nagano」が動き出しました。

インタビュー後編では、第1回Global Conferenceを終えての手ごたえや、今年の見どころを伺います。
▷「WE-Nagano」の詳細、カンファレンスの申し込みはこちら

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2025.7.7

総合商社から信大発ベンチャーへ|AKEBONOが描く信州発グルテンフリー事業の未来【後編】先輩起業家インタビュー

2025.7.7

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

「みんながみんな全く同じことやっていたら競合してしまうと思うんですが、それぞれの強みを生かして連携できれば、お互いに成長していくことができる。そういう広がりを今後も増やしていければ」

そう語るのは、信州大学発ベンチャー「AKEBONO株式会社」を立ち上げた井上格(いのうえ いたる)さん。創業から5年、AKEBONO株式会社は50団体以上の生産者と連携し、年間10〜15トンのソルガム生産体制を構築しています。グルテンフリー専門店「縁-enishi-」のオープンなど、事業はさらに広がっています。

インタビュー後編では、創業から5年が経つ現在や、今後の展望を聞きました。

<お話を聞いた人>
 AKEBONO株式会社 代表取締役 井上 格

栃木県出身。早稲田大学大学院卒業後、東京の商社に就職。2018年に長野市地域おこし協力隊として着任し、翌年から「ながのブランド郷土食」社会人スキルアップコース※1を履修し、そこでの学びを基にAKEBONO株式会社を設立。同社は信州大学発ベンチャーとして認定されており、ソルガム研究の第一人者である信州大学の天野良彦元学部長との連携のもと事業を展開している。

※1 信州大学大学院総合理工学研究科の個性・特色を生かしつつ、長野市と連携し、企業からは実務家講師を迎え、食品製造分野での技術革新を担う人材を創出し、地域経済の活性化と発展に貢献することを目的とする社会人向けプログラム

グルテンフリーを軸に、他社との関わりを増やして市場全体の底上げを目指す

――インタビュー前編では、創業までの経緯をお聞きしました。転機になったという6次産業化と店舗経営について詳しく教えて下さい。

「縁-enishi-」の人気商品、ソルガムを使用したグルテンフリーのドーナツ

はじめはソルガムの生産・販売を事業の軸に据えていましたが、「ただソルガムを素材として売り込むだけでは事業が広がらない」と感じ、2020年から自社での商品開発と店舗経営に向けて動き始めました。

コロナの関係でオープンまでは時間がかかりましたが、2023年にグルテンフリー食材を扱うアンテナショップ「縁-enishi-」を長野市内にオープンしました。実際に売り場を持ったことで、どんな人が買いに来るのかとか、どういう商品が売れるのかなど、リアルなニーズが見えてくるようになりました。

また、「縁-enishi-」では、自社製品だけでなくあらゆるグルテンフリー食材や商品を仕入れて販売しています。そうすることで、グルテンフリー食材を扱う同業他社との横のつながりや、協力体制ができてきたんです。

――協力体制というのは?

たとえば、「縁-enishi-」はソルガムを使ったパンの開発に力を入れているのですが、同じくグルテンフリー食材を使った焼き菓子などのお菓子を展開している企業から、OEMでの商品開発をお願いされることが増えました。逆に、うちでは出来ない商品開発をしている企業から商品を仕入れて販売をすることもあります。

現在は、今年オープンするイオンモール須坂での出店準備を進めています。そこでは、ソルガムを使用した自社商品に限らず全国各地のグルテンフリーの商品を仕入れて販売しようと思っていて。セレクトショップのような形ですね。グルテンフリー食品の開発に取り組む企業を競合他社として見るのではなく、一緒に協業できるようなお店になればいいなと思っているんです。

みんながみんな全く同じことやっていたら競合してしまうと思うんですが、グルテンフリーという文脈では一緒でも、例えばパンとお菓子では市場がちょっと違いますよね。それぞれの強みを生かして連携できれば、お互いに成長していくことができる。そういう広がりを今後も増やしていければいいなと思います。

事業成長の鍵は、ブレない軸と柔軟な方向転換

――創業から5年が経ちますが、事業を継続させていくために意識してきたことはありますか?

固定観念にとらわれず、ちょっとずつ修正していったり方向転換をしたりと、常にピボットし続けることを意識してきました。

「絶対にこれをやるんだ」という信念も大切ですが、いざやってみて「手応えがないな」と思ったら、ずっとそれをやり続けるよりも、ちょっと変えてみるとか、周りから言われたことを「そういう手もあるか、やってみよう」と柔軟にチャレンジしてみる。

僕の場合は、ソルガムが一つの軸としてあったので、「うまくいかないから、もうソルガムはやめる!」とはなりませんでした。でも、どう展開するかは生産と販売だけにこだわらなくなった。自分のなかの譲れないものは何なのかを見極めるバランスが大事だと思います。

――6字産業化と「縁-enishi-」のオープンもまさに柔軟な転換でしたね。

実は、当時は本当に行き詰まっていて。あの時「縁-enishi-」の営業を始めなかったら、今頃AKEBONOの事業自体がもう終わってしまっていたかもしれません。

あのまま「ソルガムを素材として売る」というところから脱却できずにいたら、きっと。セールストークを磨く、資料を充実させる、広告を打つなど「どうやったらみんな買ってくれるだろう?」という方向に突き詰めてしまっていたと思うんです。でも、それは事業展開ではなく単なる営業の仕方の話になってしまいますよね。

それでも突き詰めればブレイクスルーできたのかもしれません。でも、その方向性ではイオンにグルテンフリー食材のセレクトショップを持つなんて未来はきっとありませんでしたし、いまある関係性も築けなかった。

――AKEBONOの今後の展望を教えて下さい。

AKEBONOは創業5年以上が経ち、転換期を迎えています。「自分たちの事業を立ち上げよう」というフェーズから、「市場全体をもっと大きくしていこう」という目標が見えてきました。

グルテンフリーという大きな文脈さえ交わっていれば、いろんな企業さんやお店、プレーヤーの方々といろんな関わり方ができる。これからAKEBONOは、グルテンフリー業界全体を引っ張って底上げしていける存在になれたらいいなと強く思っています。「自分たちだけがうまくいけばいい」と考えるのではなく、グルテンフリー市場全体を大きくして、みんなでメリットを享受できることを目指していきたいなと。

今はさらなる事業成長のために、信州スタートアップステーションで資金調達の相談をしているところです。創業を考えている人や、創業直後の企業だけでなく、自分たちのように創業から数年が経って成長段階の企業へのサポート体制があるというのも長野のいいところだなと改めて感じています。

長野での起業を目指す後輩へメッセージ

――最後に、長野での創業を考えている人に向けたメッセージをお願いします。

これは私自身が会社員時代に言われたことなんですが……、一度「起業したい」と思ってしまうと、多分その気持ちはやってみるまで一生消えないと思うんです。思いは一生消えない。それなら、あなたはいつやるの?と。成功するにしても失敗するにしても、早い方がいい。そう言われて、自分は一歩踏み出すことができました。

そもそも経営者としての働き方が自分に合うか合わないかは実際にやってみないとわからないですし、どうしても時間が経てば経つほどリスクが増えてしまうと思うんですよ。結婚しました、子供できました、家を買います……、いろんな「失敗できない理由」がどんどん積み重なっていく。

であれば、やり直しが利く身軽なうちにやってみるというのは、合理的な考え方です。成功すれば早く成果を得られるし、そこからさらなる成長のために使う時間がいっぱいあると。失敗するにしても、早いうちに失敗しておくと、やり直しがききます。

僕は、20代のうちに一歩踏み出して、「長野で起業する」という夢を叶えられてよかったと思っています。今起業を悩んでいる人にも、「まず一歩踏み出してみて」とメッセージを贈りたいです。

株式会社AKEBONOのホームページ 

グルテンフリー専門のアンテナショップ「縁-enishi-」のホームページ

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2025.7.7

総合商社から信大発ベンチャーへ|AKEBONOが描く信州発グルテンフリー事業の未来【前編】先輩起業家インタビュー

2025.7.7

起業する。会社を立ち上げる。「創業」と一口にいっても、そのあり方は人それぞれ。同じ選択や道筋は一つとしてありません。魅力的な先輩起業家が数多く活躍している長野県。SHINKIの先輩起業家インタビューでは、創業者の思いやビジョン、創業の体験談や、本音を掘り下げます。

「学生の頃から『いつか起業したい』という思いがあり、ずっときっかけをずっと探していました。子どもの小麦アレルギーがわかったときに、自分の課題と社会課題をリンクさせることができるなと感じて。ちょうどその頃に長野市と信州大学がソルガムという穀物の生産に力を入れていることを知ったんです」

そう語るのは、信州大学発ベンチャー「AKEBONO株式会社」を立ち上げた井上格(いのうえ いたる)さん。井上さんは、小麦アレルギーを持つ息子のために安全な食材を探す中で信州産の「ソルガム」という雑穀と出会い、事業化の可能性を感じて長野市に移住し、創業に向けて動き始めました。

インタビュー前編では、ソルガムとの出会いや、長野への移住から創業に至るまでの道のりを聞きました。

<お話を聞いた人>
 AKEBONO株式会社 代表取締役 井上 格

栃木県出身。早稲田大学大学院卒業後、東京の商社に就職。2018年に長野市地域おこし協力隊として着任し、翌年から「ながのブランド郷土食」社会人スキルアップコース※1を履修し、そこでの学びを基にAKEBONO株式会社を設立。同社は信州大学発ベンチャーとして認定されており、ソルガム研究の第一人者である信州大学の天野良彦元学部長との連携のもと事業を展開している。

※1 信州大学大学院総合理工学研究科の個性・特色を生かしつつ、長野市と連携し、企業からは実務家講師を迎え、食品製造分野での技術革新を担う人材を創出し、地域経済の活性化と発展に貢献することを目的とする社会人向けプログラム

信州産ソルガムでグルテンフリー市場拡大を目指す

――まずは株式会社AKEBONOの事業内容を教えて下さい。

信州産ソルガムを中心とした食品の生産・加工・販売を行っています。具体的には3つの事業があって、1つ目がソルガムを中心とした信州産食材の生産・流通を行う地産商社としての事業。2つ目がグルテンフリー食品のOEM製造受託事業、そして3つ目がグルテンフリー専門のアンテナショップ「縁-enishi-」での食品販売です。

――ソルガムとはどんな素材ですか?

ソルガムは世界5大穀物の一つとされ、日本では「タカキビ」「モロコシ」とも呼ばれているイネ科の雑穀です。アフリカ原産で、紀元前約3000年前から栽培され始め、インドやアジアなど広範囲に広がっていきました。

日本には遅くとも平安時代に伝来したといわれており、信州でも古くから栽培され、米の代用でお餅として食べられていました。最大の特徴は、グルテンフリーでアレルゲンフリーということ。さらにGABAやポリフェノール、食物繊維なども豊富に含まれているスーパーフードなんです。

栽培も比較的簡単で、山間地域でも育ち、耕作放棄地の活用にも適しています。現在は、50団体以上の生産者さんと連携して、年間10〜15トンのソルガム生産体制を構築しています。

長野県でのソルガム研究についての歴史は長く、現在も信州大学、長野市と産学官連携で地域循環型社会実現の鍵として信州産ソルガムの普及に努めています。

――お子さんの小麦アレルギーが発覚したことがAKEBONOの創業につながったと伺っています。もともと「起業したい」という思いはあったのでしょうか。

大学生ぐらいの頃から漠然と「いつか起業したい」という思いがありました。しかし、具体的なアイデアはなく、ずっときっかけを探していました。大学院卒業後は東京の総合商社に就職し、国内外いろんなところを周りながら「自分の好きな場所はどこか」「やりたいことは何か」を探し続けていました。

そんな中で、妻の実家がある長野市を何度も訪れるうちに、「ここが一番自分に合っているな」という感覚があって。次第に「いつか長野で暮らしたい、起業するなら長野がいい」という思いが大きくなっていったんです。

子供の小麦アレルギーがきっかけで総合商社を退職、長野移住と創業を決意

――日本各地や世界を見た上で、「長野で起業したい」という思いが生まれたのですね。

「長野で起業したい」と思い始めてからは、約5年ほど会社員を続けながらタイミングを見計らっていました。

具体的な事業のアイデアが固まる前から、「信州ベンチャーサミット」に参加するなどアクションを取っていたことで、長野や起業に関わる人とつながりができたことは大きかったと思います。今でもお世話になっている信州スタートアップステーションのコーディネーターである森山さんとは、移住前から顔見知りだったんです。そうして長野とのつながりを少しずつ増やしながら、いざチャンスが来たときに一歩踏み出せるようにちょっとずつアクションを重ねていました。

――そこから現在の事業を思いつくまではどんな経緯が?

ソルガムという素材自体を見つけられたのは本当にたまたまでした。

長男の小麦アレルギーがわかったとき、「これなら自分自身の課題と社会課題をリンクさせることができる」と感じ、グルテンフリー食材を扱う事業のアイデアが生まれたんです。

そこから、「長野で何ができるだろう」といろいろと調べていく中で、ちょうど信州大学と長野市がソルガムを普及するプロジェクトを行っていると知って。長野市でソルガムの普及活動をする協力隊の募集があったので、そこに飛び込んだんです。

そうして2018年に長野市地域おこし協力隊として着任・家族で長野市に移住し、翌年から「ながのブランド郷土食」社会人スキルアップコースを履修し、そこでの学びを基にAKEBONO株式会社を設立しました。

――長野で起業したからできたことや、得られた支援はありましたか?

もともと「長野で暮らしたい」という思いがあったので、「来てよかったな」というのが素直な感想です。田舎過ぎず都会過ぎず、でも自然があって。生活面でも子育てする上でも、私にとってはとてもバランスがいいです。「やっぱり東京に戻りたい」と思ったことは一度もありません。

また、私が移住してきた当時はまだ移住者も起業家も珍しかったので、創業前から新聞やテレビなどさまざまメディアに取り上げていただいたことは、その後の営業活動において非常に助かりました。都会での起業ではこうはいかなかっただろうなと。

産学連携が生んだ信州大学発ベンチャーならではの強み

――移住後は、実際にどのようなステップで事業化を進めていったのですか?

まずはソルガムを育てるところからですね。ソルガムは農作物なので、年に1回しか採れないんです。なので、「ソルガムで事業をやろう!」と意気込んで長野にやってきたものの、初年度はまだ売るものがない状態でした。

まずは信州大学や生産者の方と連携してソルガムを育てつつ、「ソルガムという素材があるのですが、来年収穫できたら使ってもらえますか?」と地道にヒアリングや営業を重ねていきました。また、同時に行政や金融機関・支援機関と相談をしながら法人化に向けた準備を行いました。

――まずはソルガムを育てるところからのスタートだったのですね。現在AKEBONOでは、50団体以上の生産者と連携し、耕作放棄地の活用にも乗り出していますが、生産者側との連携はどのようにアプローチしていったのでしょうか。

生産者さんとの連携については、やはり行政や信州大学と一緒にやらせていただけたことが大きかったと思います。まずは地域の農家の方さん向けにセミナーや講習会・報告会を開いていただき、そこに来てくださった方々に種を配布することから始めていきました。

県外から来た20代の起業家が、いきなり農家さんに直接電話して「おたくの畑でソルガムを作ってくれませんか」とアプローチしていくのはさすがにハードルが高すぎたと思います。生産の面では、長野で信頼の厚い信州大学が間に入ってくれたおかげで、一気に事業が進みました。

――創業当初の2019年は、まだグルテンフリー市場自体が小さく、ソルガムという素材も認知されていなかったと思います。どのように市場を広げていきましたか?

大学・行政は特定の企業への営業はできないので、販売を進めるための営業活動は自分が担っていました。今でこそグルテンフリーという言葉は共通言語みたいになりつつありますが、当時は小麦アレルギーやグルテンフリーという概念自体がまだ全然浸透しておらず、最初の頃はなかなか大変でしたね。

特に1年目は先ほどお話ししたようにソルガム自体が収穫前で素材もなかったので、正直しんどい部分もありました。「今後グルテンフリーの流れが来ますよ」「そもそもソルガムというのは……」とゼロから説明していくことが必要でした。

最初は、ただソルガムを生産して「この素材を使って何か作ってください」と売り込みさえすれば事業が成り立つと思っていたんですが、それだけではなかなか広がらなかったんです。ソルガムは、小麦粉の代わりにそのまま使えるとはいえ少し使い方にノウハウやコツがいります。そのため、ただ説明するだけでは実際に使っていただけるまでのハードルが高く、どれだけ営業を続けてもそんなに手応えがなくて。

そこで、「まずは自分たちがやってみよう」と、創業当初は想定していなかった6次産業化や店舗経営にも踏み出すことにしたんです。これがAKEBONOにとって大きな転機になりました。

インタビュー後編では、創業から5年を経た現在の事業と、今後の展望について聞きました。株式会社AKEBONOのホームページ
グルテンフリー専門のアンテナショップ「縁-enishi-」のホームページ

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2025.6.25

地方起業と事業計画の重要性【SSSセミナーレポート】

2025.6.25
イベント/セミナー/研修を探している とりあえず事業の相談がしたい

信州スタートアップステーション(SSS)では、長野での創業を考えている方や、支援機関の方向けのオンラインセミナーを定期的に開催しています。

2025年夏期は、ビジネスのアイデア出しから事業計画の作成までみっちりサポートする全4回の創業セミナーをオフライン・オンライン配信併用で開催します。

6月17日に行われた第1回目のセミナーでは、「地方企業と事業計画の重要性」をテーマに、株式会社つばさ公益社 代表取締役の篠原憲文氏を迎え、地方ビジネスにおける事業計画の作り方や金融機関との付き合い方、地方ならではの課題と機会についてお話をいただきました。セミナーの様子をレポートします。

【登壇者】
株式会社つばさ公益社 代表取締役 篠原憲文氏

「家族葬のつばさ」創業7年、東信エリア10会館運営。明治大卒。メリルリンチ日本証券、eBay Japan、Macromedeia(現Adobe)勤務。日本DX大賞、信州ベンチャーサミット最優秀賞など。

進行役:信州スタートアップステーション コーディネーター 

篠原氏は、創業7年で10店舗を展開する葬儀会社を経営しています。

「丸いノコギリ」の教訓:準備の重要性

セミナーの冒頭で篠原氏から紹介されたのは「丸いノコギリ」の話でした。木こりが切れないノコギリで木を切り続けているのを見て、なぜ刃を研がないのかと聞くと「忙しいから」と答えたという話です。

「順番が違うわけです。最初にしなければいけないのは刃を研ぐこと。しっかり準備をした上で木を切るべきなのに、切れないノコギリでずっと時間を使っていると」

自身も、信州スタートアップステーション(SSS)を活用して事業計画書の作成支援や銀行融資の相談をし、金融機関との「共通言語」を学んだ経験を振り返りました。まずは知識をつけて自分自身のノコギリを研ぎ、相手と文脈を合わせたり、考えを理解したりすることで、話が伝わり事業の実現に力を貸してもらえるようになるのです。

さらに、篠原氏は「事業計画は信頼を作るためのツール」と語ります。

「事業計画書は、銀行や投資家に事業の実現可能性を示すだけでなく、チームとの共通の言葉や向かっていく方向性を示すものとなります」

そのため、客観性の担保の重要性と、主要な財務諸表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)を読めるようにしておく必要性が強調されました。

地方企業のメリットと課題

続いて、地方起業には都市部にはない独自の強みがあると篠原氏は説明します。特に地域資源の活用については、特産品や文化資源を活かした差別化がしやすく、独自性を生み出しやすい環境があるといいます。

「特に、ふるさと納税みたいなチャンスを活用して極端に大きくなった会社って実はたくさんあって。例えば徳島県には創業初年度に売り上げ10億、2年目30億みたいな会社もあります。実はチャンスの種というのは今地方にすごくたくさんあるんじゃないかと」

また、コスト面では都市部と比較して人件費や家賃を抑えられ、初期投資を小さくできるメリットがあります。地域課題への取り組みについても、地域の問題解決に取り組むことで応援されやすい環境があると語りました。

「どこを掘っても地域は問題だらけだから、その地域の問題解決を頑張ろうとすると、みんなから応援されやすいみたいな環境がある。さらに、キーマンとすぐに繋がれることも強みです。ネットワーク構築のしやすさも地方の良さだなと感じます」

一方で、地方企業特有の課題についても率直に語られました。最も重要な課題として挙げられたのは顧客の獲得。次に地方特有の市場の小ささが問題となります。

「顧客獲得に関しては課題があるなというのは、自分で事業をやっていても感じます。シンプルに人が少ないとか、販路がないとか、どの属性にターゲットを定めるんだとか、さらにどう広げるんだとか。従来に地方になかったような文脈で集客するなど、工夫をする必要があると思います」

ただし、これには両面性があり、競争が少ないという利点もあると説明されました。

また、特に強調されたのがキャズム理論の重要性でした。新商品・サービスがイノベーター(2.5%)、アーリーアダプター(13.5%)から一般顧客(アーリーマジョリティー)に移行する際に現れる「深くて大きな溝」について詳しく説明されました。

特に地方では、都市部なら成立するニッチなビジネスも、興味関心を引く人の絶対数が少ないがゆえに成立しないケースが多いため、時間と資金を考慮に入れた事業計画が不可欠だと強調されました。

「nice to have(あったらいい)」と「must have(ないと困る)」の違い

さらに篠原氏は、「実は支出管理が事業計画の7割だと個人的には思っています」と続けます。予測が難しい売り上げに対し、支出はコントロールできるという観点から、家賃、人件費、在庫など管理可能な項目をしっかり計画することの重要性が説明されました。

特に注目すべきは固定費で、「固定費がゼロだったらいつまでも継続できる」という視点から、「死なない事業計画」を作ることが強調されました。

その上で篠原氏は、長年の経営経験から、事業計画でよく見られる典型的な失敗パターンについて説明しました。最初に挙げられるのが過大な売上予測です。根拠のない楽観的な見込みで初期段階での過大評価をしてしまうケースについて語りました。

「ピカピカキラキラのオフィスや、人件費を過剰に取り過ぎるなど、固定費を最初からかけすぎてしまうのは逆効果。多くの場合で、初期顧客からメインストリームに移るまでに資金ショートを多くの場合で起こしてしまいます。創業初期の経営者が陥りやすい落とし穴として、キャッシュフロー管理の失敗も挙げられます」

続いて篠原氏は、よく見落とされがちな市場調査の重要性について、自身の経験を踏まえて警鐘を鳴らしました。

「仮説を作ってコンセプトを作った段階で『絶対に行ける!』と熱が上がってしまい、気づくと、ちゃんとした市場調査もしないうちにプロダクトを作って売り始めてしまうみたいなことが起きやすい。やっぱり熱を持って作るサービスやプロダクトというのは目線が偏っていて、とてもじゃないけど客観的ではなく、自分にしかわからない理論で組み立てられてることがあります」

そこで、ニーズを見極める重要なポイントとして「nice to have(あったらいい)」と「must have(ないと困る)」の違いを理解することの重要性が実例を交えて語られました。

「『あったらいいよね』から、お友達相手にプロダクトを作りました、『いいね』と言ってくれたから始めました、それで全然売れないということがすごくよくあると。結局、そこに痛みが生じていて、『ないと困る』から、お金払ってもでも解決したいことなら、確かに入っていけるんだけども、『あったらいいよね』は基本売れないし、友達の評価は全く当てにならない」

「勝てる場所で戦う」地方企業のポジショニング戦略

地方でのビジネス展開について、篠原氏は「勝てる場所で戦う」ことの重要性を強調しました。

まず、先行者がいることのメリットについて説明しました。一見すると競合がいることは不利に思えますが、むしろ市場の存在証明になると語ります。

次に、メインストリームの横にあるニッチ市場への着目と、セグメントやコンテンツを絞った戦略の有効性について詳しく説明されました。

「僕自身が地方で起業して思うのは、地方での創業は、先行している成功者がいる上で、ニッチかつ独自性のある領域がいいなと思ってます。メインストリームの横に、セグメントやコンテンツが絞られてる世界があると。例えば、メインストリームであるゴルフの、左利き用だとか女性専用、大きいサイズのゴルフウェア。メインストリームの横に流れているニッチで独自性を発揮して圧倒的に勝つ」

セミナーの最後は、「言われた通りやるのは難しいが、言われた通りやったら成功することがたくさんある。スマホの時代は情報がコモディティになったため、行動で差をつけましょう」というメッセージで締めくくられました。

今後の創業セミナーでは、アイデア出しと市場分析、事業計画書作成、事業計画のブラッシュアップを行っていきます。

長野での創業を考えている方や、創業して間もない方、中小企業等で新規事業をご担当されている方はぜひご参加下さい。
詳細・お申し込みはこちら

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2025.6.24

【SSWコラム】souが事業として目指すこと

主催:SSSW
募集期間:2025/06/24〜2026/03/31
2025.6.24
イベント/セミナー/研修を探している

県内全エリア

「なぜsouは、女性の創業や起業を支援するのか?」
今回はその背景にある“社会の今”についてお話ししたいと思います。

⚫︎長野県に見るジェンダー格差の現実
長野県は、2025年に発表された都道府県別のジェンダーギャップ指数で全国20位。
一見そこまで悪くない順位にも見えますが、実は「経済」の分野だけを見ると37位と大きく順位を下げています。特に「男女賃金格差」「管理職の女性割合」「社長の男女比」などで、全国ワーストに近い水準にあるのが現実です。

共同通信:都道府県別ジェンダーギャップ指数2025 https://digital.kyodonews.jp/gender2025/data/20?year=2025

信濃毎日新聞でも、2025年元日から「ともにあたらしく〜ジェンダー地方から〜」という連載が始まりました。ここではデータと当事者の声の両面から、地方における性差の実態が丁寧に描かれています。

ある調査によれば、「性別が理由で長野県を出たいと思ったことがある」と答えた人は、女性が圧倒的に多く、家庭内の役割分担においても「理想」と「現実」が大きく乖離している様子が浮かび上がっています。

信濃毎日新聞(2025年1月1日)https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024123100283

⚫︎「起業」を選びにくい空気
加えて、長野県の若者の意識にも気になる傾向があります。

日本財団の「18歳意識調査」によると、長野県の18歳は「自分の力で社会を変えられる」と思っている人の割合が全国でも低く、「自分には人に誇れる個性がある」と答えた割合は最下位でした。

こうした若者の意識は、私たち大人の社会がつくってきた空気の中で育まれてきたものかもしれません。

世界に目を向けてみると、起業活動は社会課題の解決や自己実現の手段としてますます注目を集めています。しかし、日本はその波にうまく乗れていない国の一つです。失敗を許さない風土や、ロールモデルの不足、起業を選択肢に入れづらい教育や文化。
その中でも長野県は、さらに起業への心理的・社会的ハードルが高い地域であることが、様々な調査から見えてきます。

⚫︎souが大切にしていること
こうした背景の中で、souが目指しているのは、単なる「起業支援」ではありません。

「自分には、人に誇れる何かがある」
「自分の力で、社会は変えられる」
「人の力を借りながら、自分の力を発揮していい」

そんなふうに思える人を一人でも増やしていくこと。それこそが、souの原点であり、これからも変わらない私たちの目指す未来です。

⚫︎2025年度の3つの取り組み
2025年度、souでは以下の3つの柱で活動を展開します:

sou-ME事業(全6回)
 「好き」や「大切にしたいこと」を形にして、事業化を考えるプログラム

sou-Nagano事業(全6回)
 自分だけでなく「地域の幸せ」も事業にしていく、共創型の起業支援

sou-Mentors事業(毎月随時)
 気軽に相談できる個別メンタリング。2023年度から継続実施中

いずれのプログラムも参加無料。個別相談も回数に制限はありません。
自分の可能性を信じたいとき、ちょっと誰かに話を聞いてほしいとき。
ぜひ、souを頼ってみてください。

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2025.6.9

起業家を長野県で育てていく。起業文化醸成のための工夫

2025.6.9
イベント/セミナー/研修を探している とりあえず事業の相談がしたい

長野県から世界を目指す起業家・経営者を全力で支援する、創業支援拠点運営事業信州スタートアップステーション(SSS)。

前回の記事では、長野県産業労働部経営・創業支援課の関遼樹さんに、長野県が目指すスタートアップ支援の形について、お話を伺いました。

今回は、長野という土地で起業家の芽を増やし、育てていくための構想や、取り組みについて、お話を伺いました。

<お話を聞いた人>
関遼樹(せき はるき)さん

長野県産業労働部 関遼樹(せき はるき)さん

長野県産業労働部 経営・創業支援課主任。長野県職員、デロイトトーマツベンチャーサポートへの出向を経て、2023年に長野県庁へ復帰。アクセラレーションプログラム、スタートアップ拠点構築事業に従事し、地域イノベーターとして、地域課題解決とビジネスの両立を目指す。

地元中小企業とスタートアップのマッチングで生まれる、新たな潮流

実は私は三年前、スタートアップ支援をする東京の会社に出向していました。そこで運営していたモーニングピッチというイベントがありまして、毎週木曜日の朝7時から、毎週5社のスタートアップが、大企業の社員や役員に向けてピッチをするんです。

――朝七時に人が集まるのですか?

それが集まってくるんです。「始業前のアツい人たちが来る」というコンセプトでしたね。

参加企業と、ピッチをしたスタートアップ企業間につながりが生まれるよう、イベント開催後のフォローアップもしっかり行っていました。こういった活動を行うことで「投資につながった」「協業関係になった」などの結果も出ていました。一種のコミュニティ形成ですね。

この時の経験から、「スタートアップだけにアプローチをしていては、足りない。」という気づきがあり、地元の中小企業と、スタートアップのつながりが生まれるような仕組みを、長野でも作っていこうと考えました。

――長野でこういった活動を広げていく上での工夫はありますか?

まずは、長野の企業に向けて、リーディングカンパニーの事例を見てもらうようにしています。長野の有名企業がスタートアップと連携して、こんな成果が出ています、という事例をイベントで講演してもらうことで、「こんなことをやっているんだ」と、まずは興味を持ってもらう。そして「それならうちでも、できるかもしれない」と自分ごとに置き換えてもらう工夫を行っています。皆さんが知っている企業の実例、となれば、やはり皆さんに響きますね。

その次の段階として、長野県ならではの産業、例えば食品に特化した企業間でマッチングを行うことで、成立の確度を上げていきます。スタートアップが「点」だとすれば、大企業は大きな「面」で、この「点」と「面」をうまくクロスさせていきたいですね。

スタートアップ育成の観点でいくと、実は県外との協業も進めています。昨年度は大阪でイベントを開催したり、本社が長野ではないけれど、拠点が長野にある企業とも話をしたり、様々な角度から、取り組みを行っています。

起業文化を醸成していく上での、2つの課題

――こういった取り組みの中で、課題に感じていることはありますか?

大きくは二つあります。一つ目は、まだまだ起業が当たり前じゃない、という空気感です。

スタートアップへの資金調達環境も十分とは言えません。堅い言葉で言えば、スタートアップエコシステムの拡充・定着を進めていかないといけません。

――起業して終わりではなく、そこからずっと続いてくのが経営なので、維持していく難しさはありますね。

もう一つの課題としては人材育成の難しさです。

一般的なこどもの教育過程の中で、「自分で課題設定をして何かをやる」機会って、実はあまり無いと思っています。教科書には既に質問が書かれていますよね。

しかし、ビジネスでは自分で課題設定をしないといけません。自分で創造するために必要な考え方を、高校・大学に至る過程で身に着ける機会があれば、起業人口の裾野はもっと広がっていくのではと考えています。

――確かに、教科書に書かれたことをただ学習するカリキュラムでは、そこを身に着けるのは難しいと感じています

「課題の設定」と「じゃあそれをどうするか」という思考がセットにならないのが悩ましいところで、我々は、先輩起業家の講演などのセミナーを通して、皆さんが学べる機会を提供するようにしています。知識をまずはインプットして、それをどう応用していくか、という考え方が大切ですね。

セミナーも、多くの方を集めてやる内容もあれば、「資金調達」や「資材の調達」など少人数でしっかり戦略的にやるものもあります。繰り返し見ていただけるように、youtubeで視聴できるようにもしていますよ。

起業をもっと当たり前のものにしていくために、様々なセミナーをこれからも企画していきます。

女性起業家支援の取り組み

女性は、子育てなどで一度ビジネスシーンから離れると、これまで通りの仕事に戻ることに、困難を感じられることも多いかと思います。

起業やご自身の活動に関する悩みを相談したい女性に向けての、女性相談員の窓口も設けています。

SOU

特徴的なのは、1:1の相談だけではなく、様々な女性相談員に、横の関係で話を聞けることです。起業は法人化が前提では、決してありません。自分の想いを形にするために、少しだけやってみる、その挑戦を後押しできたらと考えています。女性の利用者も年々増えていますよ。

今年は女性起業家向けの連続講座も企画中なので、楽しみに待っていていただけたらと思います。

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2025.6.9

競争力のある企業を育てるために。長野県が描くスタートアップ支援の形

2025.6.9
イベント/セミナー/研修を探している とりあえず事業の相談がしたい

長野県から世界を目指す起業家・経営者を全力で支援する、創業支援拠点運営事業信州スタートアップステーション(SSS)。

今回は、長野県産業労働部経営・創業支援課の関遼樹さんに、長野県が目指すスタートアップ支援の形について、お話を伺いました。

<お話を聞いた人>
関遼樹(せき はるき)さん

長野県産業労働部 経営・創業支援課主任。長野県職員、デロイトトーマツベンチャーサポートへの出向を経て、2023年に長野県庁へ復帰。アクセラレーションプログラム、スタートアップ拠点構築事業に従事し、地域イノベーターとして、地域課題解決とビジネスの両立を目指す。

スタートアップが競争力をつけるための「ファンド」

――長野県では様々なスタートアップ支援をされているかと思いますが、これから特に推進していきたい取り組みについて教えてください。

長野県産業労働部 関遼樹(せき はるき)さん

我々が実現したいビジョンは、「競争力のある企業を生み、次世代産業を創出していく」ことです。県が起業家達のチャレンジを後押しするために力を入れているものの一つに「ファンド」があります。「ファンド」による出資とは、簡単に言えば、月々の返済が必要なく、株と引き換えに、企業が資金を調達する仕組みです。

――返済が必要ないのですか!

はい。ただ、やはり株を渡すので、企業として一定の成長を求められる面はあります。やりたいことがあるのに、なかなか金融機関からの融資が付かない方に、知っていただきたい仕組みです。

――利用者はいらっしゃるのですか?

令和4年度からこれまでに20社の利用実績があります。年間数件なので、昨年一年間の創業の件数が約1300件であることを考えれば、ファンドの利用者はごくごく一部という現状です。

やはり一定の資本がないと、やりたいことを実現させたり、大きくしていくことは難しく、スタートアップ企業に競争力をつけてもらうためにも、利用者を増やしていきたいです。

――ファンドを利用するのは、ハードルが高いのではないでしょうか?

ファンドを利用したいと申し出があった場合には、これまで数多くの地方創生ファンドを運営してきたミライドア株式会社(東京都)や、SSSのコーディネーターが支援を行います。まずはご相談いただければと思います。

長野という土地で、ビジネスにしっかりと挑戦できる環境を整えていくことが、我々の大切な役割です。起業のために地方から東京へ出ていくケースは多いですが、逆に、広大なフィールドがあり、競合も少ない長野で起業する方が、起業に適している場合もあります。
実はファンドは県内企業でなくても、長野県内に拠点を設けている企業であれば利用ができて、現在3社のスタートアップがファンドを利用しています。

――ファンドの利用者を増やしていくためには、ある程度ビジネスの土台ができている人を増やしていく必要がありそうですね。

そうですね。ファンドの前段階として、どなたでもSSSの窓口をぜひ利用してもらえたらと思います。SSSの窓口に来てもらえれば、「こういうことをやりたい」「こういう世界を実現したい」というアイデアをコーディネーターと壁打ちしながら、形にしていくことができます。

資金調達の方法としては、融資、補助金、投資などがありますが、ビジネスモデルが合っていれば、ファンドの利用をコーディネーターがサポートをしますので、ぜひ利用していただたらと思います。

競争力のある企業を育てるために、既存企業を巻き込みたい

――「競争力のある産業を生んでいく」ために他にも取り組まれていることはありますか?

一社だけ業績がバンと伸びても、長野県の産業全体には響かないと思っています。スタートアップの盛り上がりを、局地にとどめないためにも、既存企業をどんどん巻きこんでいきたいと考えています。

県内の既存企業も「新規事業をどう進めていけばいいのだろう」「経営課題にどう向き合えばいいのだろう」という課題に常に悩まされています。そこで、スタートアップと手を取り合うことで、解決の糸口が掴めるかもしれません。

スタートアップは、経験豊富な既存企業の知見やリリースを活用できて、既存企業はスタートアップの新しい目線やアイデアに触れることができる。お互いにメリットを享受できるというわけです。

また、東京ではなく、長野だからこそできることを意識したいです。例えば、長野県は製造業が盛んで、精密加工の高い技術を持った企業がたくさんありますよね。実はそういった企業は、ヘルスケア部門のスタートアップと相性が良い。精密機器の技術は「検査」「小型化」に強いので、スタートアップのアイデアを掛け合わせることで、新たなビジネスの創出が期待されます。

――社会の高齢化も進んでいきますし、需要が高そうですね。

人体は世界共通なので、市場としては非常に広いと考えています。

また、食や観光も長野の強みなので、日本酒・ワイン・発酵食など、バラエティ豊かな県内企業がたくさんあります。そういった企業と、スタートアップが手を組むことで、これまでに無い面白い取り組みが生まれるのではないかと考えています。

スタートアップと既存企業のマッチング

――そうなってくると、両者の出会いの場がもっと欲しいですね。

県内企業とスタートアップの接点を増やすためのイベントも開催しています。2024年10月に長野市、2025年2月に諏訪市でオープンイノベーションフォーラムを開催し、合計254社にご参加いただきました。

信州ベンチャーサミット

信州オープンイノベーションフォーラム

これからは、既存企業からも、スタートアップへ歩み寄る仕組みを作りたいと考えています。ここで問題となってくるのが、スタートアップと地域の既存企業のスピード感の違いですが、両者の間に入って、コミュニケーションをスムーズに進めるための橋渡しをするのがSSSのコーディネーターです。実はSSSではイベントの開催だけではなく、そのあとのフォローアップにも力を入れているのですよ。

――具体的にはどのようなことをされているのですか?

例えば、先ほどの信州イノベーションフォーラムの参加者に対してアンケートを実施し、その回答をもとに、起業や金融機関との面談のコーディネートなどを行っています。イベントをやっておしまいではなく、きちんと次に繋げて、結果が出るようにしてます。これからも、既存企業とスタートアップ企業がお互いに歩み寄れるような取り組みをどんどん進めていきます。

ARTICLE
2025.3.10

信州アクセラレーションプログラム成果報告【イベントレポート】

2025.3.10

信州スタートアップステーション(SSS)では、長野での創業を考えている方や、支援機関の方向けのオンラインセミナーを定期的に開催しています。

11期目となる令和6年度は、人々のウェルビーイング向上や地域産業の課題解決を目指すソーシャルアントレプレナー3社が採択されています。

3月10日に長野市内で行われた成果報告会では3社の代表が登壇し、事業の内容やプログラムの成果を発表し、発表後は多様な参加者同士のネットワーキングも行われました。当日の様子をレポートします。

成果報告会は長野市内のイベントスペース「FEAT.SPACE」で開催され、オンラインでもイベントの様子が配信されました。

まずは長野県経営総合支援課による開会の挨拶のあと、信州スタートアップステーション運営より「アクセラレーションプログラム」についての説明が行われました。

「アクセラレーションプログラム」では、年に2回、公募により選定した企業等を対象に、数カ月間にわたりコーディネーター、メンターが起業家の様々な経営課題に対して短期集中型の伴走支援をします。

対象となるのは、明確なプロダクトやサービスが確立していない段階の創業における「シードステージ」にいる企業や事業者です。課題の解決に向けて、運営受託者のコンサルティングやメンター・アドバイザーによる支援、ヒアリングの機会の設定などを短期間で集中的に行います。

11期目となる令和6年度は、人々のウェルビーイング向上や地域産業の課題解決を目指すソーシャルアントレプレナー3社が採択されています。

いつものコーヒーに健康習慣をプラスする

続いて、各社の成果発表が行われます。まず一人目の登壇者は、株式会社ARARAT CREWS代表取締役・上野真路さん。株式会社ARARAT CREWSは、大学発のベンチャー企業であり、代表である上野さんの食に関する原体験をもとに、食×ヘルスケアの領域で事業を展開しています。現在は、いつものコーヒーにプラスしてヘルスケアをサポートするオイル「PERFECT PERFORMANCE COFFEE OIL」の開発・販売を行っています。

アクセラレーションプログラムでは、まずはSSSコーディネーターとの壁打ちとメンタリングを通じて抽象度の高かった課題の洗い出しと整理を行いました。そこから、具体的なペルソナを設定した上で、プロモーションビデオの撮影、継続率の向上、長野県内の展開という三つの課題を設定し、解決に向けた取り組みを行ってきました。

上野さん 「自分は大学を卒業して長野に帰ってきたので、どこのコミュニティに入ればいいのか、誰とつながればいいかわからずにいました。アクセラレーションプログラムに参加したことで、長野で人とのつながりができたことがこのプログラムに参加した一番の変化です。また、安曇野や松本の経営者の人と話す中で、『若くて頑張っている』というだけで自分を応援してくれる、賭けてくれる人がいると分かったことが自分の支えになりました。どんどん攻めていっていいとわかったので、これからの事業展開に生かしていきたいと思います」

今後は、To Cのサブスクの積み上げを測るほか、珈琲商社や専門人材との強い連携を結んでいるという強みを生かし、商品開発及びコンサルティングや、実店舗の運営に向けてさらなる事業展開を目指します。

農家とデザイナーをマッチングするレベニューシェア型デザイン伴走サービスで地域課題を解決

二人目の登壇者は、農家とデザイナーをマッチングするレベニューシェア型デザイン伴走サービス「nou×nou(ノウノウ)」を提供する株式会社Newtrial.代表取締役の松本寿治さんです。松本さんは、松川村の地域おこし協力隊としても活動しており、任期終了後は本格的な事業展開を目指します。

「nou×nou」は、「これからの農家の伴走者はデザイナーなのではないか?」という仮説から生まれたサービスです。対象となるのは、生産が安定しており、農表事業の規模拡大を目指す中規模農家です。レベニューシェア型により初期リスクを抑え、農家とデザイナーがお互いにコミットしながら農業事業の価値を最大化し、農家の収益向上を支援します。伴走支援を通じて商品価値やブランディングを向上する事で、持続的成長を目指します。

アクセラレーションプログラムでは、主にSSSのネットワーク活用のサポートを通じ、県内農家や「nou×nou」のビジネスに関連がありそうな事業者を洗い出し、アプローチ分析を経て15名にヒアリングを行いました。

松本さん 「最初に長野に来た時は、人とのつながりが無い段階だったので、事業のアイディアがあっても、地域課題に対して誰かと一緒に話してみることが出来ていませんでした。プログラムを通じて県内のさまざまな人と出会って話をし、壁打ちをすることによって、どうしたら話が出来るようになるのかがクリアになっていきました。今後事業を提案する上での道しるべになったと思います。」

ヒアリングを通じ、「サービスを整理し、シンプルでわかりやすい具体的なメニューを作成する必要がある」という課題が見えてきたことから、LPサイトの作成とサービスの見える化に着手。また、サービスを整理することで、「nou×nou」は人手不足で困っている中小企業にも応用できるのではという可能性も見えてきました。

今後は、LPサイトのリビルド、県内でのサービスの展開と実績作り、長野県から全国展開を目指します。

「ネコ科」の女性が自分らしい生き方を見つけるための仕組みを開発

三人目の登壇者は、社会に馴染めない、疎外感を感じる女性のために、自分らしい生き方を見つけるための仕組みやサービスを開発する株式会社ノイエの代表取締役である谷口 絵美さんです。

対象となるのは、発達障がい(ASD)を抱えている女性たち。人に合わせるのが疲れる、ひとりが気楽、家でゴロゴロするのが大好き。谷口さんは、そんな特徴を「ネコ科」と表現し、「ネコ科のニンゲン」の人の自分らしさを応援するサービス「nekoka」を開発しています。

アクセラレーションプログラムでは、福祉サービスに関わる人や支援者、働く女性を中心に困りごとをヒアリングし、現状と課題を洗い出しました。

ヒアリング前は、情報発信のためのWEBサイトの解説や、診断ツールやセルフチェックの開発を考えていたという谷口さん。しかし、ヒアリングを通じ、「診断を受けてもどうしていいかわからない」「重度の障がいを持つ方への支援はあれど、軽度の症状やグラデーションがある場合の支援を探すことが難しい」「お金を稼ぐ手段が必要」という課題が見えてきました。そこで、課題解決のための入り口をつくるだけでなく、スキルアップや就労支援という橋渡しを行い、出口までつくるという事業の方向性が定まりました。

谷口さん「自分がIT業界にいたことから、はじめはオンライン上で完結するプラットフォームの開発を想定していました。今回、ヒアリングを通じて現場の声を聞き、就労支援という課題解決の出口までつくるという事業の道すじが出来たことは大きな変化だったと思います。」

現在は、事業内容をわかりやすく伝えるためのロゴとキャラクターを作成し、啓蒙活動や情報提供に活用していく準備を進めています。また、その次の段階となる、スキル習得の場や、就労移行支援の場づくりに向けて県内の事業者等との連携を進めていきます。

それぞれの発表後には質疑応答の時間が設けられ、事業展開に関する具体的な質問から、アクセラレーションプログラム参加前と参加後の変化についてなど、事業に対する思いに関する質問が寄せられ、熱のこもった言葉が交わされました。

これまで35社がアクセラレーションプログラムに参加しており、かつてプログラムに参加した創業者が次期の採択事業者のヒアリングに協力したり壁打ち相手になるなど、年月を重ねて卒業者が増えるにつれて長野の創業コミュニティが形成されつつあります。今後、長野県初の事業やサービスが大きく成長し全国へと展開していく未来への風向きが感じられる報告会となりました。

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2025.4.28

「創業してみたい」気持ちがあれば大丈夫。相談窓口を利用してみませんか?

2025.4.28
イベント/セミナー/研修を探している とりあえず事業の相談がしたい

4月に新年度を迎えた信州スタートアップステーション(SSS)。
今年度も長野県から世界を目指す起業家・経営者を全力で支援する、創業支援拠点運営事業を進めて参ります。

さて、この創業支援のキーとなる活動の一つである【窓口での創業に関する無料相談】。

コンサルタント、中小企業診断士、会計士等の経験豊富なコーディネータが、相談者の創業・新規事業に関する相談対応を行い、アイデアの事業化を支援しています。

長野市にある信州スタートアップステーションnagano(長野)

「相談窓口、ちょっと気になっているんだよね」
「私なんかが行ってもいいの?」
と、思っている方もいらっしゃるのでは?

今回は、SSS立ち上げから1200件超の支援実績を有す、創業支援コーディネーター森山祐樹さんに、SSSの相談窓口について、お話を伺いました。

窓口の利用状況からみる、長野県の創業事情

――どのような方が相談に来られているのでしょうか?

信州スタートアップステーションnaganoの様子

件数とすると、年間数百件の相談依頼があります。SSSの活動がスタートしてからずっと、安定して、多くの方に足を運んでいただいていますね。その中から実際に何人もの方たちが、創業されています。

エリアとしては、長野市や松本市の方が多いですが、長野への移住を前提として東京から相談に来られる方もたくさんいらっしゃいますね。移住創業に対する相談ニーズの大きさがうかがえます。

年代でみると、30代が圧倒的に多いです。相談のボリューム層である30代においては、女性の相談数が男性を超えているのも特徴的ですね。

――SSSでは女性の創業支援にも力を入れていますよね

はい。SSSでは、長野で起業している、もしくは起業したいと考えている女性の方々のための支援事業にも力を入れています。

事業アイディアのブラッシュアップなど起業に関する相談をはじめ、仕事と家庭・子育てとのバランスやコミュニケーションの取り方など、幅広く相談をお受けします。女性の支援員も多く在籍していますよ。相談場所は、ニーズに応じて、オフラインまたはオンラインをフレキシブルに選択可能です。

――自分の得意なことや、好きなことで輝けるといいですよね

「やりたい」という気持ちだけで大丈夫。気軽に相談に来てほしい。

―――創業のアイデアやプランが無いと、利用できないのでしょうか?

そんなことはないですよ!

「創業してみたい」という気持ちがあれば大丈夫です。皆さん、ご自身の趣味や得意なこと、興味があること、何かしらあると思うのですが、そういったところから、我々がお話をお伺いして、事業に膨らませるために、壁打ちのディスカッションをしていきます。

特定のものが決まっていない、事業のアイデアになるかわからないけど…という方もたくさんいらっしゃいます。3つくらい、バラバラのアイデアを持ち込まれる方もいらっしゃいますね。そういった方たちと、新しい事業を共に作り上げていくお手伝いをするのが、私達の役目です。

そもそも創業に興味がない、興味があるけどまだ手元に何もない、という方たちに向けて、幅広く相談の裾野を広げ、ご参画していただくことで、創業人口をさらに増やしていきたいと考えています。

長く相談を続けていると、「知り合いが相談に乗ってもらったと聞いて」と、紹介で来てくださる方もいらっしゃいます。旦那さんのあとに、奥さんが、というように、夫婦で利用されたケースもありますね。

――相談員の方、気さくで話やすい方が多いと感じます

そうですね、我々は創業をもっと身近に感じてもらいたいと思っています。なるべく視野が狭くならないように、できるだけオープンに、広い視点で相談者がアドバイスを受けられるよう心がけています。「とりあえず興味があるから来てみました」、大歓迎ですよ。

――不安の大きな資金面の話も、相談できますか?

もちろんです。資金についても、金融機関からの融資だけではなく、今はクラウドファンディングなど、様々な選択肢があります。融資についてのリアルなお話なんかもできるかと思います。

セミナーも年間を通して多数企画しているので、ぜひイベント情報はSNSや当サイトからこまめにチェックしてみてください。

相談窓口のスケジュールは以下に掲載しています。

SSSコーディネーター常駐日カレンダー

信州スタートアップステーションウーマン(SSSW)の常駐日カレンダー

ご相談の際は、ご希望日時・場所、ご相談内容、お名前、ご住所(市町村まで)、ご希望の相談員(任意)等の情報をFBメッセンジャー ・メール(shinshuss@tohmatsu.co.jp) ・電話(070-4548-2758)よりご連絡ください。信州スタートアップステーションでお待ちしております!